第26話 イベント:2大王国模擬戦・開始

 マッチョさんとの取り引きを終えた私は、情報収集しようと噴水のある広場に戻り、あることに気が付いた。


 ここには結構なプレイヤーが集まっているのと、クエストが追加されたことから、情報交換をしているのかと思っていたが、実際には皆、次のイベントの話しをしていた。


 この間次のイベントの告知は来ていたが、詳細な内容までは出ていなかった。

 どうやらもうそれの詳細情報が公開されているようだ。


 クエストは後からでも出来るし、私もイベントの内容を確認しておこう。


 告知画面を開くと、『イベント:2大王国模擬戦』という大きな見出しが目に入った。


 とりあえずそのタイトルから下、イベント内容の文面に目を走らせる。


「ふむふむ……やっぱり今回は対人メインなんだ」


 どうやらこの間の対人戦が問題なかったようで、今回は大規模な対人戦を行うようだ。


 今いる大陸を治めるリヴィルニア王国、隣国のまだ未実装のエストベル帝国が模擬戦を行うため、冒険者ギルドに所属する私達も協力する、という設定らしい。


 冒険者ギルドは様々な国に支部を持つ組織で、国の兵士では対応しないような依頼を受けたり、辺境の村からの依頼などを受けたりする。その中にもさらに派閥的なギルドがあり、それがプレイヤーが設立したギルドということらしい。


 気になるイベントの内容は、次のような感じだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

・イベント期間:1週間


・プレイヤーはシステムによって戦力が均等になるように、リヴィルニア王国、エストベル帝国側に振り分けられる。ただし、5名までならPTを組んでいれば、同じ側になることが可能。


・人数がお互い100人集まれば模擬戦開始。同時に次のルームが作成され、以下同様に人数が集まり次第開始される。


・MAPは中央と左右の三つのルートに分かれており、中央のみ地形が下がっているため、左右から中央に行くことは出来ても、中央から左右に上がるには、拠点まで戻らないと行けない。


・プレイヤーをキルする度に1ポイント獲得。ポイントは個人ではなく国ごとであり、総合得点で多い方が勝利となる。


・プレイヤーレベルに差がある場合、その差分に応じた分だけダメージに補正が入る。


・それぞれの拠点からは王国兵士達が共に出撃する。相手兵士を倒した場合は10ポイント獲得。三方向のいずれかに出撃した騎士団隊長を倒した場合は100ポイント獲得。


・どちらかの騎士団長が倒された場合、その時点で模擬戦は終了となる。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 簡単にポイントだけ押さえると、こんな感じだろうか?


 だが、どうやら賑わっているのは、イベントの話しだけではなさそうだった。


「イベントと同時に新クラスはねぇよなぁ」

「あぁ。少しズラせばいいだろうに、なんで一緒にしたんだろうな?」


 こちらも告知通り、イベントと同時に新クラス「侍」を実装するということらしい。


 なぜ、わざわざ同時タイミングにしたのか理由は分からないが、これではイベントに参加する人と、侍に転職してレベル上げに集中する人で別れてしまうかもしれない。


 このゲームではクラスを任意に変更することが出来るのだが、その際にレベルは現在の半分になってしまう。


 なので、侍にクラスを変更した人たちは、おそらくイベントよりもレベル上げを優先するだろう。そうなれば、当然イベント参加者は減る。


 運営は一体何を考えているのか……。


 まぁ、考えても答えが出ないことはさておき、イベントまで二日しないので、必要なアイテムを買うくらいの準備はしておこう。




 ――イベント当日、前のイベント同様に専用NPCのお姉さんに話しかけると、イベント専用のMAPへと飛ばされた。


 目の前に広がるのは広大な平原と、遠くにある森。ただ、説明にあった通り中央部分は土地が下がっているのか、正面だけは遥か遠くにある相手側の城? のようなものが、薄っすらと見えていた。


 ふと振り返れば同じようなものが背後にあり、城というよりは小さめの砦といった方が近い印象だった。


 その砦には見覚えのある旗が垂れ下がっている。おそらく、こちらがリヴィルニア王国側なのだろう。


 周囲には私と同じように、イベント待ちのプレイヤーがたくさんいた。


 レベルは分からないが、装備から推測するに、結構低レベルから高レベルのプレイヤーまで、幅広くいるように感じる。


 その中に、一際人が集まり目立つ集団があった。


 完全に他プレイヤーの壁に阻まれて見えないのだが、どうやらこちらのチームには最強プレイヤーの一人である、アレクさんがいるようだ。


 周囲は歓喜し既に勝った気でいる人もいるが、私はそうは思わない。


 いかにアレクさんが強くとも、無傷で一人で倒せる人数には限界があると思うし、こういう戦闘ではやはりチームワークが大事である。


 ただ、ギルド戦やPT戦ではないので、他人同士でうまく連携を取れるかは謎であるが。


『人数が集まりましたので、これよりリヴィルニア王国とエストベル帝国 による模擬戦を開始します』


 突如、フィールド内に専用NPCのお姉さんの声が響き渡る。


 前のイベントでも聞いたことがある声だ。


『制限時間は1時間。どちらかの国の騎士団長が倒れた時点で終了となります。それでは、皆さん頑張って下さい!』 


 その台詞を起点に砦の門が開き、中からかなりの数の兵士達が姿を現わす。そして、その先頭を歩くのはもちろん騎士団長。前のイベントで見た人と同じだ。


「まずは小手調べだ。第二部隊は東へ、第三部隊は西へ、第一部隊は私と共に北へ向かう。帝国の実力とやらを見せてもらおうじゃないか」


『おぉぉッ!』 


 あまりプレイヤーに対して干渉はないようで、兵士達は三方向に分かれて歩き出す。


 騎士団長さんが向かうのは中央のようだ。


 私にとっては初の対人イベント、一体何が起こるのかだろうか……。


 不安と好奇心が入り乱れる中、私はどの方向に進むか悩むのであった。

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