第2話 NPCさんお手伝いします。
店の中に入るとレジカウンターに佇む、可愛いウェイトレス姿のNPCがいた。
「いらっしゃいませ。お食事ですか? アルバイトですか?」
NPCのウェイトレスさんが笑顔で尋ねてくる。
このゲームのNPCにはAIが使われており、状況によっては会話の内容に変化がでたりするらしい。
店では普通に食事が出来、味覚的感覚を得られることから、ゲームの中ではあるが、普通に食事を楽しむ人もいる。
すでに店の中には何人かのプレイヤーがおり、食事をしながら歓談していた。
普通のTVゲームとは違い選択肢は出ないため、自分の言葉で選択肢を回答する。
「アルバイトです」
「わかりました、こちらへどうぞ」
店の中に案内されたかと思うと、服装がウェイトレス衣装へと変更される。フリフリの多いエプロンドレス風の服でかなり可愛い。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
NPCだが先輩ウェイトレスの指示通り、テーブルに注文を受けに行く。
注文を聞きに来た人物の雰囲気がいつもと違うためか、テーブルに座った二人の女性プレイヤーがこちらをじっと見つめる。
「もしかして、あなたプレイヤー?」
「はい」
「うっそー、アルバイトやる人いるんだ?」
正直に答えると、もう一人のプレイヤーが驚いた声を上げる。
「だねー。ゲームの中でまで仕事とかあたしには無理だわー」
「普通に狩り行って稼いだ方がいいよねー」
「あはは……まぁ、普通はそうですよね」
何とも言えず、とりあえず愛想笑いを返す。
「でも、その制服は可愛いねー」
「記念に一度くらいはやってもいいかもね~」
訪れる人は皆私を見て同じような反応を示した。
アルバイトの中身はすごく単純で、NPCが出す指示通りに行動すれば良いだけだった。ミスをすると報酬金額が減っていくが、特に怒られることはないためストレスはない。時間的には10分の拘束時間で、金額は1000Gと少量である。
「お手伝い有難うございました。また宜しくお願いしますね」
「はい。こちらこそ有難うございました」
お金をもらったのはこちらだが、NPCのお姉さんが頭を下げると、私もつい同じようにしていた。
その後店を出、そして踵を返す。
感謝されることに私の気持ちは高ぶっていたのか、気付けば再びレジのお姉さんに話しかけていた――。
NPCを手伝うクエストにハマり、そればかりやり続けること二日。
お金をもらえるアルバイト形式のモノもあれば、無償で手伝うだけのもの、ただお使いするだけのものと、種類は様々だった。
町の中にどれだけお手伝いクエストがあるのか巡りながら、結構な回数をこなした時のことだった。
いつも通りNPCと別れを告げた瞬間、目の前に一つのメッセージが現れる。
『NPCお手伝い回数 100回 達成報酬
手伝いの指輪:手伝った人数の分だけ全パラメータが上昇。
手伝った人数:26』
「え、なにこれ?」
目の前のそれを理解するよりも早く、メッセージの中からキラリと輝く何かが現れ、とっさに手を出してそれを受け止めた。
シンプルな装飾のある可愛らしい銀色の指輪で、さっそく左手の人差し指に装備する。
そして、試しにステータス画面を呼び出してみると、確かに全てのスタータスにプラス26の補正値が付いていた。
「全てのステが上がるのはいいけど、なんか微妙……」
正直26程度ならいくつかレベルが上がれば普通に上げられる。攻撃力と魔法攻撃が若干上がるだろうが、おそらく特化型の人には全然届かない。
「う~ん」
その場で軽く伸びをする。
ずっとアルバイトしていたせいか、気持ち的に疲れた感じがする。ただ、ゲームの中だけあって、肉体的な疲労は全くと言っていいほどない。
とりあえず休憩がてら町の広場に向かう。次のお手伝いの場所も探さないといけないので、情報収集も兼ねている。たまに、たむろしてる他プレイヤーの会話の中にそれっぽい情報があったりするのだ。
「アンリ」
広場に着くなりいきなり名前を呼ばれ、振り返ればそこにはエアリーがいた。
「あ、エアリー。どうしたの?」
「ちょっと見かけたから……まだ、そのキャラでいるんだ……」
「ん、どういうこと?」
何を言いたいのかなんとなく察したが、あえて分からない振りをする。
「他の人のプレイスタイルとか、参考に見た方がいいんじゃないかなって思っただけ。ほら、今ならまだキャラ作り直してもそんなに苦じゃないだろうしさ。特化で作り直したりするなら、またレベル上げ手伝うよ」
「うん、そうだね」
何かその後の魂胆みたいなものが見えて、思わず気のない返事を返した。
「それじゃ。私はギルド行かないといけないから」
言いたいことだけ言って立ち去るエアリー。
今の私は全くキャラを作り替える気はない。
折角100回もアルバイトやボランティアしたのに、それが全て無駄になってしまう。それに、今は狩りをする気はないし、それほどレベル上げにも興味はない。
エアリーの立ち去る後姿を眺めていると、ふいに少し離れたところにいる二人のプレイヤーの会話が耳に入ってきた。
「いや~、あのクエはないわ。やってもやっても全然終わらねぇし」
「全くだ。しかも終わりが見えないのがすげーだるい。俺50回で飽きたわ」
「俺10回だわ」
「いや、それはさすがに少なすぎだろ」
「それ、どこのクエストですか?」
気付いたら私は二人に話しかけていた。
二人が言うには町から出て少し行ったところにある森で、その中に一軒の小屋があるらしい。そこで薪割りのクエストがあるらしいのだが、いくらやっても終わらないというのだ。
さっそく町を出てその小屋へと向かう。
町の近くの森のため出てくる敵は弱く、小屋までの道も分かり易かった。
小屋は森の木で作ったのか全て木造で、人一人が簡易的に過ごすようなそれほど大きくはないものだった。
「ごめんくださーい」
ノックをしてから小屋の戸を開けると、鍵は掛かっておらずすんなりと中に入ることが出来た。
ゲームの中だからいいけど、完全に不法侵入ね。
中には一人のお爺さんが寝ていた。
「すいませーん」
恐る恐る話しかけると、お爺さんはゆっくりと目を開ける。
「おぉ、こんな状態で申し訳ないですな、旅の者。腰をやってしまいしばらく立てそうにないのです。もしお手隙であれば、外の薪を割ってくれませぬか?」
ものすごい唐突な話であるが、話が早くて助かる。
「いいですよ」
「おぉ、引き受けてくださいますか。ならばこれを授けましょう」
そう言ってお爺さんは寝たまま私に手をかざす。
すると、目の前に一つのメッセージが現れる。
『スキル:薪割りの心得 獲得
薪割りが出来るようになる』
どうやら経験がなくても、薪割りが出来るようになるらしい。
この辺りはゲームらしく、なかなか親切である。
「それじゃ、やってくるわね」
「すまんのぉ」
小屋をを出て裏手に回ると、よくアニメとかで見かける薪割り場面がそこにはあった。地面に大きな切り株があり、そこに一本の斧が刺さっている。傍らには一定サイズに切られた、大量の木材が積まれていた。
斧を手に取り、試しに一本切ってみると、切り株の上に立てられた木材は真っ二つになった。
スキルのおかげで切るのは問題なさそうね。
「よし、やるか!」
ほとんどのプレイヤーがモンスターと戦う中、私と薪との戦いが始まった――。
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