召喚
「パパは知っていたの?」
そんな水希のか細い声を支えるように、僕は言葉を返す。
「恐らくは知らないはずだ、単にイラ塚古墳から出土した刀子のレプリカを自費で作成しただけだと思う、お父さんが残した資料を調査しないと断言はできないが」
調査しても断言はできないのだが、協会に水希の父親の資料が譲渡されるよう布石として可能性を匂わせる。
「イラ塚古墳に埋葬されている人物は、プラネテスを使役していた支配階級だと考えられるが、発掘される埋蔵品だけで、それらを読み解くことは難しい」
水希は両腕を押さえて、震えを止めようとしている。
「水希は肝試しの時、刀子をもっていたのを憶えている?昔の記憶がないなら、秋月先輩に相談した時、刀子で何かを切らなかった?」
「先輩に切れるか聞かれて、紙を切って見せた、肝試しの時は何か身を守れるものはないかなって、パパの部屋から黙って刀子もっていって、お墓に行く途中に邪魔な草とか刀子で払ってた記憶が」
そこまで話すと水希はテーブルに顔を伏せて泣き出した。
泣きながら「パパは?パパは?」と譫言のように繰り返す。
「恐らくは助からない」その言葉に水希は伏せた顔を上げる。
陽は落ちて、もう水希の表情は判らない。
僕はゆっくりと立ち上がって、語りかけながら水希に近づく。
「でも可能性がない訳ではない、そのために協会は調査と研究を続けている」
座っている水希の肩を左手で抱いて引き寄せる、右手は彼女の右手と重ねる。
「だから一緒に試そう、可能性を信じて」
水希の手を導きながら2人で刀子を握る、そしてそっとテーブルに傷をつけた。
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夜の帳が下り、地球が誕生する前から輝いている星々を宇宙が露わにする頃、暗い部屋の中で2人は寄り添い、チカチカと輝く空間の裂け目を見つめてはプラネテスを待つのだ。(了)
記憶の中のプラネテス【適合者シリーズ2】 東江とーゆ @toyutoe
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