君と私
「伝えたいことがあるからだよ」
新しい私は君の耳元でささやく。色の無い瞳と、足元の大きな水溜まり。
いつからか君は、泣きながら私を出迎えるようになった。
「また、殺してくれるんでしょ?」
返事の代わりに、手に持っていたナイフで君が私を刺した。君の足元にあるのとは違う色の大きな水溜まりが、たちまち私の足元にもできる。
君は気が付いていない。私が生まれるから君が殺すんじゃない。君が殺すから私が生まれるんだ。たしかに君のナイフは私を傷付けるけれど、一番苦しそうなのはいつだって君自身だっていうのに。
「これ、君の心臓」
「……ありがとう」
小刻みに震えている君にお礼を言うけれど、たぶん聞こえてはいない。今君が聞いているのは、この空に響く無数の足音。きっとそれは、君を責める声たち。
ごめんね。私はまた生まれてくるよ。君が君自身を縛っていることに気が付かない限り。だって、君はこんなにも優しいんだもの。こんなに優しいのに、自分に関してだけはすべてを諦めている。このまま放っておいたら君は、あっという間に死んでしまうでしょう?
君が死ぬなんて耐えられない。だけど君がそんな顔をしながら私を迎えることが悔しくって、君を解放したいのに苦しめていることがやるせなくって、いつの間にか、私の瞳からも色が消えていく。
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