第22話 一難去ってまた一難

 ダンジョン星屑の崖最下層で、ボスモンスターであるダーク・アモスフィアを倒した私は、取り巻きとして召喚されたダーク・テラーのドロップアイテムである漆黒の塵を収集した。


 いくつ手に入れたのかはあまりに多すぎて分からないが、総数はなんと10036個と、クエストに必要な数を超えていた。


 ということで、クエスト達成の報告の為に、例の一本の木に戻ってきた。


 ふと、手が目元に付けた物に触れる。


 ゲームなので感触はないが、これもリアルさを追及してなのか、視界に眼鏡のフレームがあるため、つい手で触れてしまう。


 ついでに言うと、時間経過で外れないかと定期的に試している。


「集めて来たわよ」


 目の前の木に向って声を掛ける。

 正確にはその幹にいる1匹の蟻にである。


『見せテみヨ』


 久しぶりに聞く渋めな低音ボイスが、脳内へと直接響いてくる。


 もはや手に持って出せられる量ではないため、私は道具袋を逆さまにして漆黒の塵のみを地面に落とす。


『オォォォォッ! よくゾ集めテくれタ』


 今だ正体の分からない蟻んこが嬉しそうに声を上げる。


『コレで元ノ姿に戻レル』


 どういう理屈なのか分からないが、元に戻れるなら何よりだ。


 地面の黒い塵が蠢いたかと思うと、それらが一気に吸い込まれるかのように蟻に向かって動き出す。


 蟻を包み込むように、漆黒の塵が握り拳ほどの大きさの黒い球体を形成する。

 それは、木の幹を離れ空中へと移動し、その大きさを膨張させる。

 直径10メートルほどの巨大な球体になったところで止まり、


『礼ヲ言うゾ人間。コレデ――』


 直接脳内に響く声と共に、黒い球体が溶けるように下側からゆっくりと消えていく。

 

 足先からゆっくりと真の姿が露わになる。


 まず見えてきたのは黒いローブと同じく黒く長い柄。 

 封印されし古の大魔導士とか出てくるのだろうか?


 そのまま首下あたりまで姿が見えてきても、相変わらず見えるのはローブと柄で、正体は分からない。

 

『元ノ姿ニ戻ルコトガ出来ル』 


 そんなことはわかってるよ!


 と心の中でツッコミを入れていると、ソレはついに顔を露わにした。だが――


「全然わからんし!」


 我慢できず思わずそう声に出していた。


 顔を露わにしたのはいいが頭にも黒いフードを被っており、なぜか顔面が真っ黒で、どんな人なのか見て取ることは出来なかった。


「あなたは何者なの?」


 問う私に彼は、


『長カッタ。実ニ長カッタゾ』 


 うん。人の話し聞いてないな。


『憎キ人間ドモメ。我ヲ殺セナイト分カッタ途端封印シオッテ』


 おや?

 一人で勝手にしゃべり続けているのだが、何やら台詞が不穏すぎる。


『今コソ復讐ノ時。人間ドモヲ根絶ヤシニシテクレル』


 両手を大きく広げ声を張り上げた瞬間、彼の手に持つ獲物を今やっと認識した。

 

 手で握っているのは長い柄だが、その先端にある物は魔法具や水晶などではなく、陽の光を浴びて怪しげな光を放つ黒い三日月状の刃だった。


 そう、彼の持つ獲物は人を殺すための道具、巨大な鎌である。


 それを見て私は悟った。


 これ、目覚めさせちゃあかんやつや……。


『ダガ、我ノ封印ヲ解イタオ前ダケハ見逃シテモヨイ。――ソレトモ、人間ノタメ我ヲ止メルカ?』


 めっちゃ見逃してと言いたいが、そしたらどうなるのだろうか? 他のプレイヤーも巻き込むってことはないと思うんだけど、まさか私の世界線だけこいつによって崩壊した世界になってしまうんじゃ!?

 町の広場で「おはよー」とか言いつつも、私の見てる風景だけそんな呑気な挨拶してる状況じゃねぇよ! みたいな?


 なら、やはりセオリー通り答えは一つ。


「と、止めるわ!」


 しばしの沈黙。


『イイダロウ。マズハ貴様ヲ人間消滅ノ第一歩トシテヤロウ』


 彼は大鎌を持った方の手を頭上に掲げる。


 その瞬間、大鎌を中心に黒い闇が全てを飲み込むかのように広がった。


「くっ!」


 思わず両腕でガードの態勢を取ったが、私の身に何かが起こった感じはなかった。


 恐る恐る腕を降し状況を確認――。


「えっ、な、ナニコレ!」


 珍〇景に登録! とか、くだらないことを言っている場合ではないが、一目でとんでもない状況であることは理解できた。


 周囲は完全な闇。

 360度どこを見ても完全な暗闇のみ。


 大鎌を持った彼の姿も闇に溶け込んで見えない。


 これでどう戦えというのかと思ったが、戦闘開始と言わんばかりに遠くに赤いHPバーが出現する。


 おそらくあそこにいるのだろう。

 

 ただ、通常ならそのHPバーの下に見えるはずの名前が、周囲が暗すぎて読むことが出来ない。


 呼び名がないと不便なので、とりあえず死神と呼んでおこう。


 とりあえず、どれほどのダメージが入るのか確認だ。


 道具袋の中からキラーアクスを取り出し、死神に向って一直線に走る。

 どちらを向いているのかさえ分からないので、構わず正面突破だ。


「あ、あれ? 進んでない!?」


 結構な距離を走ったと感覚的に感じた頃、目の前のHPバーの大きさが変わっていないことに気が付いた。


 まさか、近付く事が不可能な戦闘?


 だとしたら、魔法か弓しか届かないことになるが、近接職だと完全に無理ゲーということになる。

 

 そんな酷い仕様、有り得るのだろうか……?


「近接がダメなら」


 私はキラーアクスを道具袋に仕舞い両手を前に突き出す。

 こういう時、剣と魔法両方使えるのは便利である。


「ウィンドブレード」


 風の刃が真っ直ぐに死神に向っていき、HPバーのあるあたりで何かにぶつかったように霧散する。


 全く見えないが、やはりあそこにいるのだろう。


 私は急いでダメージログを確認する。


「は?」


 表示された数字を見て思考が一瞬固まった。


 表示されいた数字は0。


 私のINTは眼鏡とパッシブにより、1207とありえない数値になっている。これでダメージが通らないのはさすがに考えにくい。

 となると、魔法無効ということになるのだが……。


 近付く事が出来ず魔法も効かないとか、完全に無理ゲーである。


 というか、なんで私こんなのばっか出くわすの……?

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