第5話 初イベント(3人称視点)
『第一回イベント
王都モンスター襲撃イベント』
各町に配置された専用NPCに話かけることによって、専用MAPの王都に来ることが出来る。まだ本編には実装されておらず、城の中には入れないが、城下町を歩き回るくらいは出来るようになっている。
イベント開始数分前、王都城下町の広大な広場に、多数のイベント参加プレイヤーが集まりつつあった。
その中に周囲の人が近付く事を畏れ、人の輪を描く一角があった。
その中央で注目される人物は、両の腰に剣を携え、全身を白銀の軽鎧に身を包んでいた。背が高く青い髪に凛々しい顔立ちの青年で、このゲーム最大手のギルドマスターにして、最速で二次職にたどり着いた有名プレイヤーだ。
「アレク、どういう方針でいく?」
横に並ぶ金髪の少女が、見上げるようにギルドマスターであるアレクに尋ねる。
「私はとりあえず様子を見た方がいいと思います」
逆側に並ぶ黒髪褐色肌の女性が口をはさむ。
アレクの強さと見た目に惚れ込んでギルドに入った二人だが、動機はどうあれ実力は十分ある。金髪の少女エリーはマジシャンとプリーストを極めつつあり、かなり高レベルの攻撃魔法と回復支援魔法を使いこなす。
黒髪褐色肌のダークエルフタイプの女性シーダは、アーチャーとシーフについており、遠距離攻撃と近接戦闘の両方を高レベルにこなす。
「そうだな。始めは様子を見ようか……」
「ハッ! 様子見なんかしてる間に俺が全部もらっちまうぜ」
アレクの耳に横から茶化すような言葉が突き刺さる。
その声を聞いたアレクは小さくため息をつく。
「狼。君はいつも五月蠅いな」
「狼言うな! 俺はフェンリルだと何度も言っているだろうが!」
「よく吠える犬だ」
「なんだとッ!」
狼――いや、銀髪長身の細身の男フェンリルは、アレクと同じまだこのゲームに三人しかいない二次職に転職した者の一人だ。シーフの上位職であるアサシンとアーチャーの職についているが、アーチャーは速度補正や命中補正狙いで、弓で戦うことはない。
「二人とも相変わらず仲いいね」
と、横から声をかけてきたのは、低身長の幼げな金髪の少年だった。
ただ、見た目とは裏腹に彼もまた二次職になった一人である。マジシャンの上位ウィザードとプリーストを掛け持ち、超高火力と回復支援を一人でこなす。パーティーで行動することが多く、彼以外は前衛職で構成され、攻撃しつつ全員のHP管理をするという高いプレイヤースキルを持っている。
「ハルルか。あんまふざけたこと言ってると叩き斬るぞ」
「おー、こわいこわい」
フェンリルの脅しに、ハルルは両手を軽く上げて冗談っぽく返す。
「俺達は北を守るんだが、ハルルはどうするんだ?」
アレクがハルルと向き合う。
それを遠巻きに見ていた一部の女性プレイヤーが黄色い声を上げる。美青年と美少年のからむ姿に、一部の女性プレイヤーが興奮しているようだ。
「僕達は西に向かうよ。南はNPCが補助として付くみたいだしね」
言ってちらりと背後を見る。ハルルの背後には彼のパーティ仲間だろうか、10人近い前衛職が集まっていた。
「なら、俺は東だ。お前らとはかぶりたくないからな」
フェンリルが言い放った直後、王都全体に声が響き渡った。
『大変です皆さん! この城に向かって多数のモンスターが攻めてきています。皆さんの力でこの王都を守って下さい! モンスターは東西南北から攻めてきています。南の方角は王都の騎士団の方々で守りますので、皆さんは他の方角から来るモンスターを殲滅して下さい!』
どこからともなく聞こえたNPCのお姉さんの言葉に、周囲の人間が一斉に動き出す。
フェンリルは無言で東の方角へと向かう。
「最後のボスモンスターはランダムでどれかの方角に出るらしいからね。早い者勝ちだよ」
ハルルがニッコリとほほ笑む。
「ああ。ま、よほど弱くなければ、俺達三人での取り合いになると思うがな」
アレクもハルルに向かって笑顔を向ける。
そして、アレク達は北へ、ハルル達は西へと向かって歩き出す。
それを見た周囲の人達がざわめきだす。
「お前どっち行く?」
「俺はアレクさんと同じ北に行くぜ」
「私はハルルさんと同じ西に行くわ」
まるで推しメンを追いかけるかのごとく、他のプレイヤーは別れた三人を追うように動き出した。
「北と西多すぎるから、東にしとくかなぁ」
「だなぁ」
東の方角だけ不人気なようである。
北のアレクが王都の城壁外へと辿り着くと、遠くの方からちらほらとモンスターがこちらへ向かって来ているのが見えた。
「大した数ではありませんね」
シーダが手を額にかざし遠くを眺める。
「まだ序盤だからだろう。これからもっと数は増えるはずだ」
「だよねー。じゃないと面白くないもんね」
賛同しつつ、エリーがさりげなくアレクにすり寄る。
「さて、やるとしようか」
目の前まで迫ったモンスターを前に、アレクは両の剣を抜く。
彼はファイターの剣派生二次職であるソードマスターだが、シーフのパッシブスキル『両手武器』を取っているため、両手に片手剣を持ち強力な剣技を繰り出す。
周囲の人達もそれぞれ武器を手に取り、今まさに大規模戦闘が起ころうとしていた。
しばしの間、迫りくるモンスターを殲滅したのち、遠くに大き目のモンスターが出現しているのが見えた。今まで来たモンスターよりも強いことは、想像に容易い。
「さて、そろそろ出るか」
アレクが一歩前に踏み出す。
そして、背後を振り返り、多くのギルドメンバーと、付いてきたプレイヤーに向かって声を上げる。
「俺達はボス出現に備えて前に出る。付いて来る者は自身の判断で来てほしい」
アレクの背後でざわめきが起こる。
「さぁ、行こう」
「はーい」
「わかりました」
アレクが歩き出すのに続き、当然のようにエリーとシーダが付いていく。さらにその後ろに、腕に覚えのあるギルドメンバーやプレイヤー達が続く。だが、大半のプレイヤーはその場に留まっていた。
モンスターを殲滅しながら前進するアレク一行。
目の前の敵を殲滅しながら進んでいるのだが、それ以外の敵はスルーしていた。というのも、モンスターは城を攻めることを優先し、わざわざアレク達の方に方向転換して攻めてくることはなかった。
唯一、強そうな大型のモンスターだけは、城前を守る人たちのことを考え優先的に倒している。といっても、アレクかシーダのスキルで一撃であるが。
「ここが最終地点か」
前方に青白い魔法陣が地面に大量に描かれており、そこから次々とモンスターが生まれていた。ただし、アレクの目の前の魔法陣のモンスターだけは、動き出す前に通常二連撃により消滅する。
と、その時、始めに聞いたお姉さんの声がフィールドに響き渡った。
『大変です! ボスらしき巨大なモンスターが出現しました! 方角は南です! 腕に自信のある方は南にお願いします!』
その言葉を聞いたアレクの表情が険しくなる。
「まさかの南か。NPCがいるせいであっちにはほとんど高レベルプレイヤーはいないだろう。急いで戻るぞ!」
『はい!』
慌てて反転するアレク一行。
だが、走りだそうとした瞬間再び声が響いた。
『有難うございます。皆さんのおかげでボスモンスターは討伐されました。これでしばらくは大丈夫だと思いますので、次の襲撃に備えて休んでください』
一度目の襲撃イベントが終わり、あたりに溢れていたモンスターが消え失せる。
三日あるイベントの中で一日に三度起きるので、四時間後くらいに二度目が始まる予定だ。
「どういうこと?」
エリーがアレクの顔を覗き込む。
「NPCがボスを倒せるとは考えにくい。そうなると、俺達以外にも高レベルのプレイヤーがいたということだろう」
「そんな話聞いたことありませんけど……」
「確かにな。高レベルの狩場は基本ソロで行ける難易度じゃない。だが、俺達と同じくらい強く、パーティで行動するような人物であるならば、それなりに噂にはなるだろう」
アレクはしばしの間、王都――いや、南の方角をじっと眺めていた。
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