第24話 引退
死神タナトスの攻撃にカウンターを仕掛けること8回目、くらいだろうか? おにぎりは今食べたものが最後であり、泣いても笑っても次の一撃に全てを賭けるしかない。
問題は攻撃を当てるタイミングだが、おおよそコツは掴んだ。
死神タナトスがくる瞬間先に風がそよぎ、その後に突進のような謎の攻撃を仕掛けてくる。もしかしたら、鎌を振り下ろしたりしているのかもしれないが、暗くて相手の動作はほとんど見えない。
そう、動きが暗くて読めないため、何かないかと考えて思いついたのが、ダメージログの利用だ。
攻撃を受けた瞬間にログが表示され、その瞬間に撃てばほぼ確実に当たった。
今までの練習の中でも、命中率7割は出ている。
もう何度も受けて慣れた風が、頬を撫でる。
――緊張の一瞬。
正面は見ずに、ジッとログ画面に集中する。
風が来てから2秒くらいで来るのだが、集中しているせいかものすごく長く感じる。
ゴクリと唾を飲み込んだその瞬間、視界の隅に死神タナトスの姿を捕らえた。
そして、ダメージログに待っていた文字が浮かび上がる。
『死神タナトスから5004のダメージ。』
その情報を認知するよりも早く、まさに反射反応のごとく私はスキルを発動した。
「深淵の魔眼!!!」
発動した瞬間何かが周囲に迸った感覚はあったが、周囲が暗闇なせいでなにが起きたのかを認知することは出来なかった。
ちゃんと当たったのかどうかすら分からない。
私は再びダメージログに視線を移す。
『死神タナトスへ624557のダメージ。』
か、かなり強力スキルだろうとは思っていたが、まさかここまでとは……。
62万ダメージとか、他の人に見られたら完全にチート扱い――。
いや、それよりも、死神タナトスはどうなったの!?
慌てて死神タナトスがいるべき方向に目を向けるが、そこにはただの暗闇しかなかった。
周囲360度見渡すが、どこにも相手のHPバーを示すものは見当たらない。
倒した……? いや、星屑の崖でのボス、ダーク・アモスフィアでもHP100万以上あったのだから、今の一撃で倒せたとは考えにくい。
となると、次に来るはHP減少による攻撃パターンの変化か、第二形態といったところだろうか……?
まぁ、どちらにしろ回復が出来ないのだから、次の攻撃で確実に死ぬ未来は変わらないだろう。
――謎のしばしの沈黙。
『まさか我を超える者がいようとはな』
声は、背後から聞こえた。
恐る恐る振り返るとそこには、暗闇の中でありながらも、しっかりと姿の見える死神の姿があった。
『1000年前、自らを勇者と名乗る人間によって封印されて以来、復讐のことだけを考えて復活を待った』
今はフードの下には骸骨のような顔があり、どうやって話しているのか口は全く動いていない。
『だが、いざ復活してみれば、長きに渡る封印により我の力の大半は失われ、またしても人間に追いつめられるとは……』
長々と語る死神タナトス。
これはもう戦闘終了してるの?
これで終わりになってくれるのか、ここから真の力解放みたいな形で二戦目が始まるのか、内心ドキドキしていて話が全く入って来ない。
『我にはもう戦う力は残されておらん』
ホッ。
その言葉を聞いて安心しました。
『力なき我ではもうこれ以上続けることは出来ん』
どんどん一人で喋り続ける死神タナトス。
『我は死神を引退する』
「えっ! 死神って職業だったの!?」
今まで黙って聞いていたのだが、あまりの宣言に我慢できず思わずツッコんでしまった。
『そして、我の代わりにお主が死神となり人間の魂を狩り取るのだ!』
いや、私も人間なんですが?
――人間か? そういえば、ゲーム開始時に自分の種族がどうとか見たことがない。もしかして、実は人間以外の種族?
『死神の力を引き継ぎました。
特殊クラス<死神>にクラスチェンジします。
クラスチェンジする方のクラスを選択して下さい』
突如現れるメッセージ画面。
前に見た農民にクラスチェンジする時と同じ画面だ。
「いいえ」
私は即答する。
だって死神とか完全に悪役な感じだし。下手したらお手伝い系クエストで、私の意思関係なくNPCさん達を殺しかねない。
『拒否することは出来ぬ』
死神タナトスが私を見下ろしながら、静かに言葉を返して来る。
えぇ?
いやいやいや、クラスチェンジするかしないかでしょ?
――――って、いや、これ、この文面、死神になること確定してる!
これはもうさすがに、どちらか選ばないとここから出ることも出来なそうだなぁ。
まぁ、今の私の状況で選ぶなら、
「じゃあ、ファイターで」
そう答えると、私の身体は数秒光に包まれ、それが収まった後全身を眺めてみたが、特に変わったところはなかった。強いて言えば、手に持っていた鉄の剣がなくなっていることくらいか。
『ファイターから死神にクラスチェンジしました。』
メッセージ画面の文章が変わり、自分のステータス画面を見てみると、クラスの部分が『死神』と『マジシャン』になっていた。
死神はおそらく普通にはなることが出来ない、農民と同じようにクエストでなることが出来る特殊クラスなのだろう。
『あとは任せたぞ、新たなる死神よ』
そう言い残し、元死神(?)のタナトスは闇に溶けるように姿を消してしまった。
人を勝手に死神にしていなくなるとか、なんて自分勝手な奴!
やり場のない怒りをどうしようか考えていると、さらに目の前にメッセージ画面が出現する。
『驚愕! タナトスさん死神引退!? クエストクリア報酬。』
始めの一文を見た瞬間噴き出してしまった。
クエストタイトルひどっ!
タナトスさんかなり真面目な感じでしたけど!? タイトルと中身のギャップひどいな。
タイトルはさておき、メッセージの続きを確認しよう。
『パッシブスキル:死神の力を引継ぎし者 ALL+142
武器:死神の鎌 装備Lv:死神専用
攻撃力:900 対人間に対するダメージ+500%
装飾品:漆黒の外套 装備Lv:死神専用
防御力:150 魔法防御力:150 属性:闇』
NPCさんのお手伝いでまったり遊ぶつもりだったのに、またしてもステータスの上昇。
特に強い敵と戦いたいとか、考えてないんだけどなぁ……。
そして、専用装備っぽい武器と装飾品。どちらも見たことないほどの高性能で、死神らしく対人性能に長けている。
装飾品の方は闇属性が付与されているようだ。
闇属性は光以外の属性に強く、かなり汎用性が高いとされている。
ただ、今のところ闇属性装備はレアアイテムを用いた防具製造スキルでしか入手出来ず、ほとんど持っている人はいない。
周囲の闇が薄れ始め、元の景色が返ってくる。
目の前には見覚えのある一本の木。
どうやら元の場所に戻って来れたようだ。
ふいに、ピロンといつもの新着を知らせる音が鳴る。
メールではなく、ゲーム運営からのお知らせの様だ。
どうやら、次のイベントの告知みたいだ。しかもそれだけではなく、『武士』という刀を扱うクラスが実装されるらしい。
これはイベントに参加する人と、新クラスに専念する人とで別れそうな気がする。
とりあえず、一度町で落ち着きたい。
不本意ながらいきなりクラスが変わってしまったのだ、何がどうなったのか調べておかないと、いざという時不安である。
ここから東に行くと、南の町カーレンがある。
まだ行ったことない町だが、せっかくなのでそこを目指すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます