第004話 答えを射出

 こっちのテンションも若干下がったけど、説明は淡々と続けられた。


「特定の職業に就いた冒険者は、マギを一部譲渡して他の同職業の方々と共有する事が出来ます。その分のマギはパラメータへの割り振りが出来なくなりますが、職業固有スキルが取得可能になるので、総合的にはお得ですよ」


「固有スキルですか。例えばどんなのがあるんですか?」


「バーサーカーでしたら、自我を失う代わりに攻撃力が上がる【亢進1】、知能指数が低下する代わりに攻撃力が跳ね上がる【亢進2】、心神喪失状態になる代わりに攻撃力が増大する【亢進3】などのスキルが取得可能です」


 だから何故バーサーカーを執拗に推す!?

 スキルが尖り過ぎて成り手がいないから、薦めるよう上司に言われてるのか……?


「職業固有スキルとは別に、各個人の才能によって発動される完全固有スキルもあります。他の人と被る事もありますけど、未知のスキルに目覚めるケースもあるので、今までと違う力が使えるようになったらご一報頂けると助かります」


「わかりました」


 スキルか……こういうのって大抵、前世の行いが反映されるんだよな。

 警備員だった俺は、ガード系のスキルに目覚めそうだ。


「私の知っているバーサーカーの冒険者が初めて目覚めた完全固有スキルは【エクスタシー】。それは戦う事で性的興奮を得られるスキルで、こんな素晴らしいスキルを得た彼は特別な戦闘狂と周囲から持て囃されました。今では彼の友達も皆バーサーカー。その友達が目覚めたスキルも勿論【エクスタシー】。何故なら彼らもまた特別な戦闘狂だからです」


 もう隠す気にもなれないのか、堂々とカンペを読み出した。


「すいません、初めての人にはこれ絶対言わないとダメって上司に言われてるので」


「でしょうね。自分の言葉で言ってたらただのヤバい人ですよ」


 案の定、ノルマが課されているらしい。

 受付嬢も大変だな。


「本当にもう……一体誰がこんな駄文を考えたのか……上司の喉の奥のアレを擦って答えを射出させたいくらい」


 ほらー!

 ストレス溜まり過ぎておかしくなってんじゃん!

 下ネタなのに全然エロくないとか、それ誰得なの!


「えっと、それじゃ防具をまず買い揃えないとですね! 失礼しまーす!」


 空気がえげつない事になったんで緊急避難。

 職業選択のフリーダムは奪われたけど、後で決めれば良いか。

 次は防具屋を探そう。


 とはいえ、先立つものがないと何も買えない。

 この身体の元持ち主、財布とか金入れる袋とか持ってなかったよな。

 もしあったら武器屋の主人が渡してくれただろうし。


 ん……あれ?

 この服、ポケットがあるな。

 これはまさか都合良く金貨でも持ってるパターン……


 金貨どころか宝石だったーーーーーーーーーーーっ!

 めっちゃキラ付いているじゃんか。

 立体SSRかよ。


 何これ、これが転生特典って奴?

 宝石店でくたばったから宝石を持ってスタートっていうシニカル系?

 それとも身体の元持ち主の所持品?


 ……三つ目だとしたら形見だよな。


 だったら、これは売れないかな……

 あれ?

 一つじゃない。他にもある。


 赤、緑、青、紫……なんか色んな色の宝石が大小合わせて左右のポケットに六つも入ってた。

 な、なんか重要アイテムっぽいな。

 もしそうなら、ますます売り辛く……


 あ、そうか。

 鑑定して貰えば良いんだ。

 問題は、都合良く鑑定してくれる店があるかどうか……



 ……あったよ。

 ビルバニッシュ鑑定所、と言うらしい。

 この街なんでもあるな。あり過ぎるかもしれない。


「ほう……この宝石は」


 取り敢えず鑑定人のお婆さんに見せてみたところ、なんかプルプル震え出した。

 これ、あれでしょ。

 やたら大げさな前フリで二束三文的な展開でしょ? 俺知ってる。


「普通の宝石じゃな。全部合わせて80000Gじゃ」


 なんで震えたん……?

 まあいいや、お金の単位が覚えやすくて良い感じのゴールドだったからトントンって事にしよう。


「で、どーする? 売るのかい、売らないのかい」


「んー……じゃあこの青い宝石以外全部売ります」


 普通の宝石だったら、一つだけ形見として保管していれば良いや。

 青を残した事に深い意味はない。


 赤以外なら何でも良かった。

 自分の身体から吹き出てくる大量の血を呆然と眺めるしか出来なかった、死の瞬間を思い出させる色。

 それ以外なら何でも――――


「なら合計60000Gじゃな。ちなみにその青が一番高い」


「この一番小さい赤い宝石を残します」


 68000Gゲットだぜ!

 トラウマとかこの際どうでもいいよね。世の中金よ金。ヒャッハー!


 よし、この金で防具を買おう。

 これだけあれば、一番高い防具一式揃えられるだろうし。


「あの……」


 大量の金貨をどうやって持ち運ぶか悩んでいる最中、他の客が入って来た。

 黒髪ロングの童顔系女子。

 多分ルウェリアさんより若い。


 でも防具は明らかに高価。

 光沢がヤバい。

 フルアーマーじゃないけど、肩、胸、腰周りはしっかり鎧で覆われていて、いかにも女性剣士って感じだ。


「この宝石の鑑定をお願いします」


「どれどれ、うむ、伝説のシンクルビーじゃな。298000Gで買い取ろう」


 リアクションおかしくない?

 伝説に淡白過ぎだろ。


「やっぱり……えっと、お願いします」

 

 そして鑑定して貰った女子もえらく淡白だった。

 大金ゲットしたのにどうして憂鬱そうなんだ?


「はぁ……」


 最終的には溜息を落としながら、金貨袋を担いで出て行った。

 何この世界観。貧乏人に嫌味過ぎない?


「あの、さっきの人って常連なんですか?」


「そうじゃな。定期的にクソ高い宝石持ってやって来る。あの子はレベル78の猛者でな。冒険者ギルドのアイドルじゃ。大方、未踏の洞窟か塔にでも出向いておるのじゃろう」


 78……!?

 俺の60も上かよ。

 基準がよくわからないけど、ゲームならラスボスどころか裏ボスも倒せそうなレベル帯だ。


 あの容姿で最強レベルの猛者か……そりゃアイドルにもなりますわ。

 人生イージーモードですわ!

 俺もそんな完全勝利味わってみたい。


 まあ、一度死んだのにこうしてのうのうと生きてる時点で相当恵まれてるんだから、贅沢は言えない。

 298000Gには及ばないけど、こっちも結構な額を苦労もなくゲットしてるんだ。

 これ以上望むのは罰が当たる。


 さて、次は防具だ。



【防具屋スクード】



 店構えの時点で立派な防具屋なのは容易に把握出来た。

 案の定、品揃えもかなり豊富だ。


「この店で一番高い鎧はコレよ。『オリハルコンメイル』。お値段は……50000G!」


 オリハルコン。


 オリハルコン……!


 っと、思わずテンション上がったけど50000Gて。

 鎧だけで7割以上飛ぶやんけ!


 でもオリハルコンはなぁ……ロマンなんだよな。

 これは欲しいなあ……


 いーや、ここは我慢だ。


 俺はこの世界で成功すると誓った。

 戦わなきゃ物欲と!


「あの、手持ち68000Gなんですけど、これで全身コーディネートして貰えませんか? 一番防御力高い組み合わせで」


「良くてよ!」


 話のわかる店員さんで良かった。

 これなら素人の俺が選ぶより確実だ。


 一体どんな組み合わせになるのか――――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る