小早川水希

肝試し

小早川水希はふとした時に、あの夏のことを思い出してしまう。


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あの夏から、あたしは希に他人の記憶が見えてしまう時がある。


見ようとしても見えないし、見たくなくても見えてしまう場合だって。


見える時は白昼夢のような現実離れした感覚の中に漂っていて、一時的に自分であることを忘れて他人になりきってしまう。


見終わると白昼夢から醒めて、感覚はわたしに戻る。

そして見た記憶に対して、映画でも観たような気持ちに変わっている。


他人の記憶を見ている時に感じる『あたしではない他人』になって自分が消えてしまう感覚は、酷く怖いのに何故か気持ちいい。


見えることが希なのは、見える記憶は『ある特殊な体験のみ』に限られているから。

それは他人の『怪物に遭遇した体験の記憶』だけ見えるから。


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あの夏のこと思い出す時は何時も、つい昨日のことのように鮮明に記憶が蘇る。


小学5年生の夏休み、仲の良い友だち7、8人と肝試しをした時のこと。


夕方、集まった崎原神社からスタートして、近くのお墓まで1人で行って帰ってくる肝試し。

昼間、男の子たちがお墓に赤紙の紙縒りを置いてきた、それを取りに行く。


あたしが何人目だったかは思い出せないけど、最初ではなかった。

もっとも、あたしが『見てしまった』ので肝試しは中止、あたしがお墓に行った最後の子になったのだけど。


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あたしの番になる頃は、すっかり陽は落ちていたけど、夜道は月に照らされて明るかった。


当時あたしが住んでいた住宅街の高台に続いている小高い丘の麓にお墓はあった。

その丘に向かって神社から真っ直ぐ道が伸びている。

道の突き当たりは丘の麓に沿った道にぶつかり、道の脇には丘を背にして数件の民家が建ち並ぶ。

突き当たりを左に進んだ先にある緩いカーブの弧が終わる場所にお墓はあった。


道からお墓は見えたけど、丘の麓の鬱蒼とした森に入っていかないとお墓に辿り着けない。

小学生の頃からあたしは、女の子の中でも背が高いほうで性格も男勝り。

元気な子だったし、無鉄砲というか怖いもの知らずで、この肝試しも他の女の子が騒いだり泣いたりしているのが何となくワザとらしくて嫌だった。


だからお墓を目指して森に入って行くことに躊躇なく、肌に当たる草をスパッと切り払ってズンズン進む、何も怖いことはなかった。

それを見るまでは。


目的のお墓に辿り着き、置いてある赤い紙縒りを拾った、その時。

お墓の奥から枝木を踏みつける音がした、目を向けると、お墓の先に坂道があることに気づいた。

坂道は木々が生い茂り人が通れるようにはなっていない、そこを無理矢理進み下りてくる人影。

下りてきたのは...

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