第3話 無茶ぶりクエスト
薪を割る音に交じり、近付く足音が一つ。
「あ、先客がいたかぁ」
軽装の男性プレイヤーが一人、薪を割る私をみてバツが悪そうに後ろ頭を掻いた。
クエストは基本的に一人用の物がほとんどで、進行中の人がいればその人が終わるまでは次の人は開始出来ない。
「俺が100回やってやろうと思ってきたんだけどなぁ。今何回です?」
「832です」
「うげっ! そんなにやっても終わんないのかよ。やっぱただの薪割り覚えるだけのクエかぁ」
私の回数を聞いて嫌そうな顔をした彼は、そう言いながらもと来た道を戻って行った。
というやり取りを、もう何度も行っている。
最高記録を目指そうと挑む者、ネタのために来る者、スキル集めのためだけに来る者など様々である。
ここ数日ひたすらこれをやっているせいか、来た人の話では、薪割りばかりしてる変わり者がいると少々噂になっているらしい。
途中で投げ出すのは性格的に嫌なのだが、さすがにこれだけで日々過ごすのも気が引ける。他にも助けを求めるNPCがいるかもしれないから、早くそれらを見つけたい気持ちもある。
「997……998……999……1000!」
キリが良いところで終わりにしよう。
そう思って斧を切り株に置いた時だった。
「いやー、すまんのぉ。まさかこんなにやってくれるとは」
なんと、今まで一度もそんな様子はなかったのだが、小屋の中にいたお爺さんが私の様子を見に来ていた。
「お、お爺さん。もう大丈夫なんですか?」
「しばらく寝ておったからな。もう全然平気じゃわい」
何気ない質問にも自然に返答してくるお爺さん。まったくNPC感を感じさせないあたり、さすがAI搭載と言わざるを得ない。
「これだけやってくれたのじゃ。お主にはもう十分薪割りの極意が備わっておる。これがお主の新たな力じゃ!」
なんかカッコイイ台詞とともにお爺さんは私に手を掲げる。
『パッシブスキル:薪割りの心得が進化 → 薪割りの極意
薪割りを極めた者の証。STR+100』
いきなり現れた画面に思わず目が点になる。
これにはさすがに理解するまでに時間がかかった。
「えっ!?」
スキルの進化による補正値のすごさに思わず声を上げる。
「初めて儂の手伝いをやり切ったお主にはこれも授けよう」
『称号:伝説の薪割り職人
クエスト初クリア者に送られる称号。STR+100
樹種族の敵に与えるダメージが2倍になる。』
称号とは付けることにより様々な効果を得られる、言わば装備するパッシブスキルのようなものだ。
「す、すごいけど、ださッ!」
もう少し恰好いい名前はなかったものだろうか。
「おまけじゃ。これも持っていくがいい」
そういってお爺さんが取り出したのは一つの巨大な斧。
腰悪いのにそんなん持って大丈夫なの? と、思わず思ってします。
「私には大きすぎるんですけど……」
言いながら斧を受け取ると、私の体のサイズに合わせるかのように、斧はそのサイズを小さく変化させた。
赤を基調とした斧で、飾り気がなく、とても女の子の扱う武器ではない。
『武器:キラーアクス 装備Lv:10
攻撃力250 クリティカル率+50%
クリティカル時のダメージを2倍にする。』
攻撃力はそう高くはないが、なかなかすごい物をもらった。
ただし、斧を使う場合『斧修練』というスキルが必要になる。ダブスラッシュという初級のスキルと、筋力増加というSTRが上がるパッシブスキルしか取っていないため、スキルポイントには余裕はある。スキルレベル1でも使用は可能なのだが、レベルを上げると装備出来る武器のレベルが上がる。武器に書かれているレベルは自分のレベルではなく、その武器を装備するために必要な武器修練のレベルなのだ。
と、とりあえず、何かとんでもない物をもらってしまったことだけは理解した。
「こんなにたくさん、有難うございます!」
「もう年寄りには不要な物じゃからな。気にせんでいい。使いこなせるかどうかはお主次第じゃ」
そんな決め台詞を最後に、お爺さんは小屋の中へと戻って行った。
これでこのクエストは終了らしい。
「一度町に戻ろうかな」
目立つ斧を道具袋に仕舞い、一度町へと戻る。
町に入るとなにやら周囲が賑わっていた。
聞き耳を立ててその内容を確認すると、どうやら運営からのお知らせにその答えがありそうだった。
お知らせを開くと、なにやらイベントの告知が来ていた。
『第一回イベント告知
王都モンスター襲撃イベント』
どうやらサービス開始初のイベントが開催されるらしい。
特に興味はないが、参加賞が貰えるなら参加くらいはしてもいいかな。
「わっ!」
急に目の前を誰かが横切り、思わずその場でバランスを崩し倒れそうになった。思わず、何も言わずに走り去るその背中を睨みつけたが、その姿に違和感を感じた。
――町の中では普通ダッシュは出来ないようになっている。
答えは今の人を追えば分かる。
走り去った人を追って町の外れまで行くと、一軒の小さな家があった。
何があるのかとドアに手を掛けた瞬間、ドアは内側から開けられた。
「やっぱ無理かぁ」
ぼやきながら出てきたのは先ほどの人物。
私が道を開けるとこちらに気付き、
「あ、さっきの人か。ごめんね急いでたから」
謝りながら歩き去って行った。
何があるのか気になり私は中に足を踏み入れる。すると、そこには一人の偏屈そうな中年の男性が座っていた。テーブルの上には一枚の紙が置かれており、話しかけると、
「おい! 宅配はまだか! いつまで待たせる気なんだ!?」
なぜかいきなり怒られた。おそらく短気な性格なのだろう。
テーブルの上にはこの町にあるレストランのチラシがある。
きっとそれがこのクエストの開始地点ね。
私は早速チラシのレストランに向かい、カウンターにいるNPCのお姉さんに話しかける。
「お食事ですか? アルバイトですか?」
「アルバイトです」
まずはいつも通りの台詞に答える。
「それではこの料理を町の北西にある家に届けてください。正確な位置はMAPに印を付けておくので、それで確認して下さいね」
言われてMAPを確認すれば案の定、先ほどの家である。
「あのお客様はとても短気な方です」
知ってます。
「それでは、制限時間30秒以内に届けて下さいね」
「え、えぇぇーーーっ!?」
笑顔で無茶ぶりするお姉さんに、私は思わず大声を上げていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます