第33話 イベント:2大王国模擬戦・雷神と盾

「拠点に戻らずに左に来れたけど、えらい目に会った」


 サユカさんに投げ飛ばされて崖を超え、本来なら本拠地まで戻らないと 来れない左側に、ダイナミック着地(失敗ともいう)を決めた私は、左側での大規模な戦闘を離れた所から眺めていた。


 騎士団長さんがこちら側にいるのを、もうほとんどの人が分かっているのだろう、右に比べたらかなり人数が多い。


「エアロ・ブレイズ!」


 同じ帝国側のマジシャンの人が広範囲の風上級魔法を放つ。

 

「エリアヒール!」


 相手、王国側のプリーストの人が、それに対抗するように範囲回復魔法を発動する。


 どちらも高レベルでないと取れないスキルであり、かなり激しいスキルの応酬がされているようだった。


「おーっほっほっほっほっ! 何度来ても私の雷の餌食になることを学習出来ないなんて、ほんと哀れな連中ね」


 けたたましい高笑いが辺りに響き渡り、私はその声の主を見て言葉を失った。


 王国側の森からやや離れた所に、木造の高台が設置されており、その人はいた。


 高飛車キャラにありがちな長い金髪、金を基調とした魔術師の服を着てはいるが、その布地面積はすごく少なく、服の面積よりも明らかに肌の面積の方が多い。そして、トンガリ帽子とマントだけが黒で、金が際立ってなんだか目がチカチカする。


「うるせぇ! 来ないと負けになるだろうが!」

「いや、むしろ何度も俺達を蹴散らしてるのに、なんで騎士団長を倒して終わりにしない!」


 帝国側の人の抗議に、胸を反らして右手で金髪を掻き上げる。


 なんでああいうキャラの人は胸が大きいのか……。服もほとんど着てないみたいな感じだし、あれはきっとに露出狂に違いない。


「決まってるでしょ? 私の強さを知らしめるためよ!」


 金髪の人の返しに、帝国側の怒声が大きくなる。


「また初めての人がいるかもしれないから、自己紹介しとくわね。私の名前は雷千院 鳴子。雷魔法を極めし天才魔術師。私のギルドの人達は尊敬と畏怖の念を込めて私をこう呼ぶ、雷神姫と!」


 「うるせぇ!」「聞き飽きた!」などの罵声を浴びながらも、全く動じない雷千院さん。


 かなりメンタル強そうである。


「ヘヴィ・ショット!」

「フォース・ブレイド!」


 そんな自慢気に仁王立ちしている雷千院さんに対し、帝国側から意表を突いて二人がスキルを放つ。


 一人高台にいるのだから、狙いやすいというのもあるが。


 片方はアーチャーで使えるスキルだが、もう片方はソードマスターにならないと使用出来ないスキルだ。


 何度も倒されてるっぽい感じだったけど、こっちにも転職者がいるらしい。


 そして、その二つのスキルは見事に雷千院さんの胸を貫いた。


「あらやだ。胸に当てればパーツブレイクして、私の巨乳が拝めるとでも思ったの?」


 目を細めて、高台から攻撃した二人を冷ややかに見下ろす彼女。


 装備破壊で服が脱げるとか、ソレどんなゲームですか。


「そんな攻撃では、全くダメージを受けんぞ」


 攻撃した人達の反論が来ると思いきや、やや苛立った感じの声を上げたのは、高台の前に立つ大きな体の男の人だった。


 黒い短髪にラグビー選手かのようなゴツイ体。そんな巨漢を包み込むのは鉄紺色に輝く全身鎧。セット装備なのだろうか、同じ色の大きな盾を両手に装備している。


「やっぱだめか。サクリファイスがある限り、全ての攻撃のダメージが大門にいっちまう」


 攻撃したアーチャーの人が情報満載の愚痴を漏らす。


 なかなか説明的な台詞有難う御座います。


 サクリファイスはディフェンダーの上位職、ガーディアンが使用出来るスキルで、特定の人のダメージを肩代わり出来るというものだ。そして、その際に参照されるのはディフェンダーの防御力なので、スキル使用者を倒さなければ守られてる側は実質無敵にも等しい。


 私もすぐにでも参戦したいのだが、今までみたいにマジシャンの魔法だけでは無理かもしれない。


「さぁ、今度はこちらから行くわよ」


 雷千院さんが黄色の宝玉が埋め込まれたロッドを頭上に掲げ、輪を描くように動かす。


 そして、ロッドを振り下ろすと同時に魔法を放つ。


「ライトニング・レイン!」


 名前の通り雷の雨が雲一つない空から降り注ぎ、帝国側の人達が悲鳴を上げて逃げ惑う。


 かなりの範囲魔法なので威力は控えめのはずだが、雷千院さんのINTがかなり高いのか、一撃でやられてしまう者や、運悪く何発も当たって消えていく帝国側の人達。


 雷の雨が落ちる場所はランダムらしく、動いていても止まっていても当たる人は当たっているようだ。


 だが、逆に兵士さん達には当たらないように調整しているのか、そこだけは安置のごとく雷が一つも落ちていなかった。


 兵士さんの側にいれば普通に生き残れそうである。


 雷の雨が収まった後、帝国側の人は残り数人まで減っていた。


 対する王国側はまだまだ人数は残っている。


「エクスプロージョン!!」 


 突然放たれる大魔法。


 大門さんを中心に広範囲に渡る大爆発が起こり、戦場の視界を粉塵が覆い隠す。


 生き残った高レベルの人だろうか、帝国側の人が広範囲魔法を使ったらしい。


 今のは、厨二病なあの子も大好きな、言わずと知れた爆破系の魔法である。


 ウィザードが使えるスキルの大半を犠牲にしないと取れないという、なかなかに鬼畜なスキルなのだが、発動までに時間が掛かるのと、ある一定の広さがないと使用不能なため、あまり人気はないらしい。


 ロマン魔法というものである。


 巻き上がった粉塵が収まり、徐々に王国側の人達の姿が視認出来るようになってくると、生き残った人達が範囲回復魔法でHPを回復している様子が見えてきた。


 生き残った人達は、大門さんからやや距離を取った人達が多い。エクスプロージョンは中心が一番ダメージが高く、外側に行くにしたがってダメージが下がる仕様のせいだろう。


「そ、そんな……これでも倒せないの?」


 ウィザードの人が目の前の光景に愕然とする。


 それもそのはず、大門さんは相変わらず仁王立ちで立っていた。


 HPが見えないのでそれがはったりなのか、本当にダメージが皆無なのかは分からない。


「なかなかの威力だったが、俺を倒すにはちょいと足りなかったみたいだな。それに、俺は自分で回復も出来る――ハイヒール」


 片方の盾をいつの間にか杖に持ち替えており、自分で回復魔法を使用する。


 あの大魔法にも耐え、回復魔法も使用するのだから、INTとMNDのステータスもかなり上げているに違いない。


 物理だけでなく、魔法の防御も高いというわけだ。


「珍しい物を見せてくれたお礼よ――プラズマ・ストーム!」


 仕返しと言わんばかりに、今度は雷千院さんが魔法を放つ。

 ウィザードの人の足元から何条もの雷が立ち上り、それが渦を描いて激しい雷の竜巻を生み出す。


「きゃぁぁ――ッ!」


 竜巻の中から悲鳴のみが聞こえ、収まった後には彼女の姿はなくなっていた。


 このままでは確実にこちら側が全滅する。


 全滅する前に何とか出来るだろうか……。


 私は残り数人の帝国側の人達にエールを送りながら、初めて死神のスキル画面を開くのだった――。

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