第54話 ランダムボスイベ 1戦目/怪しさ満点の女
私はエルダー・リッチが攻撃した跡地に倒れていた。
ただ、やられて倒れたわけではない。移動が速すぎて停止に失敗してこけただけだ。たまにしか使わないから、まだ動きに慣れてないのかも。
「よくも……よくもアンリを!」
私がやられたと思ったのか、エアリーが珍しく逆上する。
彼女が弓を真上に掲げると、その周囲に四つの光の玉が現れる。赤、青、緑、茶色……四大属性かな?
その弓を真っ直ぐエルダー・リッチに向けて降ろし、矢を持たないままもう片方の手で番えるような動作を取る。すると、矢を引く動作に合わせて光の矢が生み出され、その矢の輝きが徐々に強くなっていった。
「
エアリーの力強い言葉と共に光の矢が放たれる。周囲の四つの光も同時に飛んで行き、空中で光の矢に吸収されるように吸い込まれ、矢は虹色の光の尾を引きながら私の上を通り過ぎ、エルダー・リッチの体を貫通する。虹色の矢が突き抜けたそこには大きな穴が空き、ボスがなにやら呻き声を上げる。
結局最後まで何言ってるのか聞き取れなかったなぁ。私に
エルダー・リッチが消滅した後、数体残っていたアンデット達も消滅する。そして、ボスがいた場所には大きな宝箱が残されていた。演出としてはありきたりな感じだが、そう思っていてもやはり宝箱はワクワクしてしまう。
「お疲れ~。エアリーさん、最後のすごかったわね~」
四人が宝箱の周囲に集まり、エイルさんが真っ先に口を開いた。
「お疲れ様です。あの時はアンリがやられて必死だったので、後先考えずMP全消費の大技を使ってしまいました……」
「ま、それで倒せたんだから結果オーライだ」
悄気込むエアリーを黒柴犬さんがすかさずフォローする。
「夜桜さんも……正直、始めはレベルが低いから使えないって思ったけど、あなたがいなかったらきっと勝てなかったわ」
喋ってる皆の後ろで立ち上がり合流した私に、エイルさんがひらひらと手を振る。
「レベルが低いのは事実ですので、そう思われてもしょうがないです。でも、そう言ってもらえるのは嬉しいです」
「アンリ!? 生きてたの!?」
エアリーの隣に移動したところで、彼女は私の方を見て驚きの声を上げた。
「えぇ~、死んだと思ってたのぉ?」
「ご、ごめん。すごい攻撃だったし、てっきり私達を庇って死んだのかと……」
わざと意地悪っぽく言うと、エアリーは困った顔で慌てふためいた。
「じょーだん。たぶんこのマントがなかったら死んでた。これ闇属性の防具だから、それで生き残れたみたい」
「そ、そうなんだ……」
「ん? ユリスさんどうかしたの?」
エイルさんが一人真剣な表情をするユリスさんに気付き声を掛ける。
「あ、いえ、何もないです。大丈夫です」
ボスは倒してもう何もないのに、どうしたのだろうか?
「それじゃ、そろそろこいつを開けますかな」
黒柴犬さんが宝箱の蓋に手を掛ける。
その様子を私達はジッと見守る。
大きな蓋が持ち上げられると、中には袋が五つ入っていた。袋は中身が大量に入っていることを示すかのように膨れ上がっている。
「ご丁寧に袋分けされてるのね」
「宝箱の中に金貨ざっくざくかと思ってた」
「私も」
「僕もです」
四人が中を覗いてやや拍子抜けした表情を浮かべる。
まぁ、気持ちを分からなくもないが、正直金貨ざっくざくだったらそれはそれで面倒である。
「取り分けるのが大変だからじゃないですか?」
「「……あぁ、なるほど」」
私の予想に四人は同時に手を打った。
そして、各々袋を一つずつ手に取り道具袋の中に仕舞っていく。中に入れるとお金が入手した分追加され、いくつかアイテムも追加されたようだった。
「これで10万Gはかなり美味しいな」
「そうですね」
「今回はクリア出来たからそう感じるだけで、毎回こう上手くいくとは限らないわよ」
嬉しそうにする黒柴犬さんとユリスさんに、エイルさんが水を差す。
実際間違ったことは言ってないけどね。
「確かに。今回もアンデットの大群を見た時にはどうしたものかと思ったからな」
「そうね。まさか夜桜さんが『全体化』を使えると思わなかったわ」
「でもあれはウィザードのスキルですよね。夜桜さん実はウィザードなんですか?」
なんか急に私の話しになった。
「えぇと。あれは上位職のスキルをもらえる特殊なクエストに、たまたま遭遇してクリア出来たから手に入れられたんです。かなり特殊だったので、普通は持ってる人いないと思います。あと、もし私がウィザードだったら、全体化はスルーして他の魔法を取ります」
私の説明を聞いて皆がうんうんと頷く。
分かってもらえたようで良かった。
「あと一個いいかな?」
エイルさんが改めて私に右手を上げて尋ねてくる。
普通に聞けばいいのになぜだろうか?
「はい」
「夜桜さんドラゴンゾンビ倒した?」
――ピシッ――
実際に音がしたわけではないが、何かそんな効果音が聞こえたかのごとく、周囲の空気が凍り付いた気がした。
いや、いやいや、いやいやいや――見られた? どうする? 記憶を消すか?
記憶の精霊よ忘却の――とかやってる場合ではない!
「や、やだなぁ。私が一人で倒せるわけないじゃないですか。消えた様に見えたとしたら、それはエアリーがあいつを倒したからですよ」
「え……そ、そうかなぁ」
「ドラゴンゾンビは俺も一度パーティーで戦ったことあるが、転職者三人いての七人パーティーでやっと倒せた強さだ。さすがに一人で倒すのは無理だろう」
ナイスフォローです黒柴犬さん!
「そう言われればそうね。一人で倒すなんて無理よね」
ふぅ。どうやら危機は去ったようだ。
「僕もいいですか?」
と、今度はユリスさんが手を上げる。
なんで私こんなに集中攻撃されてるの!?
「は、はいどうぞ」
「そのマントどこかで見たことあるんですけど、会ったことありますか?」
――ピシッ――
今度は私だけが凍り付いた。
それは非常にまずいですよユリスさん!
さっき真剣な顔していた時も、もしかしてこの外套のこと思い出そうとしてたんですかね!?
「あ、えー。私用事があるんでこれで失礼しますね!」
「あ、ちょっ、アンリ!」
完全に怪しい人物ムーブを取りつつ、私は逃げるようにイベントフィールドから離脱するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます