第003話 素敵なバーサーカー
異世界に来て初日の昼下がり――――
「ありがとうございました。この御恩は忘れません」
「おう。もう倒れるんじゃねーぞ」
俺(厳密には俺の転生前の人)を介抱してくれた武器屋の主人に深々と頭を下げ、踵を返す。
こういう時、人懐っこい性格なら暫く彼等の家で厄介になれたのかもしれないけど、生憎人見知りなもんで長居は出来ない。
明るい自分を取り戻すとはいっても、いきなり不躾になれるほどの強心臓は持っていないんだ。
……まあ、この心臓も俺のじゃないんだけど。
「困った事がありましたら遠慮なく立ち寄って下さい。それまでこの武器屋が存続していればですが」
「早速反応に困ってますが……でもありがとうございます」
雑談程度の話だからどこまで本当かわからないけど、彼女達の武器屋は品揃えが独自路線過ぎて、あまり売上が芳しくないらしい。
実際、RPGやってるとごく稀にそういう店に出くわすけど、大抵スルー対象だしな……
「こんな私たちでも、世間の荒波に揉まれてヘロヘロですが、しぶとく生き残っています。旅人さんもきっと大丈夫です」
武器屋の娘、ルウェリアさんの優しい言葉が胸に染みる。
異性から優しさを受け取ったのは超久々だ。
母さんからバレンタインデーのチョコが届けられた時の謎感情とは訳が違う。
数少ない、同世代の女性との出会い……無駄にはしたくないなあ。
どうにかこの瞬間だけゴリゴリのホストになれないかな。
無理か。
当然だけど、この世界にはスマホなんてないしネットもない。
連絡手段は対話!
男は黙って対話!
……まあ、社交辞令とはいえ『また来て下さいね』とは言ってくれてるし、接点を作る事はいつでも出来る。
まずはこの世界、そしてこの【アインシュレイル城下町】についてもっと良く知ろう。
そんな訳で、やって来ました冒険者ギルド!
あったよやっぱり。
大抵あるよな。
建物も期待に違わず、立派な石造建築。
中もかなり広い。
……というか、広過ぎないか?
大規模な展覧会を開く美術館くらいあるぞ。
受付がやたら小さく見える。
まあ良い。
それより……なっちゃう?
冒険者。
ゲーム三昧の日々を送っていた俺にとっては、ある種の憧れにも近い。
でも正直怖さもある。
一応、身体はそれなりに鍛えていた。
夜間警備員は暇なんだ。
定時の見回りが終わったら他にやる事ないから、筋トレして全身を引き締めていた。
でも、その肉体は何の役にも立たず、猪の牙に貫かれて死んじまった。
頑張ってレベル上げしたのに突然サービスが終了して、最終イベントさえなく夜逃げ同然で公式サイトもアカウントも消えた末期のソシャゲのように、俺の人生はアッサリと終わった。
腹立つ。
それで……新たに得たこの肉体はというと、実は筋肉の付き方が妙に似ている。
あと色んな所の大きさも大体同じ。
鏡を見ていないから顔はわからないけど、もしかしたら元の俺とかなり近い容姿の人物だったのかもしれない。
魂が適合したのは、俺と遺伝子レベルでそっくりだったから、って事も考えられる。
だとしたらありがたい。
自分と似ても似つかない顔だったら、暫く違和感ハンパないだろうし。
そんな訳で、今の俺は長らく暇を持て余し鍛え続けた自分そのもの。
当然、腕試しの一つもしたくなるってもんだ。
俺の警備員として培った10年が異世界で通用するのか、みたいなノリだな。
ギルド内にいる冒険者らしき人々は、見るからにゴツいのもいれば普通の人と変わらない体型の人もいて、格好も半裸から全身鎧まで様々。結構混沌としている。
自分よりデカい剣を担いでいる戦士風の男、腐った目をした銀髪の男、三角帽子を被った小柄な魔法使い風女子、水着みたいな格好の褐色肌の女性……誰も彼も個性的だな。
俺を見て反応を示す冒険者はいない。
どうやらこの身体の元持ち主、生前はここには来ていなかったらしい。
それじゃ受付へ向かおう。
「いらっしゃいませ。この街は初めてですか?」
手前の受付嬢が声をかけてくれた。
それだけでもう好感度爆上げ。
ショートカットが似合う優しげな顔の女性だ。
「はい。何もかも全部初めてなんで、申し訳ありませんが最初から教えて頂けると助かります」
「は、はあ……」
なんか明らかに戸惑ってるな……頼み方が馴れ馴れし過ぎたか?
「ではまず、こちらに署名をお願い致します」
……誓約書?
ざっと読んでみたところ、死んでも責任は一切取りませんので文句言わないでください、という内容だった。
若干世知辛い現実が垣間見えた気もするけど、気にせず署名……と。
「承りました。それでは、冒険者についてご説明致します」
「お願いします」
「冒険者とは――――」
街の外に出て活動する仕事。街の外にはモンスターがいる為、主にその討伐依頼や護衛を生業としている。
街にはモンスターを寄せ付けない【聖噴水】が中央部をはじめ数ヶ所から湧き出ている為、モンスターが街中に入る事はない。でも外のフィールドでは容赦なく人間を襲う為、街の近辺や野道に出没するモンスターは極力退治するようにしているらしい。
「最終目的は魔王討伐となりますが、現状では魔王を倒す手段はありません」
「……そうなんですか?」
「はい。でも聖噴水がありますので膠着状態が長年続いていまして、魔王討伐の緊急性は今のところありません。魔王以外にも裏ボスやエクストラボスなど数々のバケモノがいますが、人里を襲ってきた事例はここ数百年ないようです」
つまり程良く平和って訳か。異世界初心者にはありがたい。
「冒険者はモンスターを倒す事で、体内の【マギ】が上昇します」
「マギ?」
「生きる力の総称、といったところです」
成程。魂みたいなもんか。
「そのマギの数値を【マギソート】と呼ばれる魔法の石板で測定して、数値に応じた冒険者レベルを認定します。その数値が高いほど冒険者としての信頼が増すと考えて下さい」
資格やライセンスみたいな感じなんだな。要はモンスターを倒してレベルを上げる訳だから、まんまゲームみたいな世界だな。
「レベルが上がると強くなるんですよね。自分のステータスとか能力ってマギソートで確認できますか?」
「はい。ステータスには【生命力】【攻撃力】【敏捷】【器用さ】【知覚力】【抵抗力】【運】の7項目がありまして、各自の才能に則して自動的に振り分けられていきます。変更は出来ません」
要するに各パラメータを自分で配分する事は出来ないのか。結構シビアだな。
「まずは、マギソートを使って現在のマギの総量とパラメータを確認してみましょう。石板の中央に設置された半球形の石を利き手で触れてください」
「は、はい」
なんか色んな意味でドキドキしてきた。
半球形に興奮する年頃でもないんだけど……
「こ、これは……!」
受付嬢が露骨に驚く。
まさか、とんでもない才能が秘められていたとか……?
「こんな数値の分布は初めてです。生命力が突出しています。というかほぼ生命力だけです!」
「……」
だったら20歳で突然死すんなよ元の人!
いや、俺が転生したからそうなったのか?
あと99年生きる予定だったらしいし。
この世界の平均寿命は知らないけど、まあ普通に地球と似たようなものだろうから、131歳まで生きる生命力は確かに図抜けているんだろうな。
「具体的には生命力255、攻撃力36、敏捷49、器用さ3、知覚力74、抵抗力26、運2。マギのストックはなく、レベルは18。凄いです」
「凄いんですか?」
「はい、それはもう。突出してます」
特に何をした訳でもないけど褒められた。
まあ、冒険者になりたてでレベル18って相当高いよな。
これは幸先良さそうだ。
「次に、冒険者の基本的な行動ですけど、一般的にはクエストを受注して貰う事になります。達成したら、報酬をこちらでお支払いします。討伐した数やモンスターの種類はマギを測定すればわかりますので」
ズルは出来ないって訳か。
まあそりゃそうだ、自己申告じゃガバガバもいいとこだ。
「モンスター討伐に関しては武器も重要ですが、それ以上にまず防具を揃える事を推奨します。ヒーラーが仲間にいれば治療は可能なのですが……んー……」
はいはい、ぼっちですよどうせ。
それはともかく、RPGだと武器優先がセオリーだけど、現実的には痛い思いはしたくない。
防具優先が妥当な判断だろな。
「冒険者は特定の職業に就く事が可能です。この能力であれば、バーサーカーがオススメですね。躍動感が命の職業なので、きっと素敵なバーサーカーになりますよ」
受付嬢の出してくれた職業一覧には、かなりの数の職業が記されている――――のに、何故バーサーカーを推す?
そんなに荒くれに見えるのか俺は……
「いや、どう考えてもアーマーナイトとかそっち系だと思うんですけど」
「そうですか」
露骨にテンションが下がった!
携帯ショップで『一番安いプランをお願いします』って言った時の店員と一緒だ……
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