第13話 特殊クエスト その1
――西方の町、ローナ。南方の町、カーレン。今回クエストが追加されたのはその二つの町を中心としている。
ということで、私はまず西の町ローナを訪れていた。
西の町というところでなんか嫌な予感がしていたのだが、案の定予感は的中した。その町は以前、ひたすら石をぶつけられるだけという、とんでもないクエストを受けたところだった。その時は町の名前なんて気にしてなかったのだが……もう二度と近付くまいと思っていたここに、こんなにも早くまた訪れることになるとは。
町の中に一歩足を踏み入れれば、既に中はクエストを探して回るプレイヤーで溢れ返っていた。
町の中央に位置する場所には大きめの広場があり、
「あっちにアイテム収集のクエあったぜ」
「こっちには護衛のクエあるぜ」
クエストの意見交換が行われていた。
ちなみに、ざっと聞いてるだけでも20以上のクエストは追加されていそうである。
とりあえず、情報が出ている簡単そうなクエストからやってみよう。
――2時間ほど情報の出ていたクエストをやってみたのだが、やはり予告していた通り、定番のアイテム収集やNPCを護衛するなど、簡単なものが多かった。報酬はアイテム、お金、経験値など様々だが、やや難易度が高めのものはステータスが少し上がるパッシブスキルがもらえたりしたので、これはやっておいて損はないというものがほとんどだった。
ただ、今までたまに見かけたような、異常な要求のクエストは一つもなかった。
て、何を期待してるんだ私は。なんかキツめのクエストじゃないと、満足出来ない体質になりつつあるんじゃないか!?
町の中でのクエストは大体やり終えたため、少し町の外をぶらぶらする。南に向かう街道を進むと大きな森があり、それを抜けてしばらく進むと小さな村がある。もしかしたら、そっちにも何か追加されているかもしれない。
私がしたいのはNPCさん達のお手伝い。収集でも護衛でも配達でもいいから、みんなの為になるクエストがしたい!
と、そんなことを考えながら歩いていた私の目の前に、突如一つのメッセージが現れる。
――特殊合流クエスト発生――
…………は?
思わず目が点になる。
全くの予備知識無しからの急な特殊クエスト。こんな名前のクエスト他のゲームじゃ見たことない。
「おいあんた。なんでそこにいるんだ?」
急に降りかかる声にそちらへと顔を向ければ、そこには一台のゆっくりと歩む馬車と、それを守るように馬車の後方部で剣を片手に立っている男の姿があった。
急に始まったクエスト……NPCだろうか?
「あ、あの、これは一体なんのクエストでしょうか?」
私の問いにその男の人は馬車を降りて歩み寄ってくる。
「俺達は今、馬車護衛クエストの途中だ。あんたこそなんでここに来れたんだ?」
今の返答から、彼らがNPCではないことが分かった。だが、だとするとおかしな点がある。護衛クエストのように他プレイヤーの邪魔になるようなクエストは、専用のクエストモードになり、他の人は干渉出来ないようになっているはずなのだ。
「わかりません。特殊クエストとかなんとか出たんで、もしかしたらそれが関係するのかもしれないです」
「特殊なクエストか……」
顎に手を当てて考え込む男。とその背後で、馬車の中から一人の老人が顔を覗かせた。
「まぁ、護衛が増えるのはいいことじゃないか。一緒に護衛してくれるならば君の分も報酬は払おう」
どうやらこの白髪のおじいちゃんが、NPCクエスト主のようだ。
「はい!」
先にクエストを受けた人の達のことを忘れて、気が付いたら返事を返していた。
これでおそらく、特殊クエストとやらを受けたことになるはずだ。
「おい、勝手に――まぁ、いいか。報酬は減るわけじゃなさそうだしな。それに何が特殊なのか俺も気になる」
――よかった。勢いで受けてしまったが、反対されたらどうしようかと思った。
「おい、デイン。敵が来たぞ!」
「あぁ、今行く!」
馬車の先頭の方から声が聞こえ、目の前の彼がそれに答える。
おそらく彼の仲間が、前の方を見張っているのだろう。
「どうやら敵が来たみたいだから先頭の方に……って、まじかよ」
急に驚いた表情を見せる彼に合わせて背後を振り返れば、そこには10数体のモンスターが馬車を取り囲むように迫って来ていた。
「くっ、これでは前に進めん! お願いします冒険者様。モンスターを倒して下さい」
今度は馬車の中から声が聞こえ、馬車がその場で動きを止める。
「あんた、レベルは?」
「えっと、今36です」
「あんま高くないな」
デインさんは私のレベルを聞いて渋い顔をする。
「デインさんは先頭に行って下さい。戦力を分散するより、集中して片付けた方が早いと思います。戻ってくるまで、後方は私がなんとか押さえます」
私の提案にデインさんはしばし考え、
「確かに君の言う通りだ。分かった先頭を三人で速攻で片付けてくる。ただ、俺達は全員近接職で援護が出来ない。だから、倒して戻ってくるまでなんとか持ちこたえてくれ」
そう言い残し、彼は先頭へと走って行った。
なんとか押さえる――は、嘘だ。
持ちこたえてくれ――にも、答えられない。
だって、いくら来ようとも倒す気満々だから!
中にいるおじいちゃんのため、全力で戦うわ!
「加速!」
狼やゴブリンなど、RPGではよく見かけるモンスターばかりだが、今まで称号の効果が乗る樹種族ばかり相手にしていたため、初めて戦う敵ではある。
ギィィィッ!
ゴブリンが数体、奇声を上げて襲い掛かってくる。
私は道具袋からキラーアクスを取り出し、迫りくるゴブリンの脇を抜けると同時に一撃をお見舞いする。
ギィィッ!!
一際甲高い奇声。
斬ったゴブリンへと振り返れば、それは地面に倒れ黒い泡となって霧散していた。
レベルの低さをカバーする称号とパッシブによるSTR上昇。加えて今のレベルで扱うような物ではない武器により、余裕の瞬殺だ。
「これなら余裕ね」
AGIのパッシブと加速の高速度に対応できる程の強い敵はいないようで、私は次々と現れたモンスターを倒していった。そして、丁度最後の一体を倒し終えた頃、デインさんの声が耳に入ってきた。
「助けに来たぜ――て、もう終わってるのか」
私は慌ててキラーアクスを道具袋に入れる。
女の子がこんな飾り気のない斧を扱ってるところは人に見せたくない。
「は、はい。こっちはあまり敵いませんでした」
キョトンとするデインさんに、あたりさわりのない言葉を返す。
「……そうか。結構敵が強かったから心配だったんだが、無事でよかった」
少し考えるそぶりを見せた後、彼は笑顔でそう返した。
「有難うございます、冒険者様。馬車を動かしますのでお乗り下さい」
馬車の中から声が聞こえ、デインさんは馬車の中へと入っていく。
私もそれに続いて中に入ると、馬車がゴトリと揺れ再び動き出した。
この特殊クエスト、次は一体何が待ち受けているのだろうか――。
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