第28話 イベント:2大王国模擬戦(帝国3人称視点)

 帝国側から見て右側に彼女達は進軍していた。


 中堅ギルドではあるがその質は高く、少数精鋭を謳っているギルド、星天旅団のメンバーである少女達だ。


「ったく、何考えてんだよあの女」


 毒突きながらサヤカが集団の先頭を歩く。 


 その後ろにエアリー、アグネス、ゆうなが続き、さらにその後ろを他のプレイヤーと兵士達が付いていっていた。


 砦から少し行ったところに森があり、その森を抜けなければ王国側の人達は見えないようになっている。

 

 一行は今ちょうど、その森の中を進んでいる最中であった。


「雷千院さんの計画はうまくいくんでしょうかね?」

「プレイヤーで兵士を足止めするっていうやつよね? たしかに上手くいけばこっちが負ける可能性は減るけど、そんなこと出来るようになってるとは思えないけど」


 アグネスの疑問にエアリーが呆れた顔で返す。


 帝国側で上級プレイヤーの雷千院 鳴子が提案したのは、中央に人手を集中させ、兵士達を足止めして倒されないようにすることだった。最悪の場合でも、こちらの騎士団長が生きている内に、相手の騎士団長を倒してしまえば勝利だ。

 

 中央に騎士団長が歩き出したのを確認した後、中央への人数を60名とし、残り20名ずつが左右に分かれた。


 ただこれは、残りの戦力で相手を倒すことが出来なければ意味がない。中央には雷千院 鳴子ともう一人の上級プレイヤー、守護神・大門がいるのだが、左右にはそこまでのプレイヤーはいない。もう一人の上級プレイヤー、フェンリルに至ってはどこに向ったのかすらよく分からない状態で、皆の不安は募るばかりだった。

 

「そもそも、中央以外のところに相手の騎士団長が来たらどうするのでしょうか? 戦力が中央に割かれ過ぎて、人数差で倒せない可能性もあると思いますが……」 


 ゆうなの言葉にサヤカが首を縦に振る。


「まったくその通りだ。あの女、何も考えてねぇな」


 そんな愚痴を溢しながら一行は森を抜けた。目の前には広い平原が広がり、さらに先には同じように森が広がっていた。


 その森の手前に王国側の兵士達は待機していた。が、なぜかその周囲にはプレイヤーが一人もいなかった。


「向こうのプレイヤー誰もいねぇな」


 普通に両陣営とも対称的な地形になっていれば、この辺りで相手とぶつかるのは想像に容易い。


「さぁ、リヴィルニア王国の実力とやらをみせてもらおうじゃないか」 

「それはこちらの台詞だ。エストベル帝国の実力、確かめさせてもらう」


 王国と帝国の兵士のその会話を皮切りに、両国の兵士30人対30人の戦いが始まった。

 だが、王国兵と帝国兵は切り結ぶばかりで、どちらかが倒される姿はなかった。

 兵士を倒すのは、あくまでもプレイヤーの役目ということだ。


「よし、私達も参戦しよう!」


 サヤカがそう言って足を踏み出したその時だった。


「お、おいっ! 後ろに敵がいるぞ!」


 誰かがそう叫んだ。


 エアリーが出てきた森の方を振り返ると、そこには20人近いプレイヤーらしき姿があった。先程まではいなかった者達であり、識別のためか体の周囲には赤いオーラのようなものを纏っていた。


「前からも来たぞ!」


 またしても誰かが叫ぶ。


 前方の誰もいないと思われた森から、30人近いプレイヤーが姿を現わす。


「くそっ、待ち伏せか! どうするエアリー?」

「相手の数の方が多そうですけど……」


 サヤカとアグネスの言葉に、エアリーはしばし目を閉じる。


 こういう時、一番戦闘に慣れたエアリーが戦術を考える。


「相手の方がかなり多い」

「これはもうこっちを守るのは無理だ!」


 諦めの声がちらほらと聞こえ始める。


「私とゆうなの範囲攻撃で前方の相手を牽制するから、まずは後退して森まで戻りましょう」


 戦い始めている兵士達を放置することになるが、全滅すればどちらにしろ兵士達も全滅させられる。


 エアリーの言葉に三人は無言で頷く。


「諦めるのはまだだ! みんなで協力して森まで退くんだ!」


 サヤカが大声で全員に指示を出す。

 こういうことは行動力がある彼女が得意だ。


「あれは、星天旅団の人か」

「こうなりゃダメ元だ、言う通りにしみよう!」


 ピンチの時こそ人は結束する。

 初めて顔を合わせる人も多いだろうが、お互い助け合いながら森へと引き返していく。


「相手は逃げてくぞ! 畳み掛けろ!」


 王国側の誰かが勢いに任せて叫ぶ。

 だが、そう簡単にはいかない。


「アローレイン!」

「ブレイズ・レイン!」


 エアリーの放つ広範囲の矢の雨が、ゆうなの放つ炎の雨が王国軍側のプレイヤーを足止めする。

 さらにその範囲には兵士達も入っており、兵士の頭上に表示されているHPが削られていく。


 ディスプレイで遊ぶゲームとは違い、プレイヤーには外見で見える名前やHPバーなどはないのだが、NPCの兵士達はHPバーが見えるようになっている。


「おい、兵士達を援護しろ!」

「あいつらを追うのが先だろ!」


 目まぐるしく変わる状況の変化に対応し切れず、王国側のプレイヤー達が混乱し始める。どうやら王国側にはリーダー的存在はいないようだった。


 協力し森にいる者達だけに集中した帝国側プレイヤー達は、ほとんど犠牲を出さずに背後の王国側プレイヤーを排除することが出来た。


「おい、どうすんだよ。完全に作戦失敗じゃねぇかよ」

「人数的に見て有利だったなら、正面から堂々と迎え撃った方が早かったんじゃねぇか?」

「今さら言うなよ!」


 王国側プレイヤーの連携が皆無なのは誰の目にも明らかだ。 


 当然、この機を逃すエアリー達ではない。


「今がチャンスだ! 向こうの援軍が来る前に今度はこっちから行くぞ!」

「「おぉぉぉッ!」」


 サヤカが反撃の狼煙を上げると、帝国側プレイヤーから鬨の声が上がる。

 人数ではまだ負けているが、先程の戦いで生き残ったことにより、士気は十分に高い。


「もうこうなったら正面から戦うしかねぇ!」

「兵士だ! 兵士を優先的に倒して少しでもポイント稼げ!」


 王国側プレイヤーも負けじと全員が突撃の姿勢を取る。


 ――プレイヤーと兵士、全てを巻き込んだ大混戦がしばらく続き、


「ヘヴィ・スマッシュ!」

「くッ、今だ!」


 高レベルプレイヤーだろうか、巨大な銀の斧を持った戦士からの一撃を盾で受けるサヤカ。


「ヘル・フレイム!」

「ヘヴィ・ショット!」


 そこにすかさずゆうなとエアリーが攻撃を叩きこみ、目の前の戦士は青白い気泡となって消えていった。


「今ので終わりかな」

「勝ったには勝ったが、ゲーム的には同点か?」


 いつの間にか、周囲にはエアリー達四人以外は残っていなかった。


 生き残りはしたがここにいた兵士は全滅しているため、ゲーム的にはどちらも300ポイントを獲得したことになる。


 ただ、プレイヤー人数に差があった分、帝国側の方が多く稼げているはずである。


 静かになった平原に、パキリと森の中から枝を踏みつけた音が響く。


「誰っ!?」 


 いち早く反応するエアリー。

 だが、その相手を見た瞬間、我が目を疑った。


「エアリー……」


 相手の人物が彼女の名前を口にする。


 同じようにエアリーも見知った相手の名前を呟く。


「……アンリ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る