第55話 ランダムボスイベ 11戦目/私達は役立たずなので

 これでイベント11戦目というところで、またしても見知った顔と出会った。


「俺は鋼の錬金術師! レベル90のマジシャンだ」

「俺は焔の錬金術師! レベル80のウィザードだ」

「俺はブラッドレイ! レベル85のファイターだ」


 パーティーで参加してきたであろう三人組が、いきなり自己紹介してきた。


 て、ちょっと待てぇーーーーーい!


 なにそのやばい名前! 確かに特定のアニメや漫画が好き過ぎて、登場するキャラの名前とか使う人いるけどさ、使っていいのは時と場合によるよ! 色んな意味で消されちゃいそうだよ!


 危険すぎるので、彼らの事は鋼トリオと呼ぶことにしよう。


 ちなみに、見知った顔と言うのは彼らの事ではない。


「あたしはサユカ。レベル73の農民よ!」


 彼女は場違いな麦わら帽子に作業服、右手に持った鍬を肩に担いだスタイルでそう挨拶した。


 ほんと、どっからツッコんだらいいのか分からないけど、まずなんでその恰好で来たん?


「農民……」

「確かに姿は農民」

「まじか」


 鋼トリオが信じられないといった顔をする。


 その後、四人の視線がこちらに向けられた。


「よ、夜桜アンリです。レベル63、VITよりのマジシャンです」

「ちなみにINTどれくらいあるんだ?」

「50くらいです」

「レベル63でINT50って……VIT振り過ぎじゃね?」


 う。たしかに低く言い過ぎたかも? ずっと均等に振っているせいで、2極のステータスの感覚が分からない……。


 ちなみに前よりレベルが上がっているのは、イベントだけど倒せばちゃんと経験値が入るようで、5体のボスを討伐してレベルが3つ上がった。残念ながら5回は討伐に失敗した。


 11戦目からはパーティーを組んでの参加が可能であり、鋼トリオは明らかに事前にパーティーを組んで参加している。


「相変わらずレベル差ひどいな」

「そうだな」

「いないよりはマシって感じか?」


 酷い言われようだ。


「あ、ちなみに農民は戦闘スキルないんで、そこのところよろしく」


 は?


「「は?」」


 うん。三人のその反応は正しい。私のはちょっと違う意味合いだけど。


 サユカさんが十分強いことを知っている私としては、ここは声に出してツッコんでいいところなのかどうか、悩ましいところだ。


 サユカさんの方を見ると、彼女は自分の口元にそっと人差し指を当てた。


 黙ってろと言うことらしい。

 一体何を考えているのやら……。


「いや、じゃあ何のために来てんだよ!」

「寄生するため」


 言い切ったぁー!


「武器持ってるのに戦わないんかよ!」

「だってこれ農具だし」


 この間それで戦ってましたけどね。


「じゃあせめてタゲとるくらいしてくれ」

「やだ。死にたくないし」


 我が儘かっ! て、思わず心の中でツッコんじゃったよ!


「もういいや、行こう……」

「あぁ…………」


 説得するのが困難と理解したのか、三人は諦めて闘技場に向かって歩き出す。それにサユカさんが続き、その後を私が付いて行く。


 今回は漆黒の外套は羽織る様に身に着けており、武器は前回と同じ疾風のワンドを手に持っている。


「楽しみだね、アンリちゃん」


 急に振り返るサユカさん。その顔はなぜかにやけ顔だ。


 何かを予測している? 


 薄暗い通路を抜けると、いつもと変わらない石レンガ造りの闘技場に出る。


 さて、今回はどんなボスが出るのかな?

 

 呑気にそんなことを考えながら闘技場内に足を踏み入れると、いつも通りビィーー! ビィーー! と、警報音に似た音が周囲に響き渡った。


 そして闘技場の中心部に『WARNING!』の警告文字が現れる。しかし、見慣れたはずのそれに何か違和感があった。


「金文字――来たわね!」


 サユカさんが腕を組んで闘技場の中央を見据える。


 確かに、いつもなら黒背景に赤色の文字だったが、今回の文字は黒背景に金色の文字だ。


「おいおい、まじかよ」

「なんでこんなメンバーの時に来るんだよッ」

「絶対無理だろ……」


 三人も何が起きているか理解しているようだ。

 分かっていないのは私だけか。


「あ、ちなみに私達は役に立たないから戦わないわね」


「「はァ!?」」


 サユカさんの唐突な宣言に、三人の声が重なった。


 何か勝手なことを言っているが、私は普通に出来る限りは協力し――――。

 そう考えた私の目の前で、鋼トリオは青白い気泡となって消えた。


 つまり、三人は一瞬にして倒されたということ。


「嘘でしょ!?」


 思わず叫ぶ私の目の前に、真っ黒な全身鎧を身に着けた騎士が姿を現わす。フルフェイスのせいで顔は全然見えないが、目の部分だけが赤く光っているように見えた。


 さらに視線を上に上げるとボスのネームがあり、『血に飢えた漆黒の見習い騎士』というのがこの黒い全身鎧の名前らしい。とりあえず呼びにくいので漆黒の騎士と呼ぶことにしよう。


 目の前で漆黒の騎士が黒い大剣を上段に構える。


 慌てて死神の鎌を出そうとした手を止め、大きく後ろに跳んで避ける。跳んだ瞬間に大剣が鼻先をかすめ、大剣が叩きつけられた石レンガの床が大きく抉れる。


 攻撃が来る前に避けたと思ったのに、ほとんどギリギリだった。どうやらとんでもない速さの敵のようだ。


「よく避けたな今の」

「まぐれだろ?」

「てか、これこのまま待つ必要ある?」


 倒された三人の声だけがどこからともなく聞こえる。


 死んでも即退場にはならず、観戦モードになってこの戦闘を見守ることが出来る。そして、もし他のメンバーがボスを撃破すれば、死んでいた人達も復活して報酬が受け取れる。ただし、それ目的でわざと死ぬのは禁止だ。生存者の投票が全員一致した場合、その人物を追放することが出来る。逆に、残らずにさっさと次に行きたい場合は、途中で抜けることが可能だ。


「次行こうぜ」

「そだな」

「次は強い人と組めるといいなぁ」


 もはや「お疲れ様」の一言もなく、視界の隅に見えていたパーティーメンバーから三人の名前が消えた。


 役に立たない私達には、あいさつする価値もないということか……。


 ――よそ見をしていたせいで反応が遅れた。

 急に目の前が暗くなったと思ったら、いつの間にか目の前に漆黒の騎士がいた。そして、黒い大剣はすでに目の前に振り下ろされている。


 避けられない!


 そう思った瞬間、何かが物凄い速さで漆黒の騎士を吹き飛ばしていた。


 目の前にはこの場に違和感しかない衣装。顔を上げるとそこには鍬を肩に担ぐサユカさんがいた。


 口の端に笑みを浮かべて、先程とは打って変わってやる気に満ちた表情をしている。


 そして、彼女は漆黒の騎士から視線を外さずにこう言った。


「さぁ、二人でレアボスを倒しましょうか!」

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