部室
2000年4月18日、火曜日の放課後。
郷土史同好会の部室になっている図書資料室には、わたしと小早川水希の2人だけ。
本当は片時も聡太郎様から離れてはいけないのだが、トイレを御一緒させて頂く訳にはいかない。
否、わたしはかまわないのだけど。
小学生時代、聡太郎様は水希と同級生だったようで、昨日の部活見学で2人は再会した。
水希は女子としては長身で、聡太郎様と同じくらいの背丈がある。四肢はスラッと細くて長い、細いウェストに大きな胸。髪はロングヘアを一本の三つ編みにして、顔立ちは端正で卵型。
何か気に入らない。
わたしが面白くもない同好会会報誌を読みながら聡太郎様をお待ちしていると、水希が突然話を切り出してきた。
「ねえ、その頬が垂れ下がって、鼻から一直線に切れてる、首のない化け物」
それは外宇宙に住む独立種族、協会員が『プラネテス』と呼ぶクリーチャーのことだろう。
「そいつについて、知ってること教えてよ」
わたしはその挑発を惚けて受け流す「何の話?」
「何って美由紀の記憶の話だよ、見たことあるでしょ?」水希は微笑み無邪気に答える。
わたしの頭の中では瞬時に凡ゆる可能性が乱立する。
水希は記憶が読み取れる異能者?それとも情報源を特定されないためのフェイク?聡太郎様の留学以降、聡太郎様との面識はないはず?なのに協会のことを知っている?いや知っていたらこんなリスキーなアプローチはしないはずだが...
「わたしの独断ではその情報は開示できないの、ごめんなさい」努めて冷静に答える。
まずは、水希が協会の存在を知っているか探りを入れる。
「誰の許可がいるの?山村くん?」何が可笑しいのかニヤニヤしながら、水希は茶化す口調で揶揄ってきた。
あれ何で?話し噛み合ってない。
不味い、ペースが乱される。
何で外宇宙に関わる話を女子トークみたいなテンションで話しているの、この子。
馬鹿なの?それとも、もうイッちゃてるの?
落ち着いて美由紀、あなたは協会のメンバーなのよ、アリッサやチームの名を汚すような失態を犯してはいけないわ。などと心の声まで動員して冷静を保つ始末だ。
ガラガラと嫌な音がする、扉が開くと聡太郎様が立っている。
嗚呼不味い、駄目水希喋るな。
思い虚しく止める手立てはない、水希は聡太郎様に速攻話かける。
「ねぇソータ、美由紀が教えてくれないの、すごい大事なことなの、もう本当にわたしの生死がかかっているといって過言じゃないんだから」
聡太郎様に馴れ馴れしい、昨日再会したばかりだろうが、何もうソータって恋人にでもなったつもりか、このビッチ。
「何で教えてくれないの?って聞いたら、ソータに口止めされているって、何でソータあたしに意地悪してキライ」
いや聡太郎様から口止めされたなんて1ミリもいってねぇし。いい加減なことをいうな虚言癖かよ?このバカ女。
あーもう、ほら聡太郎様が不機嫌な顔になって、わたしを睨んでる、いや怖い、でも素敵、怒った顔も御褒美です聡太郎様。
いや、そうじゃなくて何だテメー意地悪とかキライとか気持ち悪い女だな、そうやって美人で胸デカイからって甘えやがって男誑しこむ天才かよ、うわー引く、マジ引くわーこのビッチ。
わたしの内面の混乱を余所に、聡太郎様はしかめた顔を水希に向けて「水希、何をいってるのか全く判らない」と一言。
水希は冷水を浴びせられたが如く、ショボンとした顔に変わってしまい「ソータこわいー」と涙目になって同情を誘う。
チッ、わたしは内心で舌打ちをする、気に入らない女だ。
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