第56話 ランダムボスイベ 11戦目/戦場でお米作り?
これがレアボス!? 冗談でしょ!? という間もなく、サユカさんが鍬を片手に駆け出す。
吹き飛ばされた漆黒の騎士は遠くの方で難なく着地していて、こちらに向かって駆ける動作をした次の瞬間――姿を消した。
早すぎて見えない!
これはあのスキルを使うしかない。
「超加速!」
あれ? 今使ったのは私ではない。
目の前からサユカさんの姿が消え、闘技場の中央辺りで漆黒の騎士の大剣を鍬で受け止めていた。
サユカさんも超加速使えるの!?
どうやら米作りばっかしてるわけじゃなくて、ちゃんと他のクエストも遊んでいるようだ。
またしても二人の姿が消える。
まだ超加速を使っていない私には、二人の姿は見えないに等しかった。
キンッと金属同士がぶつかり合う音がそこら中で聞こえ、たまにどこかで火花らしい小さな光が見えるのみだ。
「農技・岩砕き!」
岩を砕くためのスキル? なのかは分からないが、サユカさんが漆黒の騎士に振り被った一撃を入れると、漆黒の騎士は大きく後方に弾き飛ばされた。だが、そこで彼女の攻撃は止まらず、追撃を掛けて再度攻撃、そして吹き飛ばすのループが生み出された。
ただの攻撃で下がっているようには見えない。これは、強制ノックバックだ。攻撃に付与された効果により、漆黒の騎士は強制的に後ろに弾き飛ばされているのだ。
「これはただのノックバックじゃないわよ。たとえガードされても、本来の与ダメージの1割を強制的に削るわ」
おぉっ! サユカさんすごい!
ていうか、説明追加のタイミングが絶妙すぎて恐いよ!
しかしながら、さすがレアボスといったところか、そのループは5回で強制終了された。
漆黒の騎士が地面に大剣を突き刺し、サユカさんの鍬を両腕で受ける。その瞬間、何か黒い波動のようなものが大剣から波状に広がった。
「これはマズ――」
ドンッと何かが激突するような音がすぐ横から響く。
慌てて振り返ると、闘技場の壁にめり込んだサユカさんの姿があった。
「いやぁ、油断したわ~」
思いっきり吹き飛ばされておきながら、なかなか呑気な人である。
「お。危ない、残りHP78(笑)」
(笑)とか付けてる場合じゃないよ!? 一撃で瀕死じゃん!
「ちょっと! 呑気にしてないで早く回復して!」
「大丈夫大丈夫、おにぎりあるから」
おにぎりで何とかなるかぁ!!
あたふたする私を無視して、彼女は懐から取り出したおにぎりを頬張る。食べたのを確認してからちらりと視界の右上を確認する。すると、サユカさんのHPバーは全回復を示す緑色で埋まっていた。
おにぎりすごっ!
「はい、アンリちゃんにも上げる。そのおにぎりバフも付くから」
バフ付きおにぎり!? もうそれで商売出来るのでは?
そして、サユカさんはまたしても漆黒の騎士に向かって駆け出す。
このおにぎりを食べたら、そろそろ参戦しようかな。
漆黒の騎士が正面からサユカさんを迎え撃つ。しかし、サユカさんは直前で身を翻して漆黒の騎士の背後に回った。
背後から強力な一撃を――と思ったが、そうはならなかった。なぜなら、彼女は頭上に掲げた鍬を敵ではなく地面に突き立てた。
あの動き、どこかで見た気が……。
「農技・水田開墾!」
サユカさんを中心に、一定範囲の地面が水田へと姿を変える。漆黒の騎士の鎧に包まれた足が水田に沈む。
背後にいるサユカさんに向かって、大剣を横薙ぎに振る漆黒の騎士。しかし、その速さは今までの動きとは比べ物にならないほどゆっくりだった。
速度減少効果がボスにまで有効とか、完全にチートスキルだ!
漆黒の騎士の攻撃はスキルを使っていない私でも余裕で捉えることが出来、サユカさんは繰り出される攻撃を余裕で避けながら一方的に鍬で殴り付けていく。
「アンリちゃんもおいでよ~」
あまりの余裕さに片手を振って私を呼んでくる。
レアボスが農民に翻弄されるとか……いいのか、これ?
一人で殴っているだけではほとんど敵のHPは削れていないため、私も参戦しないと日を跨いでしまいそうだ。
おにぎりを食べ終えて装備を死神の鎌に変えたとこで、急にボスの動きに変化が起きた。
漆黒の騎士は大きく垂直に跳び上がり、空中で何かをするわけでもなく、そのまま水田の上に着地する。
何がしたかったんだろう?
首を傾げたその瞬間、漆黒の騎士の姿が消えた。――いや、違う。正確には今までの速度を取り戻したのだ。
なんで!?
ドンッと再び何かが衝突する音がすぐ横で響いた。またしてもサユカさんが吹き飛ばされてきていた。
チラリと画面の端を見ると、やはり彼女のHPは瀕死を示す赤色が若干見えるだけの状態になっていた。
私は急いで癒しの杖に持ち替え、「ヒール」を連発して彼女のHPを回復する。
「ありがと。あいつ、いきなり水の上を歩けるようになったわ」
なるほど、それで速さが戻ったのか。
「さすがレアボス。なんでもありのチートね!」
あなたのスキルも大概チートだと思いますけど!?
「これは奥の手を使うしかないわね。アンリちゃん、あいつのことしばらく任せるわ」
「えっ!? なんですかいきなり――」
私の抗議も聞かず、彼女はスキルを発動する。
「農技・米作り無双!」
おおっ! もしかして何とか無双シリーズみたいに、一人でばったばったと敵を倒しまくれる最強モードですか!
そして、サユカさんは走り出す。
水田に向かって!
そして、彼女は始める。
田植えを!
――て、なんでやねん!
「何してるんですかサユカさ――超加速!」
そこまで言いかけたが、目の前に黒い巨体が現れたので、スキルを発動しすぐに跳び退く。
漆黒の騎士の一撃が今までいた地面を大きく抉っていた。
すぐに武器を死神の鎌に持ち替えて、漆黒の騎士と対峙する。
漆黒の騎士の後方、チラリとサユカさんの様子を見ると、真面目に田植えを行っていた。
マジデココデオ米作ル気デスカ?
「あ、このスキルの間はターゲットにならないから、がんばってね~」
私の視線に気付いたサユカさんが、呑気にこちらに手を振って来る。
その呑気な姿の目の前に、銀色の光が奔った。
反射的に鎌を頭上に掲げると、漆黒の騎士の大剣を受け止めていた。
よそ見してたらまじでやられる!
「死ノ沼!」
黒い沼地を自分中心に出現させる。鈍足が有効ならしばらくはこれで有利に戦える。と、思ってしまった自分が甘かった。先程のサユカさんの話しの通り、漆黒の騎士は沼地の上を平然と走って来た。
やっぱそうですよねー!
「ファイアーボール!」
今度は後ろに下がりながら火の玉を放つが、漆黒の騎士は走りながらそれを斬り飛ばしていた。
魔法斬るの!?
これは低級の魔法では全く意味がなさそうだ。
目の前に迫った漆黒の騎士が大剣を上段に振り上げる。大体近付いてくると、まず上段からの攻撃が多い。なので、私は鎌でそれを防ぐようにするのだが――今回はそれだけではなかった。上段の一撃は軽く、弾かれた大剣はすぐさま横薙ぎの構えに変わった。
上段の攻撃はフェイント!? 攻撃パターンが変わっている。まさか、戦いの中で学習している?
「しまっ――」
防御が間に合わず、漆黒の騎士の大剣の直撃を食らった私は、一瞬にして闘技場の壁まで吹き飛ばされた。
「痛……くはないけど、ダメージどれくらい?」
自分のHPバーを確認する。減っていたのは大体1割ほど。高いVIT補正と漆黒の外套に感謝しかない。
さっさと回復を――と思った瞬間、漆黒の騎士の追撃が襲い掛かる。
まぁ、そうだよね。ゆっくり回復させてくれるわけないよね。これは癒しの杖で回復するのは無理かな。なんとか隙を見てハイポーションでも使うしかない。
そんなことを考えながら必死に攻撃を回避していると、遠くからサユカさんの呼ぶ声が聞こえた。
いつの間にか、かなり離れていたらしい。
「おーい! こっちにおびき寄せていいよー!」
どうやら、今度は連れて来いと言うことらしい。
私がサユカさんに向かって駆け出すと、漆黒の騎士も当然追いかけてくる。速さは向こうの方が少し上。永遠に走り続ければ追いつかれるが、その前にサユカさんの田んぼに辿り着いた。
立派に実った黄金色の稲穂が田んぼを埋め尽くしていた……ていうか、収穫してないんですが?
「田んぼの中で止まって!」
言われた通り田んぼの中に飛び込んで、迎え撃つために振り返る。
漆黒の騎士は大きな一撃を繰り出そうと、目の前で跳躍し大剣を振りかぶった。その一撃を受けようと鎌を上げようとした瞬間、体が引っ張られ田んぼの中から連れ出された。
漆黒の騎士の一撃は田んぼを大きく抉り、無惨に収穫前の稲を散らしていく。
それを見たサユカさんが口の端に笑みを浮かべた。せっかくの稲を駄目にされたのに――――まるで、それが狙いであるかのように。
そして、彼女は漆黒の騎士に向かって鍬を――いや、その手にあるのは鍬ではない。稲を収穫する用の鎌を振り下ろした。
「農技・憤怒の稲刈り!」
鎌の一撃を受けた漆黒の騎士は小さくよろめき、HPバーは半分まで削れていた。
――て、なにそのスキル!? チートすぎるでしょ!
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