協会
4月22日、土曜日。
小早川水希は予定通り16時に僕の居宅を訪ねてきた。以前は水希も同じ住宅地に住んでいたが、今は隣町に住んでいる。
僕と日下はあの日、18日以降郷土史同好会の部室を訪ねていない。今日水希に話すために調べて裏を取ったり協会に根回しをする必要があったからだ。
今日は、日下を同席させていない。
水希は、2人が同居していることを知らないのだから当然の配慮だ。
ただ協会としては如何なる会話が、僕と水希の間で為されたのか確認する必要がある。
なので会話は全て録音することになっている。もちろん水希には、そのことは伝えない。
僕は一昨日の木曜日に学校で水希と会った時、僕や日下が知っていることを話す条件を3つ提示した。
1つ目は、話す場所は僕の自宅。
2つ目は、16時という時間指定。
3つ目は、件の刀子の持参。
水希は条件を承諾する、拍子抜けなほど簡単に条件を受け容れたのは、白昼夢で日下と同調した後遺症も考えられる。
日下が抱く協会への忠誠、とりわけ総裁の孫である僕への偏った陶酔に当てられているようだ。
水希の話では白昼夢による『他者になりきることで生じる共感』は覚醒後に解消されるようだが、今回は別のようだ。
これが日下と水希の相性の問題なのか、同じクリーチャーを見る体験をした同士だからなのかは現時点では判断できない。
つまり水希の能力はレア過ぎて情報がない分、比較による分析ができないのだ。
もちろん協会には類似するケースの情報はあるが、水希のそれと、それらのケースが同じ能力と断定するにしても、水希の能力の情報が少な過ぎる訳だ。
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水希はシャツの上にデニムジャケットを羽織って黒のロングスカートの装い、学校では縛っている髪を今日は解いたまま。
リビングに案内して2人で珈琲を啜り、落ちついた頃合いで僕は話し始めた。
まずは協会についての説明だ。
僕と日下はクリーチャーを調査している協会のメンバーで、活動は非公開の組織だと説明した。
非公開の理由は様々あることを前置きした上で、一番の理由はクリーチャーの存在が公になることで社会生活が混乱する恐れがあるからだと説明した。
いきなり非常識な背景を紹介してしまったが、水希自らの経験が常識では到底理解できない類のものであり、話の前提となる協会の存在については咀嚼したようだ。
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