第40話 図書館での出会い その1

 教会を出ようと今いる部屋のドアを開けた瞬間、外の異様な光景にすぐさまドアを閉じた。


「な、なにあれ……」


 気になるので今度は少しだけ開き様子を伺う。


 懺悔室から教会入り口にかけてズラリと筋肉が並んでおり、彼らはなぜか壁際でポーズをとって立っていた。


「いつまでこうしてればいいんだ?」

「立ってろって言われたからな、それが解除されるまでだろ」

「訳も分からずに立たされるこの感覚、最高だ!」


 私のさっき叫んだあれか!?


 ドアを閉じて部屋の中を見回す。

 すると、都合よく外に繋がってそうなドアがそこにあった。

 警戒しながらゆっくりとドアを開けて、外の様子を伺う。

 

 どうやら教会の裏手に出れるようだ。


 こうして無事に? 教会を後にした私は、一度町の中心にある広場へと戻って来た。


 次に向かったのは西の方角、こちらにも教会に負けず劣らずの巨大な建物がある。


 それがこれ、王立図書館である。


 街中とは異なるレンガ調の造りで、大き目なスーパーくらいの広さがあるのに、それが三階まであるという巨大さ。


 これだけ大きければ何かあるはず。

 

 ガラス造りの回転ドアを押して中に入れば、中は本棚がズラリと並んでおり、入り口のカウンターには一人の女の人がいた。


 この図書館の司書さんだろうか?


 彼女の目の前に移動したが、特に反応はない。

 本を借りたりする時には、応対してくれるのかもしれないが。


 ただ、こういう事務的な人でも私は必ず声を掛けるようにしている。


「何かお手伝いすることはありますか?」


 私の問いに彼女は、事務的な表情のままこちらに顔を向け、


「なら、こちらの本を元の本棚に片付けて下さい」


 と、横に置いてある10冊ほど積まれた本を、私の目の前に差し出した。


 まぁ、なんとなく予想はしてた。

 図書館のクエストといえば、やっぱり本を片付けるクエストが定番なんだなぁ。


 私は一冊だけ手元に残し、残りの本を道具袋にしまう。


 まず一冊目は、剣術に関する本らしい。


 なので、その目的の本棚に向うと、すでに先客が三名いた。


「ねぇ、アレク。早くお城見に行こうよー」

「何事もまずは情報を得るところから始めるのが、大人としての行動ですよ。ま、お子様のエリーには分からないと思いますけどね」


 中央に立つ青髪の格好いい男の人がアレクさんで、その隣で甘えた声を出す金髪ツインテールの可愛い女の子がエリーさん。反対の隣側でエリーさんにからかう様なことを言っているのが、黒髪褐色肌の美人ダークエルフのシーダさんだ。


 この三人は有名すぎて、おそらく知らない人はいないと思う。


「な、なんですってぇ! 私のどこがお子様なのよ!」

「ふふ。自分の胸に聞いてみてください。まぁ、ぺったんこでどこが胸なのか分かりませんけど」


「私のは色白で綺麗なのよ! あんたの無駄にでかい腐った果実より、よっぽどいいでしょ!」


「なッ! 私のは腐っているのではなく褐色です。ダークエルフの肌を再現しているので、こういう色なんです!」


 急に図書館内で始まる口喧嘩。

 いくら有名人でも、これはさすがに迷惑極まりない。


「はぁ……二人とも図書館の中くらいは静かにしてくれ」


 アレクさんが疲れた表情でため息を付きながら二人をなだめるが、あまり効果はなさそうだ。


 きっといつもこんな感じなんだろうなぁ……。


 だが、私の目的の本棚は彼らのいる辺りなので、突撃しなくては何も進まない。


「あのぉ、すいません……」

「なにッ?」  

「ご、ごめんなさい」


 声を掛けただけでエリーさんがすごい形相で振り返り、私は反射的に頭を90度下げて謝った。


「エリー。知らない人に対してそれは失礼だぞ」 

「あ、えっと、ごめんね。ちょっとイライラしてて…………て、」


 アレクさんに注意され、エリーさんが謝りながら私をジッと見つめ、


「あなた、うちのギルドに入らない? 一緒に打倒巨乳を目指しましょ!」


 急に私の両手を取って目を輝かせる。


 それって私も胸が小さい仲間ってことですか!?

 まぁ、胸の大きさはキャラメイク時にいじってないけど……そもそもデフォルトが小さいのではなかろうか?


「どんな理由で勧誘してるのよ……」


 呆れた表情で小さく息を吐くシーダさん。


「エリー、勧誘はダメだと言ってるだろう。うちに入りたいという人は拒まないけど、無理に誘うのは僕は望まない」


「うぅ。む、無理にではないよ? 良かったらでいいのよ、良かったらで」


 アレクさんに注意されて委縮し、気弱な声でこちらに訴えかけてくる。


「す、すいません……私バランスキャラで全然弱いですし、まだギルドとか考えてません。失礼します!」


 私は目的の棚に本を押し込むように戻し、それだけ告げて足早にその場を離れた。


 ギルドに興味が無いわけではないが、あんな素敵な人達が揃ってるところに私なんかが入るのは無理だ。強さとかの前に、私の心臓がもたない。


 それから三冊の本を棚に戻し、この一冊で1Fはコンプリートだ。


 その目的の本棚の見える場所に足を踏み入れた瞬間――私は固まった。


 ええっ! なんでいるの!?


「ん? なんだ、いつかのVIT型マジシャンか」


 獲物を狙う様な鋭い眼光でこちらを睨みながら、銀髪長身の彼はそう言った。

 あの戦いから、私の認識はそんな感じらしい。


「な、なんでここに……」


「そう警戒するな、今は非戦闘時だ。が、もう一人の女の方は許さん。次にあったら絶対に殺す」


 フェンリルさんの目に一瞬殺意が宿る。


 こわっ。

 サユカさん一体何をやらかしたんだ。


「それより、ないと思っていたらお前が持っていたのか」


 彼の手が私の腕の中にあった本を掻っ攫っていく。


 その本を目で追うと、ちょうど表表紙が目に入り、『煽り女を殺す100の方法』と書かれていた。


 煽っちゃったの!? 煽っちゃったのサユカさん!?

 というか、なんって本置いてんだこの図書館!


「あ、あの、それクエストで片付けないといけないんですけど……」

「読んだら戻しておいてやる」


 振り向きもせず即答。

 これは説得は無理そうだ……。


「う……じゃ、じゃあ、お願いします」


「待て」


「――まだ、何か?」


 立ち去ろうとする私を引き留めるフェンリルさん。

 ただ、相変わらず目は本に向いている。


「お前も加速を使っていたな」

「は、はい」

「他の町の配達クエストはしてないのか?」

「他の町……?」


 たしかに他の町でも似たようなお店はあった。

 だが、何度話しても何も起きなかったため、加速を取れたお店だけが、クエストを受けられるところだと思っていたのだが。


「他の町にも同じクエストがある。ただし、順番があるようだから、全部受け終わるまで全ての町を回れ」


 順番……そういえば私が他の町のお店に寄ったのは、加速を取る前だったかもしれない。加速を取った今の状態で行けば、何か進展があるということだろうか?


 もしかして、加速の上位スキルを得られる?

 ただ、全部の町を当てずっぽうで回り続けるのはかなりしんどいけど。


「な、なんで私に教えてくれるんですか?」


「VIT型では俺に攻撃を当てることは出来ん。少しでも俺との差を縮めろ。お前は俺との戦闘で生き残った、数少ない存在だ」 


 一応褒めてくれてる――んだよね?


「あ、有難うございます」


 ずっと本から目を放さない彼に頭を下げ、私は二階へと続く階段へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る