第12話 初の対人イベント(観戦)
初めてクエスト失敗を経験した山からいつもの町に帰還すると、なにやら一つの話題で盛り上がっているようだった。
「お前は誰が勝つと思う?」
「やっぱアレクさんじゃね?」
「いやいや、今回は個人の力が試されるんだから、ソロで2次職までいってるフェンリルさんだろ」
何かを予想するような会話あれば。
「今回は俺はパスかなぁ」
「私も両方支援職だから無理かな」
というスルーを予想させる発言もある。
だいたいこういう時は何かが公開、更新された時だ。
私は目の前にゲームのお知らせ画面を表示させる。するとそこには2件の更新があった。
それは次のイベントの告知。日時は1週間後、各街に配置されるNPCからイベント専用MAPに行けるらしい。そこで行われるのは1対1の対人戦。参加するだけでいくらかのお金が手に入り、勝てばさらにそこに上乗せされる。という単純なものだった。3日間限定の開催なので、おそらく対人テスト的な感じだと思う。
それなら私もパスかなぁ。
そんなことを思いながら画面をスクロールしていくと、一つ前のお知らせが目に飛び込んできた。
クエストアップデート。今あるクエストはちょっとしたお手伝い的なものばかりであったが、次のアップデートで定番のNPC救出や護衛、アイテム収集や人探しなど色々なサブクエストが追加されるらしい。
こちらも同じくアップデート日は1週間後だ。
ちなみに、メインクエスト的なものも存在はするが、そちらのアップデートは今回はないらしい。まぁ、メインの方は結構なボリュームがあるので、短期間でアップデートはされないと思う。
うんうん、こっちの方が断然楽しみ!
――1週間後、対人用NPCの周辺は人で賑わっていた。自分の育てたキャラがどこまで通用するか、試したい猛者達がこぞって参加しているようだった。
そして、その対戦風景を観戦できるとこいうことから、NPCの周りには挑戦者じゃない色んな人達が集まっていた。
せっかく実装されたんだし、私も少し観戦してみよう。
NPCに話しかけると、対戦中リストが表示される。対戦者が適当に付けたタイトルがズラリと並び、その中の適当な一つを選び「観戦する」を選択すると、専用のフィールドへと飛ばされる。
中央で戦っている二人を中心に薄白い壁が円形に広がり、それが外で観戦している私達との境界線になっていた。
中で戦っていたのは有名人の二人。
適当に覗いたつもりだが、かなり運がよかったみたいだ。
一人はゲーム内最大級のギルドを率いるアレクさん。もう一人はギルドには所属していないものの、ソロプレイのみで2次職まで辿り着いた実力者フェンリルさん。
もうすでに戦闘は始まっていて、フェンリルさんがアレクさんに猛攻を仕掛けているところだった。
「さっきまでの威勢はどうした!」
「まだ始まったばかりだろ、そう焦るなよ」
フェンリルさんの二刀流による攻撃を、アレクさんは涼しい顔で片手剣で捌いていく。
「今回は俺が勝つ――加速!」
「いいや、この辺で差を付けさせてもらうよ――加速」
二人とも加速使えるんだ。
まぁ、クエストの場所も分かり易いし、それほど難しくもなかったから、上位にいるあの人達なら当然か。
「はえぇっ! 全然見えねぇ」
「俺はまだ何とか見えるぜ」
二人ともかなりAGIに振っているため、今のスキルの速度増加により、周囲で見ていた人の中には、速度差で姿を捕らえることが出来ない人が出ているようだ。
「……加速」
私もこっそりスキルを発動する。
これにより速度差が縮まり、スキルを使う前と変わらず二人の姿を見ることができる。
「一気に終わらせる――超連撃!」
フェンリルさんが攻撃スキルを発動し、正面からアレクさんに突っ込んでいく。
「それは予測済みだよ」
アレクさんが片手剣を水平に構え、攻撃を受ける体勢を取る。
だが、構わずそこにフェンリルさんが攻撃を仕掛け、
「サクリファイス・カウンター!」
衝突する瞬間アレクさんがスキルを発動。だが、フェンリルさんの凄まじい連撃は止まることなく、完全にアレクさんの体を刻んでいた。
一体何がどうなったの!?
知らないスキルだらけで全く結果が予想出来ない。
「やってくれるじゃねぇか……まだ、そんなスキル隠し持っていやがったか」
そう、先に悔し気に口を開いたのはフェンリルさん。頭上に表示されているHPバーが今の一瞬で3割にまで減っていた。
「君は速攻が好きだからね、使う機会を窺ってたんだよ。自身のHPを犠牲にして相手に大ダメージを負わせるスキルさ。普通のカウンターとは違って相手からのダメージは受けない、カウンターの上位スキルだよ」
丁寧に解説まで入れてくれるアレクさんのHPは、大体2割ほど減っている。
このHP差、さすがに勝負あったか……?
「うおぉぉっ! さすがアレクさん!」
「俺もあのカウンターとりてぇ!」
周囲が一気に湧き上がる。
だが一人、不利な状態となっても諦めない男は冷静だった。
「へっ、ご丁寧にどうも。だけどよ、奥の手があんのはお前だけじゃねぇぜ」
「へぇ~、それは楽しみだ」
「その言葉後悔させてやる――超加速!」
フェンリルさんの姿がスキルを発動すると同時にかき消える。
超加速!? まさか加速に上位互換が存在するっていうの!?
「これは驚いた。そのスキル、どこで手に入れたのかぜひ教えてもらいたいね」
加速を使ってる状態の私でも、フェンリルさんの姿はほとんど影のような形でしか捉えられない。
周囲から見えないという言葉が飛び交っている。
アレクさんは果たして見えているのだろうか?
「俺に勝てたらな」
「勝つさ」
アレクさんが先ほどと同様の構えを取る。
確かに強力なスキルだが、あまり得策とは言えない。初めてならなんとかなるかもしれないが、構えが独特すぎて二度目以降は成功し難いだろう。
二刀の刃は――アレクさんの背後で閃いた。
「バックエンド・キル」
クリティカル二連撃による強力な攻撃。なにか特殊な補正でもあるのか、8割残っていたアレクさんのHPは一瞬にして0になっていた。
「さらに奥の手を隠し持っていたんだね。さすがだよ……」
そう言い残して、アレクさんは青白い気泡となって消えていった。
『うおぉぉぉぉぉっ!!』
周囲の人達から大歓声が上がる。
「すげぇ! 俺も早くアサシンになりてぇ!」
「これでどちらも50勝だ。こりゃ全然勝負付かねぇな」
どちらも50勝!?
私は聞こえてきた言葉に素直に驚いた。
ほとんど同じ実力な上に、すでにそんなに戦っていたのか。
ということは……
「さぁて、今度は僕が勝たせてもらうよ」
「フン、あれを食らってまだ言うか。ここからは俺の連勝に決まってんだろ」
思った通り、しばらくしてアレクさんはこの場に戻ってきた。
そしてまた周囲が湧き上がる。
私は対戦フィールドから出て、元の町中へと戻った。
対人コンテンツが人気出るのかと疑問でいたが、この調子のままいけば、近いうちに対人イベントや、パーティー、ギルド対抗戦なども行われそうである。
そんなことを考えながら、私は賑わう町を離れ、新しく追加されたクエストへと向かうのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます