第57話 ランダムボスイベ 11戦目/完全体死神

 サユカさんの一撃を見て私は悟った。


 彼女が主人公だ!


 それはなぜか? 答えは単純、最近はチート系農民のアニメが多いからである。アニメになるということはそれだけ人気があるということ、このゲームの中では彼女こそが主人公に違いない!


 漆黒の騎士がサユカさんに向かって大剣を振り下ろす。しかし、主人公である彼女はそれを軽々と避け、地面から散らされた稲穂が舞い上がる中、もう一度あのスキルをお見舞いするのだ!


 漆黒の騎士のHPはさらに半分になり――――あれ? 一撃で半分減る大ダメージなら、今ので倒せるんじゃないの? まさか、強制半減ダメージ?


 オォォォォォォォッ!


 漆黒の騎士が突然地の底から響くような、低い唸り声を上げる。そして、なにやら不気味な黒いオーラのような物を身に纏った。


 HP減ったから本気モードになったとか?

 明日から本気出す! みたいに、HP四分の一から本気出す! みたいな?


「あ……」


 サユカさんが小さく声を上げる。それは、気付いた時にはもう遅いことを示していた。漆黒の騎士の高速2連撃が彼女の体を斬り裂き、サユカさんは青白い気泡となって消えていった。


 主人公死んだ…………。


 消える瞬間、彼女は寂し気な笑顔を浮かべてこう言った。


「わるい」


 悪いで済むかぁーーーーっ!

 なんでこんなの相手に私一人にするのよぉ!


 サユカさんがいなくなったらどうすればいいのよ……という切ない気持ちになる余裕はない。彼女がいなくなったことにより、漆黒の騎士のターゲットは私だけになったからだ。


 残りHPは四分の一だが、こんな奴どうやって倒せって言うのよ! 


 漆黒の騎士がこちらに向かって連撃を繰り出して来る。HPが多かった時とは明らかに攻撃パターンが変わっている。


「がんばれ~」


 天の声のごとく、サユカさんの声だけがどこからともなく聞こえる。


「呑気に言わないで下さい!」

「いや、だって死んじゃったし」

「だったら、せめて黙ってて!」

「怒ってて草」


 草言うな! 誰のせいで怒ってると思ってるの!?


 こっちは滅茶苦茶必死だ。漆黒の騎士の連撃は止まることを知らない嵐のごとく襲い掛かり、防げそうな攻撃は防いでいるが、そのほとんどは逃げるように躱している。


 もう私一人なのだ。これはあのカウンター狙いの大技に賭けるしかない。


 そう考えて次の攻撃に合わせようとした瞬間、漆黒の騎士の攻撃がまたしても変わった。まだ私との距離があるにもかかわらず、大剣を真っ直ぐに振り下ろす。どう見ても空振りのその一撃から、黒い刃のようなものが放たれた。


 遠距離攻撃!?


 驚いて反応が遅れてしまい、避け切れない黒い刃が私の腕を突き抜けていく。

 ダメージはそれほど高くはないが、無視出来る程弱くはない。


 しかし、近付いてカウンターに持ち込めなければ、あのスキルが発動出来ない。


 なんでいきなり攻撃が変わったのか? 私の狙いを読んで変えて来たとしか思えないのだが、そんなことがAIで動くアレに可能なのか? まさか、この戦いの中で学んだとでも言うのだろうか……。


 とその時、急にピロンという電子音とともに、視界の隅にメールマークが現れた。


 誰よ、こんな時に!


 と心の中で文句を言いつつも、思わずメールに指が伸びてしまう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 差出人:とある運営

 件名:レイア姫救出クエストの報酬

 本文:保留になっていたクエストクリアの報酬です。これを装備して完全体死神に       

    なった姿を私に見せて下さい。


           報酬の受け取りはここをクリック

                  ⇓

          ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

          ★☆★☆★☆ 報酬 ★☆★☆★☆★

          ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 いやいやいやいや、メールの文面ワンクリック詐欺みたいなってるから!


 しかも、なんか文面から差出人の顔、思い浮かぶんですけど!?


 とツッコミつつも、期待して報酬の文字をクリック。


 『防具:死神の装束 装備Lv:死神専用

  防御力:300 魔法防御力:300

  スキル 闇夜渡り が使用出来る』


 『闇夜渡り:暗さ80%以上の空間内を自由に瞬間移動できる。

       行動範囲:半径500メートル、クールタイム:5秒』


 おぉぉぉぉぉ……瞬間移動スキルキター!


 と言っても、これで勝てるわけではないけど。

 ロマン溢れるスキルで単純に嬉しい。


 そして、この死神専用の防具。この性能は凄い! さっそく装備――。


「なにそのかっこおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 急に叫び声を上げたのはサユカさんだ。


 それに驚いてなのか、なぜか漆黒の騎士も動きを止めていた。大剣を片手に立ったまま全く動く気配がない。


 AIも驚きの何かがあった?


「アンリちゃんめっちゃ可愛いよぉ!」

 

 サユカさんが一人で大興奮している。

 格好と言うことは、今の私の姿か。

 

 私は自分の姿を確認し、絶句した。

 全体的に色は黒一緒に近い感じで、見た目は巫女衣装に近い感じの服なのだが、上半身は袖なしで袴は膝上15センチくらいのミニスカートに近い長さしかなかった。足元から太ももまでは黒のニーハイソックスで覆われているのだが、これならいっそ黒タイツとかの方が恥ずかしくなかった。


 な、な、な、なんじゃこりゃぁっ!


「なにこの恰好!? 全然死神っぽくないんだけど!」

「可愛いからいいんじゃない?」

 

 見てる側は相変わらず呑気である。


「嫌だよ! 袴短すぎてパンツ見えそうだし!」

「そこがいいんじゃない。あ、ちなみにパンツは黒色だったよ」


 え、なに? 覗いたの!? 


「そんな情報いらないよ!」


 は、恥ずかしすぎる! 性能は高いし付属のスキルは優秀だけど、他に何か色々なモノを失っちゃいそうだよ!


 もうこうなっら速攻で終わらせるしかない。何が何でも漆黒の騎士を倒して、さっさと防具を元に戻そう。


 なので、もう一つの装飾品を装備する。


 この姿がお望みなんでしょう、運営さん!


 死神の骸骨面を装備し、すぐさまそれの固有スキルを発動する。


「闇の帳!」


 叫んだ瞬間、周囲が真っ暗な闇に呑まれる。だが、私にはその中でも全てを認識することが出来る。そして、この暗闇の中では私のステータスは全て2倍だ。


「えー! なにこれ、真っ暗なんですけど! パンツ見えないんですけど!」


 やましいっ!


 とりあえずサユカさんは無視して、漆黒の騎士に向かって真っすぐに走る。

 向こうは見えているのかいないのか…………そんな不安を抱えながら目の前まで辿り着いた時、漆黒の騎士の眼が赤く輝いた。


 やばっ!


 気付いた時にはもう手遅れだった。漆黒の騎士の一撃をもろに食らって私は吹き飛ばされた。ついでに、死神の鎌を手放してしまい、それはくるくると空中で円を描いていた。


 吹き飛ばされた私は壁に激突し、よろめきながらもその場に立ち上がろうと膝に手を付く。


 さすがレアボス。この暗闇でも視界を失っていないらしい。


 武器もなくよろめく私に、漆黒の騎士は大剣の切っ先をこちらに向け、私を貫くように突進してくる。


 これは、チャンスと感じた人の動きだ。AIが優秀過ぎたんだと思う。

 だから騙された――。


 大剣が突き刺さる瞬間、手に入れたばかりのスキルを発動する。


「闇夜渡り」


 黒い大剣がただの闘技場の壁を貫く。


 スキルによって背後に回った私は、弧を描き予想通りの位置に来た死神の鎌を手にする。武器無しでもこのスキルは使えるが、あった方が当然ダメージが上がる。


 カウンターはダメージを受ける、もしくは避けてから3秒以内とウィキに書いてあった。

 時間にして約1秒――まだカウンターと認識される範囲内。


「深淵の魔眼っ!!!」

 

 今使える最強のスキルを放ち、目の前が真っ白になっていくのを見た後、私の意識は闇に飲まれていった。




「おーい、アンリちゃーん」


 名前を呼ばれて目を開けると、目の前には私を上から覗き込むサユカさんの顔があった。


 膝枕をされているようなのだが、彼女との顔の前には大きな二つの障害が! てまぁ、胸の大きさはアバターなんだから気にならな……くもないかも。


「お、やっと起きた」

「あれ? ボスは!?」

「アンリちゃんが倒したでしょ。でなきゃ、あたしはこの場に来れないわよ」


 確かに。私が倒したから復活して戻って来たのか。


「いやぁ、すごかったね~」

「べ、別に私だけの力じゃないよ。サユカさんが先に減らして――」

「エッチな死神衣装。激しく動くとパンツ丸見えよ」

「もうアレは忘れてっ!」


 言われて思い出して、急いで防具を『白銀の軽鎧』に戻す。この装備は万人向けなので、下がズボンになっていてる。


「えー、ずっとあの衣装でもいいのに~」

「もうあれは着ないよ」


 言いながら立ち上がり、ボスがいた場所に出現している大きな宝箱に歩み寄る。


 レアボスの宝箱のはずだが、見た目は今までの物と同じだ。


「よし! 開けてみますか」


 サユカさんが大きな蓋を持ち上げると、中からいつも通りお金の入った袋が五つ目に入った。報酬は最初に入った人数で出現するらしい。頑張った甲斐があったってものだ。


 その他の報酬も大体いつも通りだが、レアボス討伐の目玉報酬、見た目からして強そうな武器が入っていた。


 ただし――。


「刀と弓……」


 世の中そんなに甘くなかった。

 二人とも装備出来ないじゃん。


 二人して放心していたのだが、しばらくしてサユカさんが刀に手を伸ばした。


「あたしはこっちもらうね。友達に刀使う子いるからさ」


 なるほど。それなら私もこの弓をエアリーに、前のイベントのお詫びとしてプレゼントしよう。


「わかりました。私はこっちをもらいますね」


 その後も少しおしゃべりしていたのだが、さすがに疲れたので適当なところで私達はログアウトしたのだった――。

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