NPCさんお手伝いします!
彩無 涼鈴
第1話 平均すぎるパラメーター
――アナザー・ワールド・オンライン。それはまるで実際に異世界に行ったかのように遊べる、新感覚のVRMMOである。
このゲームは特徴の一つに、同時に2種類まで職業に就くことが出来るというものがある。現実世界でも兼業が増え、全く異なる職業のスキルを別の職業で活かすことを参考に、複数の職業を選べるようになっている。さらに、上級職の中には、二つの下位職を極めた者だけがなれる職業が用意されている。
「やっと届いたぁ!」
ゲーム発売日、事前の話題性がすごく、通販で予約しながらも1日遅れて届いたVRヘッドセットを頭上に掲げながら、私は喜びの声を上げた。
「いざ、異世界へ!」
肩で切りそろえた黒髪を邪魔にならないよう後ろで束ね、意気揚々とそれを装着する。
全身の力を脱力出来る状態がいいとの説明書きがあったため、そのままベッドの上に横になる。
設定などは全てVR空間内で出来るため、事前に何かをいじる必要はない。
急に意識が沈むような感覚がし、ふと気が付くと目の前にゲーム会社のロゴが目の前にでかでかと見えていた。
そして、次に出てきたゲームのパッケージにあったタイトルロゴを抜けると、システム的な青白い空間に移動した。
目の前に、入力を求める枠だけのメッセージが現れる。
まず入力するのは当然名前。自分の名前か……杏璃と好きな物を組み合わせ、『夜桜アンリ』と入力する。
次に選ぶのは見た目。可愛い系のデフォルト女性キャラから身長を少し下げ、髪型は二つの大きな三つ編みのおさげ、髪の色は薄めの赤色に、目の色はアクアマリンに設定する。
見た目の設定が終わるとチュートリアルの場に送られ、そこで色々なNPCに操作を教わり、最後に職業選択となる。
1つ目はファイター。前衛として一番選ばれる職業だ。剣と盾が基本装備だが、成長していく中で、スキルの選択によっては槍や斧使いにもなることも可能だ。
2つ目はマジシャン。後衛火力の定番で、魔法攻撃を得意とする職業である。
パーティで臨機応変に立ち回るのを考え、この二つを選択した。
さらに、選んだ職業を踏まえ、初期パラメータを設定するのだが、どのステータスにも意味があることを考えると、やはり全てに振りたくなる。
NAME:夜桜アンリ
LV:1
HP:75 MP:64
STR:5 VIT:5 AGI:4 INT:4 DEX:4 MND:4 LUK:4
CLASS:ファイター、マジシャン
「設定は以上で終了です。本当の異世界で冒険しているような、素敵なゲームライフを祈っております」
「はい! 有難うございます」
決まり決まった台詞を言うNPCに、礼を言って頭を下げる。
そして、目の前の扉を抜けると、そこはまるでアニメの中の異世界に来たような風景が広がっていた。
「わぁ! さすが最新のVRゲーム、すごいリアルー」
どこかの町の広場なのか周囲は開けており、離れたところに立ち並ぶ家々が見える。石畳の床が広がり、広場の中央には小洒落た噴水が設置されている。
発売されたばかりだけあり、周囲には同じように軽装の者が何人も歩いている。
ほとんどの人が同じ方向へ歩いており、そちらを見れば町の出入り口があった。
ここが町の中央だとすると、それほど大きな町ではないようだ。
「とりあえず、町の外に行けば敵がいるかな?」
町の外に出てしばし進むと、案の定敵が現れた。おなじみのゲームでよく見かけるスライムや、小さな小動物のような可愛らしいモンスターだ。ファイターを選択していたおかげもあり、この辺の敵は楽に剣で倒すことができた。
弱い敵でしばしレベルを上げ、初級のスキルをいくつか取った後一度町に戻る。
約束した時間に、初めに出た場所で会う約束をした人がいるのだ。
「そろそろだと思うんだけど……」
広場である人を待っていると、ふいに肩を叩かれた。
「おまたせー」
振り返るとそこには、リアル友達の青葉 風音がいた。キャラの見た目を聞いていたので、すぐに分かった。本人を思わせる要素は一切なく、長いエメラルドグリーンの髪と横に長い耳が特徴の、弓使いエルフの姿をしていた。
「あ、かざ――」
思わず本名を言いかけて口を手で押さえる。
「あはは。ここでは風の女神エアリーと呼んでね!」
とノリノリでポーズを取る。
「その人が友達?」
「そうよ」
エアリーの隣にはいつの間にか二つの人影があった。
「サヤカよ、よろしく」
片方は私と同じ戦士タイプ。青い髪のポニーテールと高身長から、こちらの方が全然格好いい。
「私はアグネス、宜しくね」
もう片方は回復職のプリースト。肩で切り揃えた銀髪が似合う癒し系お姉さんといった姿をしていた。
約束までして集まったのは他でもない、パーティを組んで狩りに行こうという話だ。ただ、彼女達は初日からプレイしているため、私とは少しレベルに差がある。
「じゃあ行きましょうか」
――三十分後、もっと狩りを続けるものかと思っていたが、ギルドの用事が出来たとかで私達は出会った町の広場まで戻ってきていた。
言われるまで分からなかったが、三人とも同じギルドに入っているらしい。
普通のゲームと違い頭の上に名前等の情報が表示されているわけではないため、ギルドに入っていてもそれを示すものがない。さらに、個人のプライバシーを守るため、他人のステータスは勝手に覗けないようになっている。
「ごめんねアンリ。もう少し手伝いたかったんだけど」
「ううん、大丈夫。少しレベル上がったし十分だよ」
申し訳なさそうに言うエアリーに両手を振って返す。
「早く行かないと遅れるわよ」
サヤカさんが少し離れたところから急かす様に言う。
「わかった。じゃあ、またねアンリ」
「またよろしくね、夜桜さん」
「うん、また宜しく願いします」
そうして三人と別れた後、ふとすぐ傍で話す二人のプレイヤーの会話が耳に入った。
「やっぱ流行として特化型が多いなぁ」
「まぁ、普通に火力高いしな。たまにネタ特化型の人もいたりするけど」
「でもバランス型はないなぁ。ソロプレイヤーの人はやりがちだけど、火力が足りなかったり、大量に敵が来ると捌けなかったり、器用貧乏にも程がある」
「確かに、俺の知り合いでもそれで作り直してるやついたわ」
それを聞いた私は先ほどの短い狩りを思い返した。
おそらく役に立ちそうなら、レベル上げを手伝いギルドに誘おうとしたのだが、一緒に戦う中で私の性能が酷いバランス型だと見抜いたのだろう。物理攻撃と魔法が使えるのは便利な反面、STR(力)とINT(知力)の両方を育てなくてはいけなく、攻撃手段は豊富でも火力は確実に不足する。さらに、私はレベルが上がった分も全て均等に振り分けているため、どちらの火力としても成り立っていないのだろう。
「はぁ~、どうしよ。作り直そうかな……」
町の中を歩きながら、思わずそんな呟きが漏れる。
と、その時、ふと一つの看板が見えた。
見た目飲食店のようなその建物の入り口には、『アルバイト募集中』と書かれた看板が置いてあった。
これはただの飾りではなく、このゲームでは実際にアルバイトなどの、非戦闘でのお金稼ぎが出来るようになっているらしい。
作り直すかどうか迷いながら、私はその店の扉を開いた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます