第27話 イベント:2大王国模擬戦(王国3人称視点)
『人数が集まりましたので、これよりリヴィルニア王国とエストベル帝国 による模擬戦を開始します。制限時間は1時間。どちらかの国の騎士団長が倒れた時点で終了となります。それでは、皆さん頑張って下さい』
女性NPCの声が200人のプレイヤーが集まるイベント専用MAPに響き渡る。
「まずは小手調べだ。第二部隊は東へ、第三部隊は西へ、第一部隊は私と共に北へ向かう。帝国の実力とやらを見せてもらおうじゃないか」
『おぉぉッ!』
騎士団長の指示に従い、一塊になっていた兵士達が三方向へと歩き出す。
中央の兵士の先頭は、当然騎士団長が引いている。
今回のMAPは帝国側の砦は北に、王国側の砦は南に位置しており、中央、東側、西側の中間地点は広い平原となっているが、その平原の手前は森が広がっており、お互い平原から先は攻めにくい構造になっていた。
兵士達が出発すれば、普通はプレイヤー達もそれに付いて行くのであるが、なぜか誰も動こうとはせず、その視線は一か所へと集まっていた。
現在の最大手のギルド『神剣に集いし者達』のギルドマスターにして、最強のプレイヤーの一人として名高い男。
彼の横には同じギルドのメンバーが4人並んでいる。
PTで入れる機能を利用し一緒に来た、ギルドの中でも実力上位の仲間だ。
「僕達は騎士団長を追い北に向かう。だが、相手の騎士団長はどこに来るか分からない。だから、中央には僕達5人が向かい、他の者たちは西と東に分かれて欲しい。もちろん強制ではない。だけど、中央は両サイドから援軍に来れるけど、その逆は出来ない。そのことを念頭に置いて行動して欲しい」
突然の提案。
だが、有名なプレイヤーであるアレクの言葉に、他のプレイヤーの間に動揺が走る。
「さぁ、行こうか」
「はい!」
「えぇ」
「おう!」
「対人の集団戦か、腕が鳴るぜ」
アレク達は他のプレイヤーに背を向けて歩き出す。
特に返事は聞かない。
強制ではないし、彼の考えを読み取ってくれた人達ならば、どうすればいいかは自ずと理解してくれると思っているからだ。
そうして彼らがちょうどフィールドの中央に辿り着いた時には、他のプレイヤーは誰も付いて来てはいなかった。
戦いやすさを考慮してか、目の前に巨大な岩がある以外は、他にはこれと言ったものは何もないただの平原。
ここまで来てやっとアレクは背後を振り向き、ふと安堵の笑みを浮かべた。
だが、そんな雰囲気を壊すかのように、高飛車な声が頭上からアレク達の耳に突き刺さる。
「まさか、あんたと戦うことになるとはねぇ」
いつの間にか目の前の巨大な岩の上に一つの人影があった。
癖のある長い金髪に青の瞳、金を基調とした魔術師風の姿であるが、その布地面積は著しく低く、服の面積よりも明らかに肌の面積の方が広かった。唯一、トンガリ帽子とマントだけが黒なのだが、それが金色をより目立たせている。
「あ、あなたは……」
見覚えがあるのか、アレクの右隣でシーダが口を開く。
「露出狂女!」
急に現れたその女を指差し、アレクの左隣でエリーが大きな声を上げる。
「誰が露出狂よ! せっかくここに登ったんだから名乗らせてもらうわね。
私の名前は
背景に轟く稲光でも見えそうなほど、格好良く決めポーズまでとって自己紹介をするが、
「それで、その露出狂女が何でこんなところにいるのよ!」
そんなことは全く関係なしと、エリーが鳴子に向って質問する。
が、この中央の戦場でそれは愚問だった。
「ふふ、馬鹿ね。決まってるでしょ。中央で一暴れしようと思ってたんだけど、運よく見つけた騎士団長を倒して勝利を手にするためよ!
ライトニング・レイン!」
鳴子が手に持った杖を掲げると、一条の雷が雲一つない空から落ちる。
その狙い先はアレク達の後ろで待機している騎士団長であるが、
「マジックウォール」
エリーが予想していたかのごとく、素早く魔法障壁を展開しそれを阻止する。
マジックウォールは一定量の魔法ダメージを無効にする魔法であるが、鳴子の放った魔法がそれほど強くなかったため、完全に無効化出来ていた。ダメージ量が無効化量を上回れば、貫通して差分のダメージを受けることになる。
「アレクの金魚の糞にしては、なかなかやるわね。でも、私の本気にそれで耐え切れるかしら?」
「誰が金魚の糞よ! あんたの攻撃なんか何回でも防いでやるわよ!」
鳴子の軽い挑発に乗せられて、頭に血を登らせるエリー。
「エリー、落ち着くんだ。
冷静な判断を欠けば、勝てる戦いも勝てなくなる」
言いながらアレクがエリーの頭に軽く手を乗せると、エリーは嬉しそうにしながら口を閉じる。
「雷千院さん、確かにあなたは知名度もあるしそれに見合った実力もある。だけど、残念ながら今回はそれを披露することは出来ないよ」
「クイック!」
エリーがいきなりアレクに対して速度増加の魔法をかける。
何の合図もなかったが、阿吽の呼吸で彼女はアレクの言葉から次の行動を察したのだ。
「とりあえず、一旦引いてもらうよ」
アレクが岩の天辺に向って跳躍する。
NPCの兵士達は倒されればその場で消えて終わるが、プレイヤーの場合は10秒後に自軍の拠点に戻される。ただし、すぐに前線に復帰できないよう、ペナルティとして30秒間走ることが出来ない。
アレクが両の腰の剣を引き抜くと同時に斬りかかろうとするが、その視界が急に奪われた。
「おっと、悪いなアレク。今回は敵なんでなぁ。あんたの攻撃は全て防がせてもらうぜ」
「守護神・大門。あなたがそっちにいるなんて……これは簡単にはいかなそうだな」
アレクは一度退いて元の場所まで戻る。
守護神・大門は自ら名前に守護神と付けている通り、VIT特化の防御型プレイヤーだ。VITだけでなくINTとMNDのステータスも上げており、物理だけでなく魔法に対する耐性も上げている。その代わり攻撃手段は少なく、基本的に敵からの攻撃を受ける壁役として色んなPTに参加している。
ギルド『神の鎧=アイギス・アルマ』のギルドマスターで、黒い短髪にラグビー選手のような巨大な体が特徴的で、その体を包む紺色の全身鎧に巨大な盾を両手に持つ姿は、まさに歩く装甲車と言っていい。
「しかも両手に盾ということは、ガーディアンになったんだね」
「おう! なかなかいいスキルが多くてな、前よりもさらに硬くなったぞ」
大門も最近二次職に辿り着いたプレイヤーで、ディフェンダーからガーディアンへとクラスチェンジしている。盾を両手に装備出来るのも、ガーディアンで取れるパッシブスキルのおかげだ。
アレクに両手の盾を見せびらかすその頭上で、二人の会話を遮るように、鳴子が長い金髪を掻き上げながら追加情報を口にする。
「あと、こっちにはフェンリルもいたわ。ま、俺は集団行動はしない、とかなんとか言って、すぐどっか行っちゃったけどね」
それを聞いたアレクの表情が険しくなる。アレクだけではない、他の四人も驚きや不安に表情を変えた。
「狼もそっちにいるのか……なかなかに厄介だな。戦力の分散の仕方を、間違えたかもしれないな」
フェンリルは中途半端な強さでは止めることは出来ない。
強い者ほど、彼の強さを認めて――いや、認めざるを得ない。
アレクは左右の状況を不安に思いつつ、この先の作戦を考えるのだった。
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