第3話 裏庭の幽霊



「う、裏庭の幽霊って?」

 我が校には七不思議がある。


 1.理科室の人体模型と社交ダンスする女子生徒の幽霊。

 2.夜になると運動場のトラックを走る落武者。

 3.人がいない時は図書室の本がパタパタと羽ばたいて飛び回る。

 4.三階の女子トイレに住んでいるとされる顔がイモリの女の子、トイレのイモリさん。

 5.校門に生えている桜の木にイタズラするとそこで自殺した男子生徒に呪われる。

 6.音楽室に飾られてる偉大な音楽家たちの肖像画は誰もいないときに喧嘩している。

 7.裏庭の小屋にはかつていじめで女の子が閉じ込められたことがあり、その子が自殺して小屋の地縛霊になった。

 以上


 やまみちゃんが言う裏庭の幽霊とは7番目の地縛霊さんである。

「はい、見ました。この目で」と言ってやまみちゃんは両人差し指で左右の瞳を指さした。彼女は黒目がちの目で私を真っ直ぐ見据えた。目が合うと、逸らしてしまうのが私の悪い癖。逸らした先におかゆ先輩と目が合って俯いてしまった。なんだか、気恥ずかくなって慌てて話を進める。

「いつ幽霊を見たの?」

 やまみちゃんは人差し指を口元に持っていき、しーっと言ったので私とおかゆ先輩は思わず息を飲んだ。やまみちゃんはどうやら雰囲気作りを大切にするタイプのようだ。

「それは一週間前の放課後のことです。私は翌日に社会の授業でディベートをする予定だったので事前に図書室で調べ物をしていました。窓際に座っていたのですが、窓から誰かが校舎裏に行くのが見えたんです。校舎裏に行く人なんて珍しいなと思ってその場はおわったんですが、調べ物を終えて帰る時ふと校舎裏が気になって行ってみたんです…」

 そこでやまみちゃんが黙ったので、私とおかゆ先輩はゴクリと唾を飲んだ。

「ど、それで、どうなったの?」

 おかゆ先輩は意外と怖がりなのかいつの間にか私の親指を握っていた。どうしたものかと思いつつも、握り返してあげる。先輩がこちらをちらりと見たので、思わず下を向いてどぎまぎしてしまった。

 そんな私たちを知ってか知らずか、やまみちゃんは雰囲気作りなのか小声で話を続ける。

「校舎裏に行ってみると、一人の女子生徒がボロ小屋に入っていくのが見えたんです。女子生徒が小屋に入ったあと、一匹の汚らしい猫が出てきて、こちらをじとっとした目で見てきたんです。私怖くなって逃げちゃいました」

 三人の間に沈黙が訪れる。おかゆ先輩は私の親指をぎゅっと強く握った。私は手のひらに汗をかいていることに気づく。やまみちゃんはどこか所在なさげだ。恐らくリアクションがほしかったのだろう。

 まずいことになった。手に汗握らずにはいられない。この話の幽霊は間違いなく利根川さんのことだろう。猫はぞうきんだ。

 まずい。この噂が広まってしまうと猫の存在が学校に知れてしまう。

 沈黙を破るのは些か気が引けるが、仕方ない。

「その話、他の人にはした?」

 やまみちゃんは待ってましたとばかりに、顔をほころばせて、かぶりを振った。

「いいえ、誰にも。先輩たちが初めてです。私の友達は内緒を内緒にできない子が多いんです。嫌なんですよ、噂に尾ひれがつくの。だから、友達の少なそうな先輩たちになら話してもいいかと」

 こやつ、さらりと酷いことを言う。事実だけども。

「待って」と今まで黙って未だに私の親指を握るおかゆ先輩が口を開いた。

「やまみちゃんの話。今から行って確かめてこようよ!」

 怖いものが苦手な反応だったじゃないか。なに、冒険心だしてんの。

「わ、私が行くよ!」

 私の咄嗟の一言に二人は「え?」と声が揃った。

「私が裏庭に行くから、裏庭を見て回って何かあったら報告するよ!だって、幽霊とか信じてないし、お化けが出るなら会ってみたいくらいだよ」

 焦りから早口で捲したてた。私は急いで裏庭に向かった。

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