第14話 特殊クエスト その2
「えっと、夜桜アンリです。Lv36でファイターとマジシャンです」
街道が終わり森の中をゆっくり進み、たまに小さく揺れる馬車の中、私は目の前の男性プレイヤー三人に自己紹介する。
「俺は
「俺はドリアンだ。Lv45でファイターとマーチャントだ」
マーチャントとは商人のことだ。店売りアイテムを安く買ったり、収集品を高く売ったりと、まぁ、他のオンラインゲームでよくある役目がメインである。
「そして、俺がデイン。Lv45でファイターとシーフだ。この三人でこの護衛クエストをやっていたんだが、どうやらこのゲームには特殊クエストってのがあるらしく、彼女が途中から合流した。どこが特殊なのかはまだ不明だが、人数が増えた分難易度が上がる可能性もある、これから先はさらに警戒して進んで行きたいと思う」
ご丁寧な説明有難うございます。
「疾風は確か、一度このクエストをやってたよな? 何か特殊になりそうな場所とかあるか?」
デインさんの言葉にしばし考え込む疾風さん。
「あるとすれば……森の中の分かれ道、か?」
その話を聞いたデインさんが、慌てて馬車の外に顔を出す。
「お、おい! すでに分かれ道の左進んでるぞ、大丈夫なのか?」
「え? いや、別れ道を進むのは右のはずだぞ!」
デインさんの言葉に疾風さんも顔を出す。続いてドリアンさんも顔を出したので、私も近くの窓から外を覗いた。
進行方向右側の窓だったため、少し離れたところに別の道が続いているのが見えた。
そうしてしばらく進むこと10分程経った頃だろうか、馬車は動きを止めた。
「あれ、着いた?」
私の言葉に疾風さんが訝し気な顔を返す。
「いや、こんな近くはないはずだ」
「なんてことだッ! 近いと思ってこちらのルートにしたのだが、まさかこいつに出会ってしまうなんて!」
馬車の外、馬車を操作していた御者さんの驚きの声が響く。
私達は顔を見合わせ、すぐさま馬車の外へと飛び出す。
「こ、こいつは!?」
目の前にそびえ立つ巨大な大木、その大木にいかにも木のモンスター的な、悪い感じの顔が付いていた。
そして、注目すべきはその大木の頭上にあるHPバー。それは通常のモンスターにある物の10倍以上もある。そこから予想される答えは……
「ボスモンスターか」
「いや、でも、俺がやった時にはこんな奴出なかったぞ」
デインさんが小さく呟くと、疾風さんがそれに返す。
「これが特殊クエストなんだろ。なんにしても、やるしかねぇだろ!」
ドリアンさんが両手持ちの斧を手に、一人先に敵の前へと歩み出る。
「ちぇ、わかってるよ」
「俺達ならやれるさ! 夜桜さん、あんたは魔法が使えるんだから、援護に回ってくれ」
「う、うん。わかった!」
ボスの前に三人が立ちはだかり、その後ろで私は構えを取る。
ただ、魔法で援護と言うが、今までほとんど魔法を使ったことがない。一応初級の魔法は色んな属性のものを取得しているが、そこから先はどう取っていくか未だに決め切れていない。
ォォォォォォォッ!
ボスモンスターの声なき声が森の木々を揺るがす。
声が出ない代わりに、体に生えた無数の枝が乾いた音を不気味に奏でる。
そして、その無数の枝がこちらへ向かってくるのと同時に、こちらも攻撃を仕掛ける。
前衛三人が向かい来る枝を捌き、もしくは避けながらボスとの距離を詰める。
その三人を背後から攻撃しようと伸びた枝を、
「ファイアーボール!」
おそらく世の中で一番ポピュラーであろう、火の魔法によって消滅させる。
「連撃!」
「大切断!」
「ヘヴィ・スマッシュ!」
三人のスキルがボスに直撃する。が、三人の攻撃で削れたのはほんの僅か。
「くそぉ! ボス固てぇ!」
「何度でも打ち込んでやるさ!」
ひたすら攻撃に専念するデインさん達。
しばらく攻撃していると、私はあることに気付いた。
――これ、ボス攻撃、私にしか来てなくね?
私はダメージ判定のない枝しか攻撃していないが、一番ダメージが出ているであろう私に、ボスの攻撃が集中していた。
デインさん達はこれには気付いていない。だが、これは逆に彼らの安全が確保出来たと言える。
そしてこの状況、私には好都合だ。
「プレジャー・ペイン」
私はスキルを発動し、あえて魔法攻撃をやめて敵の攻撃を受ける。そして、HPが半分を切ったら即ハイポーションで回復を繰り返す。ボスの手数はかなり多く、1分程度でスキルのDEF上昇効果は+300となった。
「これならなんとかなりそう」
始めは1発400くらいだったダメージが、DEF上昇分を引いた数値、100くらいまで減っている。
ここまで減ればしばらくの間、回復無しでも耐えながら攻撃することが出来るだろう。
「加速!」
私は懐からキラーアクスを取り出すと同時にスキルを発動。
正面は三人が占拠しているため、高速移動で直径3メートルはあるボスの背後に回る。
「とりあえず、これで様子見!」
スキルは使わずにとりあえず三回切りつけ、一度正面の元の位置、三人の背後へと戻る。
そして、ボスのHPを確認し――私は驚愕した。
ボスやわらけぇ!
危うく私の攻撃で終わってしまうとこだった。まだ9割くらい残っていたHPが、今はもう0.5割ほどしか残っていない。今まで赤に染まっていたHPバーが、今はほぼ黒一色である。
「くッ!」
「なにッ!?」
「急に攻撃変わったぞ!」
三人がどうやら枝以外の別の攻撃にやられ、私のところまで吹き飛ばされてきた。
よくあるHPが一定数切ったら、攻撃パターンが変わるやつだろうか?
「あ、でも、もうボスのHP残り僅かですよ」
私はわざとらしくボスを指差して言う。
「おぉ! たしかにもう少しだ!」
「なんだ、いつの間にかかなり削ってたんだな!」
疾風さんとドリアンさんが喜びの声を上げる。
単純で助かったぁ……。
「だが、さっきより攻撃が激しくなっている……」
「回復は私がやりますから、一気に行きましょう!」
デインさんの不安げな言葉に、私は強気の台詞で返す。
もう、ここまで来たら一気に行ってしまったほうがいい。ほとんどの攻撃は私に集中しているし、まだプレジャー・ペインの効果も切れてはいない。
まぁ、切れてもまた使えばいいだけなのだが……。
「よし、一気に行くぞ!」
『おうっ!』
デインさんの掛け声に私達も大きな声で返し、三人は再びボスに攻撃を、私は敵の攻撃を受けながら自分と三人をハイポーションで回復し、たまに来る枝の攻撃を魔法で排除していく。
「これで終わりだ! ヘビィ・スマッシュ!」
デインさんがもはやHPバーが残っているのか、残っていないのかよく分からないボスに、最後の渾身の一撃をお見舞いする。
ォォォォォォォッ!
不気味な声が森全体に響き渡り、ボスの身体がボロボロと崩れ始める。
その光景に、ふと、初イベントの時のボスを思い出す。
全身が崩れていったボスは、最後に根元から50センチほどの高さの切り株を残した。そして、その切り株の上には、いかにも討伐報酬といった感じの豪華な装飾の宝箱が置かれていた。
「おぉ! なんかすげぇ宝箱出た!」
「まじか!?」
「あ、開けていいんだよな?」
「これはワクワクしますね」
宝箱を取り囲む私達。
そして、デインさんが宝箱の蓋に手を掛け、ゆっくりと持ち上げていく。
アニメのような眩い光――は、飛び出なかった。
『は?』
中身を見た瞬間、私達は揃って間の抜けた声を出していた。
宝箱の中身は、ただの紙切れ一枚だった――
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