第41話 図書館での出会い その2

 二階の本棚に三冊ほど本を戻し、残り一冊を戻そうと目的の本棚に向うと、長めの銀髪をサイドテールにした、一人の女の子が本を手にため息を付いていた。


「はぁ~。バランス型ってやっぱ無理なんかなぁ」


「あなたもバランス型?」


 彼女の呟きを聞いた瞬間、気が付けば声を掛けていた。


「も――ってことは、あんたも?」


 微妙に異なるイントネーション。

 どうやら関西の人らしい。


 関東にいながら関西人と話せちゃう。

 これがオンラインゲームの醍醐味だよね。


「う、うん。私はマジシャン――と、ファイター」


 ――死神、と喉まで出かけていたのを寸でのところで抑え込む。

 隠す必要ないのかもしれないが、私自身あまりよく分かっていないので、ここは伏せておこう。


「うちはアーチャーとマジシャンや」


 言いながら彼女は本を棚に戻す。

 丁度のその隣に空きスペースがある。

 他は空いているところがないし、そこがこの本を戻す場所だろう。


「でも、遠距離職で物理も魔法も出来るなら、強そうだしパーティーでの需要もありそうな気がしますけど……」


 私の思いついたままの意見に、彼女は両手を軽く上げて大きく首を振る。


「うちも最初はそう思ったんやけどな、低レベルの雑魚ならともかく、ちょっと強い奴になるとあかんのや。あと、距離詰められるとなんも出来んくなるしな」


 な、なるほど……。組み合わせはどうであれ、火力のバランス型は茨の道なようだ。


「やっぱ火力が中途半端で微妙なんよなぁ。パーティー募集とかに乗り込んでも、バランス型はいらんって断られるし」


「そ、そうなんだ……」


 私だったら募集に乗り込む勇気なんてないから、ずっと非戦闘のアルバイトみたいなクエストしてたと思う。

 まぁ、その非戦闘のクエストのおかげで今があるのだが。


「今レベルいくつ?」


 ぐいぐい来るなぁ、この人。

 こういう人苦手なんだよなぁ……。


「48です」

「ほぇ~、けっこう高いなぁ。かなり頑張ったんやね」

「そ、それほどでも……」


 小さく返事をしながら、持っていた本を空いているスペースに押し込む。


「それなに?」

「えっと……本を片付けるクエストですよ」


 答えてからハッと気づいたが、単純に何の本か聞いただけかも?

 聞かれたとしても、中身は見てないから何も答えられないけどね。


「そんなんあるん? てか、ゲームの中で片付けとかよぉやるねぇ。うちには絶対無理やわ」


 あからさまに嫌そうな顔を見せる彼女。

 うん、なんとなくそんな雰囲気はすごく伝わってくる。


「ぁはは……えっと、私は次があるのでこれで」

「せやな。うちも本と睨めっこしてないで、狩りしてくるかな」


 愛想笑いを返し私は三階へ、彼女は一階へ降りて行った。


 そして三階に上がって早々、どこかで見た覚えのある金髪美少年と遭遇した。

 彼も忘れられない有名人の一人、ハルルさんだ。


「あれ? 君は、前にステータスを見せてもらった人だよね」

「あ、はい」


 一階から三階までで、一気にこのゲームの上級者に会ってるんだけど、どうなってるのこれ!?


 彼は私の目の前まで来ると、ジッとこちらを見つめ、


「ふむ、まだ前のキャラのままか」

「わ、わかるんですか?」


 正直驚きを隠せない私に、彼はニッコリと笑顔を見せる。


「色んな人を観察するのが好きだから、何となくね」


 無邪気な少年のように返すハルルさん。

 なんとなくで分かるもんだろうか……?


「ここにはこの国の歴史とか、古代兵器とか、メインストーリーに関係ありそうな面白い本がたくさんあるから、君も読んでいくといいよ」


 それだけ言って、ハルルさんは階段を降りて行った。


 彼の言う通りここにはこの国の歴史やら、昔あった戦いなどの文献がたくさん置いてあった。

 世界背景とか知るとよりゲームが面白くなるので、暇を見つけて今度読みに来よう。


「よし、これで終わり……フェンリルさんが読み終えてればだけど」


 最後の本を仕舞い終えた私は、一階へと戻りフェンリルさんがいた棚が見える位置まで移動する。


 いない。

 どうやら読み終えてすでに立ち去ったようだ。


 一瞬、本をちゃんと戻してくれてるかどうか気になったが、それは受付の司書さんに報告すれば分かる事だろう。


「本、片付け終わりました」


「お疲れ様です。片付ける暇がなくて助かりました。これはほんの気持ちですが、受け取って下さい」 


 なにかスキルか称号か、と目の前に画面に出るのを予想したが、目の前に差し出されたのは一つのスマホのような物だった。


 彼女からそれを受け取ると、一つのメッセージが目の前に現れる。


『携帯電子書籍(リヴィルニア王国専用)

 リヴィルニア王国の王立図書館の書籍がどこでも読める優れ物』


 それ以外には――特にない。


「こ、これだけ……」

「どうしました?」

 

 思わず愚痴が零れた私に、怪訝な表情を向ける司書さん。


「い、いえ別に。有難うございました」


 そう言って私は足早に図書館を後にした。


 それにしても、やたらと知り合いに会う図書館だった。実装されたばかりだから、人が多いのはしょうがないけど、有名人三人にまとめて会うとは思わなかった。


 次はどこに行こう。

 そろそろお城を見に行こうか。


 そんなことを考えながら、私は中央広場に向けて歩を進めるのであった――。

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