第4話 イベント前準備
「また間に合わないかぁ」
もう何度目になるだろうか、30回以上失敗したあたりから数えるのを止めたが、未だに成功しそうな気配はなかった。
このクエストの間だけは走ることが出来るのだが、とてもじゃないが30秒で間に合う距離ではない。
MAPを見て色々なルートを試しても、少なくとももう30秒はないと間に合いそうにない。
広場で情報収集もしてみたが、まだ誰もクリアはしていないようだ、まぁ、元々本来のゲームとは関係ない要素だし、出来るまでやろうとする人がまずいないのかもしれない。
「うーん」
MAPを見ながら唸る。
もうこうなってくると作戦は一つしかない。かなりの強硬手段ではあるが、シンプルでわかりやすい一転突破。全ての建物を無視し、直線距離で走る他ない。
ほとんどのプレイヤーがログアウトした深夜帯に、目的の家までの直線ルートに小細工を仕掛ける。
「制限時間は30秒です。今度こそお願いしますね」
もう聞き飽きたNPCのお姉さんの台詞。
何度も受けてるうちに台詞が変化し、また私が受けているという、個人に対する認識が生まれていた。
私は返事もせずにダッシュする。
直線距離でまず向かうは入り口を開け放った店。
「いらっしゃいませ」
と挨拶をするお姉さんを無視し、店の中を駆け抜け裏口へと駆け抜ける。映画とかではあるかもしれないが、リアルでやったら最低だ。
「ごめんなさい、お邪魔します!」
謝り突入したのはNPCの民家。普通ならゲームには関係ない飾りみたいなものだが、このゲームではちゃんと人が住んでいる。
失礼は重々承知で、同じように入り口から裏口へと駆け抜ける。
そして、その先に見えてくるのは行き止まり。ただし、あらかじめ板を置いてスロープを作って置いたため、それを駆け上がり家と家の仕切りになっている木造の細い塀を駆け抜ける。
目の前に目的の家が見えてきた。
思い切って塀を飛び降りたが、着地で足がしびれる。
だが、そんなことで止まってはいられない。
最後の力を振り絞り、家のドアに手を掛け飛び込むように中に入る。
「お、お、お……お待たせしました」
実際に疲労しているわけではないのだが、思わず声を出すまでに言葉が詰まってしまった。
受け取った料理の入った箱を男は無言で開ける。
さすがゲームというべきか、中身は全然崩れていなかった。
料理に手を付けるかと思いきや、男は箱をテーブルの上に置く。
これはまた失敗か……
と、思った次の瞬間、
「よくやってくれた! まさか本当に30秒で届けるとは思っていなかったぞ!」
い、いや、思ってなかったならこんな要求するなよ。と、こっそり心の中でごちる。
「だが、これも全てお前のためだ」
なんだかよく分からないことを言い出した。
「ここまでにした努力はきっと無駄にはならないはずだ」
偉そうな言葉で誤魔化すつもりじゃないでしょうね。
「見ろ! お前の中に目覚める力を!」
男が声を張り上げると同時に、私の目の前に例の画面が現れる。
『パッシブスキル:飛脚の極意
荷物を最速で届けた者の証。AGI+100』
この間のもそうだが、あまりにも大きな補正値に思考が固まる。
「あと、こいつは無理を言った詫びだ。もらってくれ」
『スキル:加速
支援魔法クイックと同効果。AGIを高め、移動・攻撃速度、回避を高める。
魔法と違い効果時間は無限だが、発動中はMPを消費しMPが切れれば強制解除される。』
今回は武器ではなくスキルをもらった。
強化系魔法でマジシャンにするかプリーストにするか迷ったくらいなので、自分自身の能力を高めるスキルをもらえるのはすごく嬉しい。
こうしてやっとのことでこのクエストとの戦いを終え、この日はそのままログアウトした。
翌日、イベントの詳細が公開されていた。
簡単に言うと、全ユーザー協力型のイベントらしい。
まぁ、対人が絡んでくると賛否両論出るだろうし、初イベントなのでみんなが参加出来るものにするのは良い選択だと思う。
イベント専用ステージの城に向かって四方向から敵が襲撃してくるため、それをみんなで協力して守り抜くというものらしい。初ということもあり、イベント期間は3日間と短い。
あまりイベント事には興味はないのだが、せっかくの初イベントなので、それまでに少しはレベルを上げておこうと今日は狩りに行くことにした。
ほぼ全くと言っていいほど狩りには行っていなかったため、狩場についてはネットで調べた。
適正レベルよりやや高い場所で、あまり人のいない不人気な場所を選ぶ。
腐海の森という不気味な雰囲気の森で、奥に進むにつれて敵が強くなっていく。
入り口付近で適当にレベル上げ出来ればと思っていたのだが、
「よわっ」
入り口付近でいきなり現れた敵に通常攻撃を仕掛けたのだが、一撃で敵は消滅した。
武器は初期にもらった鉄の剣。
ただし、称号は『伝説の薪割り職人』にしてある。
高かい補正値のSTRに加え、敵が樹種族なためダメージが2倍になっている。
「うーん、これなら結構奥行っても平気かも」
思い切って森の奥の方まで真っ直ぐに歩いていく。
途中に敵が出てくるが全て一撃である。
「あ、一撃で倒せない!」
しばらく進んだところで出てきた巨木のお化けのような敵に切りつけたが、他のモンスターと違い一撃で消滅することはなかった。それでも二発で倒せたが、奥は未知数であるため、しばらくこの辺りでレベルを上げることにする。
イベントまで二日しかないが、それまではここでレベルを上げよう。
折角参加するなら、やれるだけのことはやっておきたいから――。
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