友情の証
勉強机もベッドも壁掛け時計も本棚も白で統一されいて、何だかモデルハウスみたいだと思った。白い三段の本棚には何やら難しそうな科学(?)の本に混ざって流行りの漫画が置いてあった。私の部屋みたいに読んだら読みぱなっし、使ったら使いっぱなしで放ったらかしの散らかり放題の部屋とは対照的で、完璧なまでに整頓されていて、床に何も落ちていない(そこに驚くのもどうかとは自分でも思うが)。
勉強机に目をやると物は全部引き出しにあるのか、古そうな写真の入った写真立てが隅に置いてあるだけだった。
写真は満開の桜の木の下で利根川のご両親と思われる若い男女が写っていた。女性は赤ちゃんを抱いていて、男性は三歳か四歳くらいの男の子を抱いていた。赤ちゃんはねむっていた。男の子は陽射しが眩しかったのか眉間に皺を寄せて目を細めていた。どことなく利根川さんに似ている気がした。
私が黙って写真を見入っていたら、「その写真はね」と利根川さんが説明してくれた。
「家族皆で写ってる最後の写真なの」
「最後?」と私が訊くと、利根川さんは黙って頷く。
「お兄ちゃんがいたの。死んじゃったけど」
死んじゃったという言葉の重みで私は何も言えなくなった。
「私が産まれてすぐに死んじゃったから、お兄ちゃんの思い出は何もないけど」
「そうだったんだ……」こういう時に何と言えばいいのか持ち合わせの少ない語彙をフル稼働させるも、何も言葉が出てこなかった。私がもごもご言葉を探していたら「見せたかったのはね」と利根川さんは机の抽斗を開けた。中から薄ピンクの可愛らしい花柄のポレン封筒を取り出した。
「これ」と言って私に手渡した。
「これ……」私は受け取ってまじまじと封筒を見た。封筒はパンパンに中身が詰まっていた。
「開けてみて」と言うので、そろそろと開けてみる。
開けると中身は大量の写真だった。
「これって」写真を見て思わず声が出た。
「うん、全部ぞうきんの写真」
何十枚もの猫の写真。いつの間にこんなにたくさんの写真を撮っていたのだろうか。まだ汚かった頃のぞうきんから、手入れ後のぞうきんまでどうやら、日付順で並んでいるようだった。写真の隅に日時が書いてある。
私は写真を見ながら泣いてしまった。ぞうきんがいなくなってしまった悲しみからではなく、おそらく誰にも見せたことがなかったであろう大事にしまっていた写真を私に見せてくれた利根川さんの行動に泣いてしまった。
運動も勉強もできない友達もいないバカにされても仕方がないと思っていた私にただ一人心を開いてくれた友の存在に涙が止まらなかった。
だから、私は提案した。鼻水でずびすびの声で言った。
「ねえ、この写真……裏庭に埋めに行こうよ」
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