第35話 イベント:2大王国模擬戦・私には倒せません!

 全て終わった。


 そう思っていたのも柄の間――。


「ライトニング・レイン!」


 雷千院さんの声が突如響き渡り、彼女がいたあたりに数条の雷が降り注ぎ、周辺の隕石が砕け散る。


 そして現れたのは、ほぼ無傷に見える二人の姿。


 さすがに高台は壊れてなくなっていたが、大門さんと雷千院さんは生き残っていた。


 雷千院さんが生き残っているのは、大門さんのサクリファイス・ガードというスキルが、まだ効いているからだろう。


「まだこんな奴が残っていたとはな。広範囲による隕石と黒い雨の継続ダメージのコンボ、なかなかのものだったぞ。まさかここで、ディヴァイン・アーマーを使うことになるとは思わなかった」 


 褒めてくれるのは有難いが、スターダスト・フォールと死ノ雨の相乗効果はまぐれです。


 ディヴァイン・アーマーか、なるほど。ガーディアン最強スキルの一つで、10秒間だけ全ダメージ無効という無敵スキルだ。クールタイムがかなり長いので、ここぞという時にしか使えないが、やはり無敵は強い。


「やってくれたわね。今度はこちらから行くわよ――プラズマ・ストーム!」


 あれは確か、足元から雷が立ち上る感じの魔法だったはず。そして、完全に包まれるまでにはタイムラグがあった。


「で、出れない……」  


 完全に発動する前にその場から離れようとしたのだが、すでに周囲に立ち上った雷により弾かれた。


「無駄よ。目の付け所は良いけど、その魔法から逃れるには、外側の雷が出現する前じゃないと無理よ」


 それってほぼ魔法発動と同時なんですが……。

 避けるのはほぼ無理ってことか。


 もうこなったら諦めよう。


 周囲が雷の眩い光に包まれ、それが収まるまでじっと目を閉じた。


 瞼を閉じていても分かる白い光が収まり、そろそろかと目を開けようとしたその時、雷千院さんの驚きの声が耳に入った。


「な、なんでまだ生きてるのよ!?」


 どうやら彼女も相当なINT特化なようだが、それでもこのチート眼鏡には歯が立たないようだ。


 ダメージログを見ると、ダメージは1だった。


 INTが単純に高いのもあるのだが、レベル差がある分私にはプラス補正が入っているのと、漆黒の外套の高い防御力と闇属性も効いているだろう。


 INT補正が凄いのはいいのだが、眼鏡好きではないのでいい加減外したいですが、どうすればいいんでしょうか運営さん! 問い合わせしても「眼鏡似合ってます」しか返ってこないのはどうしてですか!?


「お前よりINTが高いってことなんだろ? もしくは相当な装備を持っているかだな」

「なッ! 私はレベル120でほぼINTしか振ってないのよ! 私よりINTが高い奴なんているはずないわ!」


 大門さんの冷静な返しに、ヒステリックに叫ぶ雷千院さん。 


 やはりINT特化だったようだ。


 さて、今度はこちらから行こう。


「加速」


「来いッ! 俺の鉄壁を崩せると思うのならな!」


 私が速度増加スキルを発動させ身構えると、大門さんが一歩大きく前に出て、両腕の盾を前に出し受け止める姿勢を取る。


 崩せるとは思ってないけど、まぁ試してみよう。


 フードが脱げないように走るのは中々難儀だが、一直線に大門さんに向って走る。


 そして、正面に立ち塞がる双盾の目の前で、スキルを発動する。


「死ノ舞」


 まさに舞っているかのような優雅な動きで、死神の鎌を大門さんの盾目掛けて振り下ろす。


 漆黒の鎌は青く鈍い光を放つ大楯に弾かれ――なかった。


 私の身体はスルリと大門さんを通り抜ける。


「ひッ!」


 大門さんの背後にいた雷千院さんが、急に目の前に現れた私を見て小さく悲鳴を上げる。


 死の舞は5連続攻撃なので、そのまま雷千院さんに向って鎌を振り下ろし、数歩さらに進んだ先で私の足は止まった。


「まさか、この俺を物理で圧倒する奴がいるとはな……面白い、あんたのことは忘れないぜ!」


「覚えてなさい! 次は必ず倒すわ!」


 そう捨て台詞を残し、二人は青白い気泡となって消えていった――。


 正直なところ、もう会いたくないです。


 一度深呼吸して周囲を確認するが、もう他にプレイヤーは完全に残っていない。


 帝国側の援軍もまだ戻ってこない。

 

 王国側の人達もまだ戻ってこない――が、こっちはそんなに死んでなさそうだから、すぐ来るかもしれない。


 だが、誰もいない今なら、王国騎士団長さんを倒せば勝利となる。


 王国騎士団長さんは、帝国騎士団長さんと熱い戦いを繰り広げていた。 


 なんか横から手を出すのは気が引ける。


 それに、初イベントで一緒に戦った人を倒すなんて――――私には出来ない!


「なんじゃこりゃあ!」 


 突然、帝国側の森から大きな驚きの声と、どよめきが上がる。


 どうやら、帝国側の人達が戻ってきたみたいだ。


 なら、後のことはあの人達に任せて、私は王国側の妨害でもしよう。


 そうして、王国側の森を進んで行くと、意外とすぐに戻って来たであろう人達と遭遇した。


 ただ、その中に大門さんと雷千院さんの姿はない。

 やられた人達が急いで助けに戻って来た感じなのだろう。


「おいっ、あいつがいるぞ!」

「嘘だろ!? 大門さんと雷千院さんどうしたんだよ!?」


 彼らからしたら信じられない光景に、ちょっとしたパニックが起こっていた。


 その隙を突いて、私は妨害に使えると思っていたスキルを発動する。


「死ノ沼」


 私を中心に黒い何かが広がっていき、それは王国側の人達をも飲み込んでいく。


「な、なんだこれ!? 動きが鈍くなったぞ!」

「それだけじゃねぇ! あの時と同じでHP減ってるぞ、早く出ろ!」

「出たくても出られねぇ! 誰か助けてくれ!」


 かるーい気持ちで使ったスキルなのだが、どうやら本日二度目の地獄絵図を生み出してしまったようだ。


 皆のトラウマにならなければいいけど……。


 ちなみに私はこの中では自由に動けるようなので、サユカさんの水田を生み出すスキルと同じような感じかもしれない。


『リヴィルニア王国騎士団長の戦闘不能を確認しました。今回の模擬戦はエストベル帝国の勝利です。お疲れ様でした。本イベントは期間を過ぎましたのでこれにて終了となります。30秒後に元の町に戻ります』


 突如フィールドに響き渡るNPCお姉さんの声。


 さっきの人達が王国騎士団長さんを倒したのだろう。


 とりあえず、最後に勝って終われたのは良かった……かな。


「あれ、一体誰なんだ?」

「すげー強いよな」


 イベントが終わり死ノ沼から解放された人達が、私の方を見てなにやらヒソヒソと話している。


 あまり注目されるのは面倒くさ――て、このままじゃ、この姿のまま強制的に町に戻されるじゃない!?


 そう気付いた私は、強制的に町に戻される前に、慌ててログアウトしたのだった――。

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