第34話 イベント:2大王国模擬戦・死神の力
あぁ……やはりこうなってしまったか。
「何度でも戻ってくるぜ」
そう言い残して帝国側最後のプレイヤーである、ソードマスターの人が青白い気泡となって消えていった。
鉄壁の要塞のような大門さんを何とか出来そうなスキルがないか探していたのだが、スキルを選び終わると同時に帝国側の他の人は皆やられてしまった。
始めの方に倒された人なら、もう戻ってきても良さそうなものだが、未だに誰も森を抜けてくる気配がない。
足並み揃えて戻ってくるつもりなのだろうか?
「やっぱ何度も倒してるから、もうなかなか戻って来ねぇな」
「あぁ。ルール変更で倒される度に、歩きしか出来ない間の速度が減少するようになったからな」
「倒され過ぎて10分くらい、まったく動けてなかったりしてな」
「ありえる。さっきも倒されてから来るのに、15分くらいかかってたからな」
王国側の人達が、都合よく説明っぽい台詞で歓談している。
なるほど。それでなかなかこちら側の人は戻ってこないわけか。
「じゃあ、またしばらくNPCの戦いを眺めてるだけか」
多少巻き込まれて兵士さん達の数が減ってはいるが、相変わらず王国軍、帝国軍の戦いは続いている。NPC同士では決着がつかないようなので、当然と言えば当然なのだが。
「そういえば、これって今は同数だから勝負付かないけど、相手だけ騎士団長だけになったらどうなるんだ?」
なんかとんでもないことを言いだした。
「ちょっとやってみようぜ」
他の人も賛同し、ノリノリで兵士さんを攻撃し始める。
雷千院さんがそんな人たちの方に顔を向ける。
止めてくれるのか?
「やってもいいけど、騎士団長は倒れないようにしてよね」
そんなことはなかった。
戦闘が終わらなければどうでもいいらしい。
ちゃんとイベントとして倒すならまだしも、遊び半分で兵士さん達を倒すというのは我慢ならない。
私は今までは目立つので、道具袋の中に仕舞いっぱなしだった、漆黒の外套を装備する。
アクセサリー枠なので、鎧はそのままで装着出来る。
しかも、フードが付いているため、目深に被れば顔を隠すことも可能だ。
相手はまだ結構な数いるため、手にはスターダスト・ロッドを持ち、こちらに注意を向けられるようにわざと、雷千院さんの正面側に移動してから姿を見せる。
「あら、もう戻って……ていうわけではなさそうね。初めて見るわ子だわ」
一番高いところにいるせいか、やはり雷千院さんが一番初めに気付いたようだ。
「おい、あれってスターダスト・ロッドじゃね?」
「レア武器じゃん。てことはかなりの高レベルか?」
「でもあれって、威力低すぎてゴミ装備って結論だったはず」
私の手の中の装備に気付いた人が、武器の名前を口にするが、やはり普通の人の認識としてはそういう感じだろう。
ダメージは低めかもしれないが、攻撃範囲はかなり広いはず。
それに、別にこれで倒そうとは思っていない。
こちらに注意を向け、10分程時間を稼げば十分だ。そうすれば、また他の人達が戻ってくるはずなので、それから反撃に移ればいい。
「スターダスト・フォール」
私はスターダスト・ロッドを頭上に掲げ、武器専用魔法を発動する。
この辺り一帯の地面が急に陰り始め、空を見上げれば大量の隕石群が降り注いで来ていた。
そのサイズは直径1メートルほどと小さいが、空を覆いつくすほどの数は圧巻で、使った本人にすら逃げなきゃヤバいかもと感じさせる。
「おぉ、すげぇ!」
「俺この魔法初めて見たわ」
ダメージがほぼないことに安心し切った人達が、余裕の表情で降り注ぐ隕石群を眺める。
隕石が落ちる位置はランダムなため、一番初めの隕石は人のいないところに落ちる。
そして、近くにいた人が高高度、高速で飛来したその衝撃波により吹き飛ばされた。
「ライトニング・スピア!」
それを見た雷千院さんが、即座に魔法を放ち直撃コースの隕石を打ち砕く。
直撃すれば高台は間違いなく破壊されるからだろう。
「おい、これダメージなくてもやばくないか?」
「みんな迎撃しろ! この辺一帯滅茶苦茶になるぞ!」
慌てふためく王国側の人達。
スキルや魔法を隕石に向って放つが、隕石にも耐久力があるのか、ほとんど壊せる人はいなかった。
「だめだ、壊せない。離れよう!」
諦めて逃げようとする人も現れる。
だが、そこに一喝が響き渡った。
「慌てるな! 今ここで隊列を崩せば、今度こそ戻ってきた帝国側に切り崩されるぞ!」
大門さんの一言に、慌てふためいていた雰囲気が一掃される。
そして、彼は口だけではなく行動も行った。
「全てを守る我が最強の壁。ファランクス・ウォール!」
大門さんを中心にオーロラ色に輝く、ほぼ透明に近いドーム状の壁が形成される。
やはり持ってたか。
壁役最強のスキルの一つ、ファランクス・ウォール。範囲内の人達のダメージを全て肩代わりするスキルで、PT専用や対象選択ではないので、単純に範囲にいる人はスキル使用者が生きている限り無敵である。
「さすが大門さん!」
「有難うございます!」
色んな人達からお礼の声が飛び交い、プリースト系の人達が一斉に、大門さんに集中して回復魔法をかける。
降り注ぐ隕石はファランクス・ウォールに阻まれ、地面に到達することなく消えていく。
まぁ、これは想定内である。
私は武器を死神の鎌に持ち替える。
「鎌?」
誰かがそれを見て呟く。
「死神スキル――死ノ雨」
鎌を頭上に掲げてスキルを発動する。
今だ隕石が降り注ぐ空を、暗雲が黒く染め上げる。それも、ただの雨雲などではなく、黒煙と表現した方が正しいほどの真っ黒な雲だ。
その黒雲から黒い雨が降り始め、地面に落ちるとそこに黒い波紋を描く。
そして、プレイヤーに触れると――。
「皆、回復に専念しろ! ハイリジェネ、ハイヒール!」
大門さんがファランクス・ウォールを解除して、持続回復魔法と上位の回復魔法を自身にかける。
全員分の継続ダメージがあまりにも大きすぎて、受けきれないと判断したのだろう。
「なんだこれ!? すごい勢いでHP減ってくぞ!」
「エリアヒール!」
「頼む! 誰か回復してくれ!」
「ヒール!」
「あぁ、だめだ、回復が全然追いつかねぇ」
死ノ雨による持続ダメージに回復をせがむ人、必死に回復魔法を使う人、範囲回復の場所に人が集まりすぎて争う人、完全に諦める人など、目の前は完全に阿鼻叫喚の地獄と化していた。
さらにそこに輪をかけ、ファランクス・ウォールがなくなったことにより隕石が降り注ぎ、私の目の前は降り注ぐ隕石と、それによって引き起こされた粉塵により何も見えなくなった。
――しばらくして粉塵が収まると、多数の地面にめり込んだ隕石が目に入った。
それ以外は何もない。
何も聞こえない。
これは、完全に想定外。
死神スキル一つだけで――全ては終わっていた。
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