第二章 お飾り王妃の日常


 夜の帳が下り、寝支度を整えたロイスリーネは、ジークハルトからの伝言を届けにやってきた女官長や侍女たちと挨拶を交わした。

「ゆっくりおやすみなさいませ、王妃様」

「ありがとう、女官長。皆も」

「それでは失礼します。あとのことは頼みますね、エマ」

「はい。おまかせください」

 エマ一人を残して彼女たちが退出するのを見届けて、ロイスリーネは苦笑を浮かべた。

「言づてなど意味もないのに、わざわざ毎晩忙しい女官長をよこすのはどうかと思うわ」

 ジークハルトはロイスリーネが離宮に移った後も、『仕事が立て込んでいて、そちらには行けない』という伝言を女官長に届けさせるのだ。

 結婚して半年の間にジークハルトが足を運んできたことはないので、その連絡はもはやただの日課のようになっている。

「もう来ないことはお互い分かっているんだから、しらじらしく言づてを届けさせる意味ってあるのかしら? 女官長にしたっていい迷惑でしょうに」

 仕事が立て込んでいるなどという言い訳を、ロイスリーネは全然信じていなかった。きっと毎晩恋人のミレイの元へ通っているのだろう。

「陛下はきっとリーネ様を気遣っているつもりなのでしょう。いらぬ気遣いですけれどね」

 エマはロイスリーネの髪の毛をゆるく三つ編みに結いながら、辛辣な口調で答えた。

 当然ながら、主をつらい立場に追いやったジークハルトに対するエマの印象は最悪だ。毎朝ロイスリーネと朝食を共にするためにやってくるジークハルトへの態度は誰が見ても分かるほど冷たい。

 ――エマの気持ちも分かるけど、不敬罪で罰せられないかとヒヤヒヤするわ。

 ジークハルトも傍に控える彼の従者もエマの不遜な態度をまったく気にしていないようなのが幸いだ。

 ロイスリーネの髪の毛を整えると、エマは次から次へと寝室の灯りを消していく。けれど、最後のランプは消さずに、ベッド脇のサイドテーブルに載せた。

 本来であればロイスリーネはこの後にベッドに横になるはずなのだが、ベッドの端に腰をかけたものの、寝る気配はない。

 待っているのだ。共寝をする相手を。もちろんそれはジークハルトではない。

「私の可愛いお友だちは、今夜も来てくれるかしら?」

「最近は毎晩来られるので、きっといらっしゃいますよ」

 エマの言葉通り、しばらく待っていると、静寂に満ちた寝室の片隅でカタリと音がした。ロイスリーネとエマが立てた音ではない。

 視線が自然と音のした方向――壁にはめ込まれている大きな鏡に向けられる。

 声を立てずにその様子を二人が見守る前で、鏡が音も立てずに動いたかと思うと、中から小さな影が飛び出してきた。

 待ち望んでいた来訪に、ロイスリーネはにっこりと笑う。

 影はぴょこぴょこと移動してきて、ロイスリーネのいる大きな天蓋付きのベッドの前で止まった。

 それは青と灰色を混ぜたような色の毛並みを持った、一匹のうさぎだった。

「いらっしゃい、うーちゃん」

 ロイスリーネは相好を崩しながら、うさぎに手を差し伸べる。するとうさぎは待ってましたとばかりにロイスリーネの手に飛び移った。

「うーちゃんは相変わらずモフモフね」

 そっと抱きしめると、うさぎは鼻先をロイスリーネの胸にこすりつけた。その甘えたような仕草に、ロイスリーネは悶絶する。

 ――ああ、なんて可愛いのかしら!

「リーネ様、お顔がやに下がっておりますが……」

「だってこんなに愛くるしいのよ? それに、誰も見ていないんだからいいじゃない。ねー、うーちゃん」

 小さな額にチュッとキスをすると、うさぎは気持ちよさそうに目を閉じた。

「うーちゃん」は毎晩ロイスリーネが寝る時間になると、地下道を通って部屋に姿を現わす。どこからやってくるのかは定かではない。けれど離宮に住むようになってすぐに「うーちゃん」はロイスリーネの前に姿を見せるようになった。

 ――最初はびっくりしたわよね。夜中に目を覚ますと枕元でうさぎが丸くなって寝ているんだもの。

 朝になると姿を消しているので、最初は夢か、あるいは寝ぼけて幻でも見たのかと思っていたほどだ。それほど自然に、いつの間にか「うーちゃん」はロイスリーネの部屋に現われては消えた。

 神出鬼没なうさぎ。

 動物好きなので、摘まみ出したり、捕まえて警備兵に突き出したりするつもりはなかったものの、この猫一匹通さぬ警備が敷かれている離宮に、どうやってこのうさぎは入ってくるのだろうか。エマと二人で何度も首を傾げたものだ。

 ――まぁ、種明かしをすれば、秘密の通路を通ってやってきていたわけだけど。

 鏡が急にズレて、その小さな隙間からうさぎがそっと寝室に滑り込んでくるのを偶然見た時は、さすがのロイスリーネもびっくりした。

 きっと、なんらかの偶然で地下道を見つけて彷徨っているうちに、最終的に温かなベッドがあるロイスリーネの寝室にたどり着いたのだろう。

 もしかしたら、ロイスリーネが離宮に住む前からこの部屋に来ていたのかもしれない。

「うーちゃんはきっと幸運を呼ぶうさぎだと思うの」

 鏡が扉になっていて、その奥に地下道へ続く秘密の通路があることを知ることができたのは「うーちゃん」のおかげだ。

 恩人……いや、恩うさぎだ。

「いつも思うけど、うーちゃんはどこで飼われているうさぎなのかしらね?」

 モフモフの毛を撫でながら首を傾げると、エマが思案しながら口を開いた。

「陛下がうさぎ肉がお好きではないとのことで、王宮内で食用として飼われているうさぎはいないそうです。この子は毛並みもいいし、汚れてもいないので、愛玩用として大切に飼われているのだと思いますけどね」

「そうね。王宮内のどこかの部署で飼われているのかもしれないわ。ちゃんと確認していないけど、地下の通路は王宮のあちこちに通じているみたいだから、出入り口の一つがうさぎ小屋の近くにあってもおかしくないもの。飼っている人から、ぜひ譲ってもらって離宮で飼いたいものだけど……無理でしょうね。うーちゃんのことは私たちだけの秘密にしましょう」

 どこでこのうさぎのことを知ったのかと詮索されたら、秘密の通路をロイスリーネが知ってしまったこともバレて、お忍びができなくなってしまう。それだけは避けたい。

「仕方ないわ。今はこうして一緒に寝るだけで我慢ね」

 ロイスリーネが残念そうにため息をつくと、まるで同意するように、うさぎは彼女の胸に顔を埋めたまま鼻をスピスピと鳴らした。

「もうお休みになられますか?」

「そうね。明日は午前中に公務があるから、朝食も早めになりそうだし、もう寝た方がいいわね」

「それでは天蓋を下ろしますね」

 エマがベッドの四柱に括られたカーテンを下ろしていく。

 ベッドの上に下ろされたうさぎは慣れた様子で枕元で丸まった。まるで青みがかった灰色の毛玉のようだ。

 ベッドに横になったロイスリーネはつい誘惑にかられて、柔らかな毛に手を伸ばした。撫でられたうさぎは身じろぎをしてつぶらな黒い目を開けると、首を伸ばしてロイスリーネの頬に顔をすりつける。キュンキュンと胸がときめいてまたもやモフりたくなってしまったが、うさぎが丸くなって目を閉じてしまったため、ぐっと我慢する。

「おやすみなさい、うーちゃん」

 天蓋のカーテン越しに、エマが声をかける。

「それではリーネ様。おやすみなさいませ。私は隣の控え室にいますので、何かありましたら、お呼びください」

「おやすみなさい、エマ。私は大丈夫だから、あなたもちゃんと休んでね」

「はい。ありがとうございます。それでは失礼します」

 ベッドサイドテーブルにあったランプを手に、エマが遠ざかっていく。

 真っ暗になった寝室で、うさぎの小さな寝息がロイスリーネの耳をくすぐった。

 ――ありがとう、うーちゃん。

 暗闇の中、夫に顧みられず閨の中に独りという惨めな状況や将来への不安を、うさぎの温もりが癒してくれる。

「うーちゃんが一緒に寝てくれるんだもの。夫なんて必要ないわね」

 そう独りごちると、ロイスリーネは目を閉じる。睡魔が訪れて、ロイスリーネの意識を闇のヴェールが覆っていく。


 ロイスリーネは、夢と現の狭間で、誰かが額にそっと触れているのを感じた。

「すまない、ロイスリーネ……」

 囁かれた言葉は、誰の声だったのか。

 ――……陛下?

 なぜかロイスリーネは、その手の主はジークハルトだと思った。

 ――ああ、これは夢ね。今頃陛下はミレイ様のところに行っているはずだもの。だから、これは夢か幻……。

 夢だと確信したと同時に、ロイスリーネの意識は再び闇の中に沈んでいった。

         

 目覚めるとうさぎの姿はもうベッドになかった。どうやら朝が来る前に帰ってしまったらしい。

「おはようございます、王妃様」

 エマをはじめ、離宮に勤めている侍女たちがロイスリーネの目覚めに合わせてぞろぞろと部屋に入ってくる。

 顔には出さなかったものの、ロイスリーネはうんざりした。

 これからドレスに着替えてジークハルトと朝食を共にすることになっている。

 ――たかが朝食のために毎朝窮屈なドレスに着替えなければならないなんて。

 ロウワン国では公務でもない限り、家族と過ごす時はコルセットのいらないシュミーズドレスで構わなかったのだが、ルベイラ国では国王と食事を共にする時も正式なドレスという決まりがあるらしい。

 そのせいで、毎朝ロイスリーネは侍女たちによってコルセットでウエストを絞られ、ペチコートを重ね着し、時間をかけて重いドレスを着せられている。

 ――面倒よね。陛下も何もわざわざ毎朝離宮に来てまで私と朝食を取ろうとしなくていいのに。

 昼食と夕食は公務があるため各自の都合で取る代わりに、朝は夫婦で一緒に食事をするという習慣は、ジークハルトと本宮に一緒に住んでいた結婚当初からだった。公務以外で顔を合わせる機会がその時くらいしかなかったこともあり、ロイスリーネは二つ返事で了承したのだが……。

 ――まさか離宮に来てまでその習慣を続けるとは思わなかったわ。

 来る必要はないといくら言ってもジークハルトは毎朝食事をするためだけに離宮にやってくる。そのたびに重いドレスに着替えなければならないロイスリーネの身にもなってほしい。

「おはようございます、陛下。遅くなって申し訳ありません」

 エマや侍女を連れてダイニングルームに向かったロイスリーネは、一足先に来ていたジークハルトに淑女の礼を取りながら挨拶をした。これも毎朝のことである。

「おはよう、ロイスリーネ。昨夜は来られなくてすまなかった」

 ジークハルトのこの言葉も毎朝のことである。

「いえ、陛下がお忙しいことは分かっておりますもの。私の方こそお気遣いありがとうございました」

 毎朝変わらぬやり取りをして、ロイスリーネはジークハルトにエスコートされて大きなダイニングテーブルの所定の位置に座る。そのタイミングに合わせてワゴンに乗せた食事が運ばれてきた。

 もちろん、美味しいが毒見を経てすっかり温くなった食事である。

 ――あーあ、料理人には悪いけど、こんな冷めたスープじゃなくて『緑葉亭』の温かい食事が食べたいわ。

 食べ物を口に運ぶたびに内心で愚痴っていたが、もちろん表面上はにこやかな笑顔を保つ。笑顔の下でロイスリーネがこんなことを考えているとは誰も思うまい。

 ……たった一人、エマを除いて。

 そのエマはダイニングルームの端に立ち、ロイスリーネたちの食事を見守っている。彼女の横にはジークハルトの従者であるエイベル・クライムハイツの姿もあった。

 エイベルはジークハルトの乳兄弟で、幼い頃から共に育ってきた間柄だという。いつもジークハルトの傍に控えて、彼の補佐をしている。

 顔は整っているが、端正というより愛嬌のある顔だちで、少し吊り上がった水色の目はいつも笑っているように細められている。

 離宮の侍女たちの話によると、性格も朗らかでとても話しやすく、親しみやすい男性らしい。常に仏頂面をしているジークハルトとは正反対の男性だ。

 もっとも、エマはジークハルトの従者というただその一点だけでエイベルのことを嫌っているようだ。今も何かと話しかけてくるエイベルに冷たい視線を向けている。

『あの人、性格悪いと思います。私には分かります。アレは食わせ者です!』

 いつだったか、エマが言っていた言葉が思い出される。

 ――エマったら、大丈夫かしら? 何だかハラハラしてしまうわ。

 ロイスリーネにとってエマはとても頼もしい侍女だが、少し気の強いところがある。今はロイスリーネもジークハルトもいるし、他の侍女の目もあるから抑えているが、これが二人きりだったりしたら、相手を舌戦でやりこめていたに違いない。

 普段は王家に仕える侍女として楚々としているものの、平民出身で孤児院育ちのエマはとにかく口が立つのだ。

 余談だが、ロイスリーネが一国の王女らしからぬ砕けた物言いになるのは、元平民だった母親とエマが大いに影響している。

 平民を装い下町の食堂でウェイトレスをやっていても、まったく違和感がないのはそのためだ。

 ――何の経験が役に立つか分からないわよね。

 そんなことを考えながら横目でエマの様子を窺っていると、ジークハルトの声が聞こえた。

「ロイスリーネ。昨日は何をして過ごしていた?」

 ロイスリーネは意識をジークハルトに戻すと、笑顔で答えた。

「一日読書をしておりましたわ」

「そうか」

「陛下は遅くまで忙しい一日を過ごされたようですね。王妃なのに私ばかりのんびりしていて、申し訳ないほどです」

 チクリと嫌味も加えてみたが、ジークハルトは動じなかった。

「気にするな。あなたはここでゆっくり過ごしてくれればいい」

「……ありがとうございます」

 会話はそれ以上続かなかった。国王と王妃ともなれば、普通公務のことや国政のこと、外国の情勢など話す内容はたくさんあるはずなのだが、ロイスリーネとジークハルトの間にそんな会話は一切ない。

 ロイスリーネの方からも伝える話などない。何しろ公務もほとんどなく、一日中離宮でボーっとしているだけなのだから。緑葉亭での話ならいくらでもあるのだが、話せるわけもない。

 会話は途切れ、手を動かすたびに食器の立てる小さな音だけがダイニングルームに響く。

 ――この時間に何の意味があるのかしらね? 王妃との仲は良好だという周囲へのアピールかしら?

 首を傾げながらロイスリーネは向かいに座るジークハルトをそれとなく観察する。

 嫌になるくらいに端正な顔だち。ルベイラ王族特有の銀髪と、曇りの空を思わせる青灰色の目の組み合わせは、どこか見る者をヒヤリとさせる。

 まるで氷で作られた彫像だ。

 ――同じ王族で銀髪を持つタリス公爵を見ても、少しもそんなイメージは湧かないのに、陛下だけ妙に寒々しく感じるのよね。

 感情を表さない、笑いもしない「孤高の王」。ぴったりなあだ名だと思うものの、どこか違和感を覚えてしまうのは、昔のジークハルトを知っているからかもしれない。

 ロイスリーネがジークハルトと初めて出会ったのは、六年前、十二歳の時だ。

 ジークハルトはまだ王太子で、父親の名代として東方諸国を巡っていた。ロウワン国にも立ち寄り、数日間ロイスリーネの住む王城に滞在することになったのである。

 ――その時、なぜか私が案内係として陛下の滞在を手助けすることになったのよね。お姉様やお兄様ではなく、子どもの私が。

 これは異例のことで、両親以外はみんな首を傾げていた。今もって理由は分かっていない。でも、母親がロイスリーネを指名したということだけはなんとなく察していた。

 ――もしかしたら私を大国の次期国王に売り込みたかったのかしら? いえ、それはお母様の性格上ないわね。

 案外、子どもならば大国の王太子相手に失礼をしても許されると思ったのかもしれない。事実、そうなった。

 当時まだ十六歳だったジークハルトは、文句一つ言わずに拙いロイスリーネの案内を受け入れてくれた。それどころか笑みを浮かべて労ってくれたのだ。

『ありがとう。大人たちが考えているより、姫はとてもしっかりしていると思う』

 笑顔と共に告げられた言葉がとても嬉しかったのを覚えている。

 そう、あの頃のジークハルトは、ぎこちなかったものの、笑顔を浮かべていたのだ。

 ――その時のことが記憶にあったから、即位した彼が一切笑顔を見せないでいると知ってびっくりしたんだったわ。

 実際、再会した彼は六年前とは打って変わって一切笑わない、噂通りの「孤高の王」となっていた。

 ――確か陛下は東方を巡って帰国した後、すぐに国王の座についたんだったわよね。即位してから、一体何があったのかしら?

 気にはなったものの、気軽に聞ける間柄でもないし、正直自分のことで手一杯だ。

 だから、ジークハルトのことは考えない。ジークハルトがロイスリーネを利用するのなら、自分も祖国の利益のために彼を利用する。

 それ以外考える必要はないのだ。

「失礼します、陛下、王妃陛下」

 食事が終わったのを見計らったように、ダイニングルームに宰相のカーティスが現われた。

「まもなく謁見が始まります。その前に王妃陛下に今回の公務の概要について説明させていただきたく、参上いたしました」

 宰相のカーティスは優雅な仕草で一礼すると、ロイスリーネを見てにっこりと笑った。ロイスリーネは背筋を伸ばしてお腹に力を入れる。

 ――出たわね、腹黒宰相。

 カーティス・アルローネはジークハルトとはまた違ったタイプの端正な顔だちの男性だ。アルローネ侯爵家の当主であり、前宰相だった父親の跡を継いで、宰相の地位についた。年齢は二十六歳で、ジークハルトより四つ年上だ。

 立ち居振る舞いも容姿も優美で上品で、いかにも貴族といった風貌である。普通だったら軟弱に見えるはしばみ色の長い髪も、不思議と彼の容姿にとても似合っていた。

 ただし、それは外見だけのこと。優雅で柔和な笑みを浮かべてはいるが、その中身と性格は冷静にして冷酷。彼を若造だと侮った人間はことごとく潰されているという話だ。

 六年前、ロイスリーネはカーティスとももちろん顔を合わせている。

 その際、この柔和な笑顔と柔らかな口調で、ロイスリーネの話を本人と周囲から根掘り葉掘り聞き出したことは記憶に新しい。ロイスリーネもこの貴族的な外見につい騙されて、自分がギフトもなく、魔法も使えない期待外れの姫であることを話してしまった。

 ――今から思えばその情報のせいで、私はジークハルトの王妃として選出されたんじゃないかしら? 利用しやすい、しても構わない相手として。

 期待外れの姫だと言われることを気にしていたロイスリーネなら、祖国の役に立つためにジークハルトの不貞にも目をつぶるだろう、と。

 ――ええい、その通りよ。この陰険男め。

 ロイスリーネはカーティスが三年前に縁談を持ちかけてきた時のやり取りを忘れてはいない。

 何か裏があるのではとそれとなく尋ねたロイスリーネに、この男は微笑んでしれっと答えたのだ。

『他意などありません。ジークハルト陛下がロイスリーネ殿下を伴侶にと望まれているからです』

 ――嘘つき! 裏ありまくりじゃない!

 騙されたことに気づいた時から、ロイスリーネにとってカーティス宰相は要注意人物となった。もちろん絶賛継続中だ。

「謁見の相手は同盟国のバンザールからやってきた新しい大使です。バンザールは我が国と肩を並べるほどの大国ですから、新しい大使の就任をこちらも最上の礼儀で以て迎えなければなりません」

 カーティスの言わんとしていることを察してロイスリーネは肩をすくめた。

「分かりましたわ。私が欠席すると非礼にあたると言うわけですね」

「その通りです。理解が早くて助かります」

 言いながらカーティスはロイスリーネに近づき、一枚の紙を手渡す。

「謁見には大使の奥方もいらっしゃる予定です。王妃陛下に声をかけていただければ、奥方も大変お喜びになるでしょう」

「了解したわ」

 ロイスリーネが頷くのを確認し、ジークハルトは立ち上がった。

「では私は一足先に向かっている。支度がすんだら女官長と警備の者をよこすので謁見の間に来てくれ」

「はい、陛下」

 ジークハルトを見送るためロイスリーネも椅子から立ち上がると、ドレスのスカートを摘まんで頭を下げる。

 カーティスと従者のエイベルを伴ってジークハルトがダイニングルームを出ていくのを確認して、ロイスリーネはエマに声をかけた。

「エマ、聞いた通りよ。侍女たちを呼んで着替えを手伝ってちょうだい」

「はい。リーネ様。すぐに」

 朝食用のドレスと謁見用のドレスは別だ。つまり、またもやロイスリーネは着替えなければならないのだ。

 コルセットはそのまま流用できるが、面倒くさいことには変わりない。

 ――ロウワンであれば、朝はシュミーズドレスで事足りるし、謁見に参加する時だって普段のドレスですんだのに……。

 国の規模の差や、王女と王妃の立場の違いがあるのは理解しているが、毎回無意味に着替えさせられる身にもなってほしいものだ。

 げんなりしながらドレスを着替えると、ロイスリーネは侍女や女官、それに護衛騎士たちを大勢従えて離宮を出た。

 当然のことだが、ぞろぞろと人を引きつれて歩くのはロイスリーネの希望ではなく、ジークハルト、もしくはカーティスが勝手に手配したものだ。

 ――私を守るためにしては大げさすぎだわ。どこの世界に国王より大勢の人を引きつれて歩く王妃がいるというの?

 ただでさえロイスリーネは小国出身の王女ということで侮られているのだ。これではさらに反感を煽ってしまうだけでないか。

 後継ぎも産まず、離宮に閉じこもって必要最低限しか公務をしない王妃。ようやく離宮から出てきても、これみよがしに大勢人を侍らせている――どれをとっても印象は最悪だ。

 ――まさかそうなることを見越しての処置なのかしら? 簡単に王妃の首を挿げ替えられるように、わざと反感を買うようにしているんじゃ……?

 ロイスリーネがそんなふうに穿った考えを持ってしまうのも無理からぬことだった。

 謁見の間に向かって廊下を進んでいくと、王妃一行に気づいた使用人や兵士、それに通りかかった文官たちが慌てて脇に控えて頭を下げるのが見えた。

 その大部分がロイスリーネの知らない人たちだ。ルベイラに嫁いでからほとんどずっと離宮で軟禁されているため、貴族はおろか宮殿に勤めている人の顔を覚える機会もなかった。

 祖国にいた時は、下働きに至るまでみんなが顔見知りだったために、今の知らない人間ばかりという状況が、ロイスリーネには居心地が悪く感じられる。

 だからだろう。知らない人ばかりの間に見知っている人間を見つけてつい足を止めてしまった。

「アーカンツ伯爵ではありませんか。お久しぶりですね」

 声をかけると、廊下の脇で軽く頭を下げていた中年の男性が顔を上げて微笑んだ。

「はい。お久しぶりでございます、王妃様」

 人のよさそうな顔をしたこの男性は、以前ロウワン国にルベイラの大使として赴任していた人物で、何度か城で顔を合わせたことがあった。

 言葉を交わすようになったのは王妃としてルベイラに来てからだ。大多数の貴族が小国からやってきた王妃を見下していた中、ロイスリーネを歓迎してくれた数少ない理解者の一人である。

「お元気そうで安心しました。宰相閣下から王妃陛下の体調があまりよくないため、離宮に籠られていると聞いていたものですから。面会を申し込んでも受けつけてもらえず、心配しておりました」

「まぁ……」

 ――あの陰険宰相め。私が離宮にいる理由をそんなふうに説明していたのね。

 それは大嘘で、離宮に軟禁されているのだと言いたいのはやまやまだったが、大勢の目がある前では無理だった。いや、人目がなくとも、そんなことを口にしたとたん、軟禁どころか幽閉されてしまうのが目に見えている。

 悔しいがここは宰相の言っていた理由をこじつけるしかないだろう。

「心配をかけましたね。環境の変化に少し疲れただけなのですけど、陛下がとても心配されて、離宮で見知った者だけに囲まれていた方が気が休まるだろうと配慮してくださったのです。公務の方も体調を考えて徐々にこなしていけばいいと言ってくださって。本当に陛下はとてもお優しい方ですわ」

 ロイスリーネはおっとりした口調ながら、周囲にはっきり聞こえるように言った。

 これでこの場にいる人たちの口から、ロイスリーネが自分の意思で離宮に引きこもって公務を疎かにしているわけではないと広がるだろう。

「ジークハルト陛下はとてもすばらしい方で、我らの誇りです」

 アーカンツ伯爵は嬉しそうに微笑んだ。この笑顔だけで、彼がジークハルトを国王として尊敬しているのが分かる。

 ――夫としては最低ですけどね。

 表面上は微笑みながら、ロイスリーネは心の中で付け加えた。

「王妃陛下、そろそろ謁見の間に向かいませんと……」

 斜め後ろから女官長がロイスリーネに耳打ちする。もっとも、耳打ちと言っても周囲に立ち話はそこまでだと教えるためのものなので、その声は決して小さくはなかった。

 それを聞いて、アーカンツ伯爵の後ろに控えていた従者らしき青年がスッと出て、こちらも周囲に聞こえるような声で耳打ちした。

「旦那様。そろそろ部内会議が始まるお時間です」

 引き際だと見て取ったロイスリーネは、アーカンツ伯爵に笑顔を向けた。

「アーカンツ伯爵、引き止めて悪かったわ」

「とんでもございません。王妃陛下、お元気な姿を拝見しまして私も安心いたしました。もし王妃陛下に何かあれば、ロウワン国にいる国王陛下たちに申し訳が立ちませんから」

「まぁ、大げさね」

 ロイスリーネはつい笑みを漏らす。ロイスリーネは一見、大人しそうで弱々しく見えるが、中身はまったく真逆だ。そのことを両親も分かっている。

 ――もちろん心配はしているだろうけど、お父様たちが一番気にしているのは、私が被っている巨大な猫が外れてしまわないかということだわ。

 王宮を抜け出し、身分を隠して下町の食堂で働いていると知ったら、やっぱりと思うだろう。

「王妃様」

 いつまで経っても動こうとしないロイスリーネにしびれを切らしたのか、女官長が咳払いをする。

「ではアーカンツ伯爵、ごきげんよう」

 軽く挨拶をして歩き始めたロイスリーネに、アーカンツ伯爵が声をかける。

「王妃陛下。私でお力になれることがあれば、いつでも遠慮なくお声がけください。何をさておいても駆けつけますので」

「ありがとう。アーカンツ伯爵」

 直接な返答は避け、ロイスリーネは護衛を引きつれてその場を立ち去った。

 アーカンツ伯爵はああ言ってくれたが、彼を自分の問題に関わらせるつもりはなかった。彼からロウワンの家族に伝わると困るからだ。

 ――できるだけ祖国には今の私の状況を知られたくない。お姉様やお兄様に心配をかけるだけだから。

 それに、ロイスリーネの現状を知っても、小国であるロウワンにはどうすることもできないのが現実だ。だったら知らせる必要はない。

 ロイスリーネには目標がある。

 最初は国のためにできるだけジークハルトと良い夫婦関係を結ぶことだった。けれどルベイラに到着する前にミレイの存在を知ってしまい、それは無理だと分かった。

 用がなくなればお飾り王妃など必要ない。いつかは何かしらの理由をつけて祖国に返されるだろう。

 だから、ロイスリーネは目標を変えた。利用されるのであれば、反対にこの状況を利用してやろうと。

 名ばかりの王妃を演じることでジークハルトに恩を売り、別れる時にロウワンにとってできるだけいい条件をルベイラから引き出すのだ。

 ――陛下は「孤高の王」なんて言われていても、根はとても優しい方だというのは分かっているわ。でなければ面倒なのに毎日私と朝食を共にしたりしないもの。

 きっと恋人のために妻を利用していることに、罪悪感を覚えているはず。そこをつくのだ。

 ――だから、今は物静かで大人しい王妃を演じていてあげるわ。もちろん、侮られないように適度に威厳を保ちながらね。

 ロイスリーネは密かに笑みを漏らす。大勢の護衛と侍女に囲まれて廊下を歩くロイスリーネを見て、まさかそんな打算的なことを考えているとは誰も思うまい。

 ……いや、数歩あとに続くエマだけは分かっているだろうが、他の人間はロイスリーネの本心に気づくことはないだろう。

 何しろロイスリーネの外見は、淑やかで従順そうな女性そのものだ。

 優しげな面差しも、夢見るように開かれた緑色の瞳も、いつも微笑んでいる口元も、どこかおっとりしているように聞こえる口調も、ロイスリーネを控えめな女性として印象づけている。

 伏し目がちに微笑を浮かべれば、儚くさえ見えるらしい。

『リーネ様の外見と中身の差は詐欺レベルですね』

 などとエマには言われるが、周りが勝手に外見で想像しているだけだ。ロイスリーネが騙しているわけではない。

 だが、そう見られているのなら利用しない手はないだろう。

 ――さぁ、行くわよ、ロイスリーネ。お飾り王妃の出番だわ。

 謁見の間へと続く扉が見えてきて、ロイスリーネは姿勢を正した。



 後に国王夫妻と謁見をすませたバンザール国の新しい大使は、部下にこう感想を漏らしたという。

「隣り合った席に座る国王夫妻は、外見や雰囲気などまるで正反対なんだが、それが妙に調和しているように見えたな。とてもお似合いの夫婦だと思うよ」

         

 それから二時間後、無事に公務を終えたロイスリーネは離宮に戻り、窮屈なドレスからシュミーズドレスに着替えていた。

「何事もなく公務が終わってよかったわ」

 侍女たちを下がらせたロイスリーネはエマと二人きりになると、肩の力を抜いた。

「お疲れですか、リーネ様? 少し休まれます?」

「大丈夫よ。陛下の隣で微笑んでいるだけだもの。でも、必要最低限とはいえ、王妃の公務がこんなに少なくていいものかしら? お母様なんて分刻みに予定が入っていて、いつも慰問やら、謁見やらで忙しそうだったのに」

 エマがクローゼットの奥からワンピースを取り出しながら答えた。

「女官長様によると、陛下の母君である先代の王妃様が亡くなって以降、女性の公務の担い手がいなくなってしまい、ほとんどが廃止されてしまったそうです。リーネ様が王妃となられて、徐々に戻していく予定だったそうですが、カーティス宰相が待ったをかけたようですね」

「休養という名目で離宮に押し込んだんですもの。その建前がある限りガンガン公務を入れるわけにはいかなかったってことね。まぁ、おかげで自由に動ける時間があるわけだけど」

「そうですね。リーネ様、今日はこちらの若草色の服をお召しください」

 エマがロイスリーネに手渡したのは、平民用の飾り気のないワンピースだった。

「ありがとう。着替えている間、ジェシー人形の準備をお願い。そうね、今日は公務で疲れたからベッドで休んでいるという設定にしておいて」

「かしこまりました」

 ロイスリーネはクローゼットの陰に向かい、そこで素早くシュミーズドレスからワンピースに着替える。重厚なドレスは人の手がないと着付けることができないが、ワンピースであればロイスリーネ一人でも着ることができるのだ。

 髪の毛を左右に分けておさげにし、眼鏡をかければ『緑葉亭』のウェイトレス「リーネ」の出来上がりだ。

 姿見の前に立つと、美しいドレスを着た王妃ロイスリーネと同一人物とは思えないほどの地味な少女が見返していた。少女は鏡の中で満足そうに微笑んでいる。

 ――案外バレないものね。髪型を少し変えて地味に装っただけなのに。

 これもロイスリーネの顔が国民にほとんど知られていないからこそだろう。国民が知っているのは、宮殿のバルコニーから手を振る姿と、大地の女神を祀るファミリア神殿から王宮までの短いパレードの間で見せた姿だけである。

 いずれも遠目で、しかも着飾っていたから、顔などほとんど判別できなかっただろう。地味なウェイトレスのリーネと結びつくわけもないのだ。

 自分の変装に自信を得て振り返ると、エマも準備を終えたところのようだ。寝室のベッドにはロイスリーネそっくりの女性が横たわって目を閉じている。

「ふふ、今日もよろしくねジェシー。エマ、後のことは頼んだわね」

「はい。おまかせください。リーネ様。お気をつけて」

「ええ。用心に用心を重ねるわ」

 ロイスリーネはランプの一つを手に取ると、鏡の下部の飾りに手を触れた。カチリと噛み合ったような音がすると同時に、今度は鏡のガラス部分が音もなく右に開いた。地下通路に続く隠し扉だ。

 木で彫られた縁の模様の一部がこちら側から隠し扉を開く鍵になっているのだ。

「行ってくるわね」

 エマに声をかけて、ロイスリーネは隠し扉の向こうに身を躍らせた。

 狭い螺旋階段を下りる。普段使われていない通路は明かりもなく真っ暗だが、ロイスリーネは慣れた様子で地下道に下りると、王都の東側に通じる道を進んだ。

 おそらく侵入者を惑わすためだろう。地下道は時々二又や三又に分かれている。ロイスリーネもまだ確かめていないが、方向からいっていくつかの道は王宮のどこかに繋がっているのだろう。あるいは行き止まりになっている可能性もある。

 分かれ道はたいてい似たような印象で、うっかりすると正しい道が分からなくなりそうだったが、ロイスリーネにはとある特技があったため、迷子になる心配はしていなかった。

 ロイスリーネの特技。

 それは数ある選択肢の中から正解を引き当てることができるというものだ。

 偶然なのか必然なのかは分からないが、勘に従って選択すればほぼ当たる。おかげでカードゲームは無敵だ。

『あなたのその引きの良さはもうギフトと呼んでも差し支えないのでは?』

 姉のリンダローネにそう言わしめるほど、「自分にとって最善の選択を引き当てる」のが上手なのだ。

 もちろん、そんなギフトなど聞いたことがないし、ロイスリーネにギフトがないのは『鑑定』の聖女によって確認済みだ。

 ――本当に単なる勘なのよね。でも、役に立つのはゲームくらいなものだと思っていた特技が、まさかこういう場面で活かされるとは思わなかったわ。

 だが、おかげでこの複雑な地下道を迷わずに目的地まで行けるのだから、神々に感謝の祈りを捧げるべきなのかもしれない。

 ――夫の選択は間違えたみたいだけど、それだって私が選んだわけではないしね。

「私が選択できるのであれば、ちゃんと妻として扱ってくれる人を選んでいたわ。恋人を手放さないために他人を利用する夫なんて選ばないわよ」

 一人きりだという安心感からか、つい独り言を言ってしまう。やっぱり軟禁生活で鬱憤が溜まっているのだろう。エマを心配させないために普段は口にしないようにしている夫への不満がつい口を出る。

「陛下のばーか、クズ、甲斐性なし!」

 そんな調子で三十分ほど歩いた頃だろうか。ようやくロイスリーネは上に出る階段に突き当たった。離宮の隠し扉の裏側にあったのとよく似た造りの階段だ。

 階段をあがり、扉を抜けるとそこはどこにでもある民家の部屋だった。隠し扉は納戸に見えるように偽装されている。

 ロイスリーネはランプを小さな棚の上に置き、周囲を見回す。空き家なのは確認済みだが、万が一人の気配があるとマズイ。

 誰もいないのが分かると、ロイスリーネは安堵のため息をつく。この瞬間が一番気を使う。

 王族が脱出用に作ったと思われる地下道だ。ここに出入り口があることを知る誰かが定期的に様子を見に来てもおかしくない。

「それにしても、地下道の一つがこんなところに通じているなんて思わなかったわ」

 この民家があるのは、王都の東側の大門の近く――そう、『緑葉亭』にほど近い場所だ。民家が密集している地域の一角にあり、人が住んでいないにもかかわらず所有者がいるので、取り壊されずに残っているようだ。

 奥まった場所に戸口があるので、出入りしても人に見られる心配はない。まさに隠れ家として最適だと言えよう。

「さて、仕事に行きましょうか」

 鏡はないので手でささっと身を整えると、ロイスリーネは隠れ家を出た。緑葉亭まではすぐだ。

「リグイラさん、キーツさん、こんにちは!」

 準備中の看板がかかっている店の扉を開けると、いい匂いが鼻腔をくすぐった。開店前の準備で忙しく立ち働いているリグイラがロイスリーネを見て微笑んだ。

「こんにちは、リーネ。待っていたよ。さっそくだけど、手伝っておくれ」

「はい!」

 ロイスリーネはエプロンを身に着けると、慌ただしく動き始めた。

 開店時間になると、さっそく客たちが入ってくる。

「こんにちはリーネちゃん、今日の日替わりを頼むよ」

「はい、ただいま!」

 美味しそうな匂いの立ちこめる店内に明るい声が響く。

 ここにいる少女は物静かで大人しい「王妃ロイスリーネ」ではない。いつも明るく笑っている働き者「ウェイトレスのリーネ」だ。

 今のリーネを見て王妃と同一人物だと分かる人間はそうそういないだろう。あえて王妃とは違うイメージを装っているわけだが、どちらかと言えば「リーネ」の方がロイスリーネの素に近い。

 しがらみもなく、打算も必要ないここでは、ロイスリーネは本来の自分を出せるのだ。

 ――『緑葉亭』で働くことができてよかった。

「リーネ、これ三番テーブルに持って行っておくれ」

「はーい、ただいまお持ちします!」

 リグイラの声に応じながら、ロイスリーネは初めて緑葉亭に来た時のことを思い出していた。


 ロイスリーネは地下道の先に隠れ家を見つけて以来、そこを起点に王都を散策していた。もちろん、長時間ではない。エマが心配するので、毎日少しずつ行動範囲を広げていく程度のものだ。

 ルベイラの王都はロウワンの城下町と比べて大きくて人口も多い。簡素なワンピースを身に着けて平民のように色々見て回るのが楽しかった。

 誰もロイスリーネが王妃だなんて気づかない。小国出身の王妃だと見下されることもない。姉と比べられて、期待外れの王女だと蔑まれることもない。

 自由で明るくて、毎日が楽しかった。

 ところがそんなある日、街を散策していたロイスリーネは誰かに後をつけられていることに気づいてしまった。

 王都の東側は閑静な住宅地で、繁華街ではないため比較的治安はいい。けれど、ひったくりや強盗などがまったくないわけではない。女性がならず者たちに襲われることもある。

 ――どうしよう。私が王妃だと知られたの? それとも強盗や物取りに狙われているの?

 判別はつかなかったが、このまま無防備に歩いていたら拉致される可能性もある。ロイスリーネは逃げ込める場所を探してあちこちに視線を彷徨わせ――そこで目に飛び込んできたのが食堂『緑葉亭』だった。

 店に入り、女将――リグイラに事情を説明すると、彼女は開いているカウンターの席にロイスリーネを座らせて言った。

『しばらくここに座ってな。単なる物取りだったらそのうち諦めるだろうさ』

 それだけではなく、リグイラは注文もしていないのにロイスリーネの前にスープが入った皿を置いてにかっと笑った。

『ほら、これでも飲んであったまりな。お金はいらないよ』

 口に含んだスープは、王宮で出されるものほど凝ったものではなかったが、素朴な味や温かさが身体にしみわたるようで、とても美味しかった。

 リグイラの厚意に感謝したロイスリーネが、お客が増えてきて忙しそうに立ち働く彼女に「お手伝いします。いいえ、させてください」と申し出たのは、当然の成り行きだっただろう。

 リグイラは突然の申し出にびっくりして断ったが、ロイスリーネは「経験がありますから」と強引に手伝った。

 国が異なってもウェイトレスのやることはほとんど変わらない。ロイスリーネは昔母親に教わったことを記憶の底から引っ張り出して、次から次へとやってくるお客をさばいていった。

 ――私って絶対に王妃よりウェイトレスの方が合ってるわよね……。

 自分でもそう思うほど、ウェイトレスの仕事がしっくりくる。しかも、ジークハルトの横で微笑を浮かべて立っているだけの仕事より、断然楽しくてやりがいもあった。

 お客が引けた後、リグイラに「もしよかったら昼だけでもここで働かないかい?」と誘われ、迷ったものの引き受けることにしたのは、今から思えば最善の選択だったのだろう。

 その日は店の常連客に隠れ家の近くまで送ってもらったが、ロイスリーネを付け回していた気配はすっかり消えていた。

 エマにはたいそう怒られたし心配もされたが、ロイスリーネの鬱屈した気持ちを分かってくれていたので、結局は折れてくれた。

 こうしてロイスリーネは「リーネ」として店で働くことになった。

 ――だってね、やっぱりお金は必要だもの。

 ロイスリーネが働くことにしたのは、やりがいのある仕事がしたかったからだけではない。城下町に下りた時に使えるお金が欲しかったことも理由の一つだ。

 当然のことだが、王妃であるロイスリーネはお金を持っていない。ロウワン国の貨幣は少し持ってきていたが、ルベイラでは使えない上に換金できるかも不明だ。

 もし換金できたとしても、そこから足がつくかもしれないことを考えると取り替えることはできなかった。

 つまりロイスリーネは一文無しなのだ。街を散策中に欲しいものがあっても指をくわえて見ているしかない。

 それが、『緑葉亭』で働けばお給金をもらえるのだ。欲しいものが買えるのだ。ロイスリーネは張り切らざるを得なかった。

 今ではもらった給金で、新しい靴も買えたし、店の客に聞いた美味しいお菓子をエマにお土産として買って帰ることもできる。

 ――働くことにしてよかった。

 店で働くようになって、ロイスリーネは初めてルベイラに来てよかったと心から思えるようになったのだ。


「リーネ、これ一番テーブルに持って行って。それからそろそろお客も引けてきたから、表の看板を休憩中に切り替えてきて」

「あ、はい! 分かりました!」

 リグイラの言葉に我に返ったロイスリーネはお盆を受け取り、一番テーブルに運ぶとその足で店の外に出ようとした。

 その時、扉が開いて一人の男性が飛び込んでくる。

「遅くなってしまった! 女将、まだ定食間に合う?」

 入ってきたのは、軍の制服の上にフロックコートを身に着けた若い男性だ。やや長めの黒髪に、灰色の目をした背の高い美丈夫で、端正な顔だちはさぞモテるだろうと思われる。

 ロイスリーネは彼を知っていた。『緑葉亭』の常連客の一人であるカインだ。

「いらっしゃいませ、カインさん」

「おや、カイン、間に合ったようだね。いつもの日替わり定食でいいかい?」

「ああ、頼むよ」

「カインさん、こちらの席へどうぞ」

 走ってきたのか、カインは額に汗をかいていた。ロイスリーネはカインを席に案内すると、コップに水を注ぎ、ついでにタオルも用意して彼に渡した。

「ありがとう、リーネ。助かるよ」

 カインはタオルを受け取り、ロイスリーネににっこりと笑いかけた。実に爽やかな笑顔だ。

「仕事が押して駐屯所から出るのが遅くなった。間に合わないかと思って走ってきたんだ」

「お疲れ様です。でも少しくらい遅れても、常連のカインさんのためだったら、女将は食事を出してくれたと思いますよ」

「規則正しくいつもの時間に食べられるようにしろとのお説教付きでね」

 いたずらっぽく笑いながらカインはいささか声を落として言った。

「確かに」

 リグイラの説教する姿が容易に思い浮かび、ロイスリーネもついくすくすと笑ってしまった。

 カインはロイスリーネが店で働き始める前からの常連客で、毎日ではないが週に三日は食べに来ている。

 身に着けている軍の制服を見るに、それなりの地位にいるようだが、ロイスリーネは具体的に彼が何の部署でどういう仕事をしているのかは知らない。

 知っているのは、王宮内にある軍の本部と、店のすぐ近くにある軍の施設を行ったり来たりしているということだけだ。

 ――年齢も知らないのよね。外見からすると二十代半ばくらいだと思うのだけれど。

 興味がないわけではないが、ロイスリーネはお客のことを根掘り葉掘り聞かないようにしている。返す刀で自分のことを詮索されたら困るからだ。

「そういえばリーネ、その後はどう? 後をつけられたりしていないかい?」

 カインは他の客に聞かれないように小声で尋ねた。

「はい。大丈夫なようです。あの時だけだったようで……」

 初めて『緑葉亭』に来た日、リグイラに頼まれて隠れ家の近くまでロイスリーネを送ってくれたのは、何を隠そうこのカインだ。カインはその後も心配してか、時々こうして尋ねてくれる。

「そうか。よかった。でももし何か不審な視線を感じたら、店に戻るか、軍の駐屯所でもいいから駆け込むんだよ」

「はい。ありがとうございます、カインさん」

 ロイスリーネがお礼を言いながら笑いかけると、カインもにっこりと笑った。

 ――陛下とは大違いだわ。陛下は私を前にしてにこりともしないけれど、カインさんは笑い返してくれるもの。

 立場の違う二人を比べるのは無意味だと分かっているが、せめてカインの十分の一でも感情を示してくれればいいのにと思ってしまう。

「リーネ、カインの分ができたよ。運んでおくれ。それと外に看板を出すのを忘れないで」

 そういえばカインがやってきたことに気を取られて、休憩中の看板を立てるのをすっかり忘れていた。

「はい。ごめんなさい。今すぐやります」

 ロイスリーネは身を引き締めて、言われた仕事をこなすために動き出した。

 しばらくすると客もほとんどいなくなり、カイン一人だけになる。ロイスリーネの仕事はもう終了し、まかないを食べたらあがりだ。

 カインが途中まで送ってくれるというので、リグイラの後押しもあり、ロイスリーネは甘えることにした。

 余計な詮索をしてこないカインといるのは楽なのだ。

「すみません、カインさん。また送ってもらって」

「構わないよ。俺も駐屯所に戻るついでだから」

 二人そろって店を出ると、ちょうど遠くの方から鐘の音が聞こえてきた。どこかの神殿が鳴らしているのだろう。

「この時間だとファミリア神殿の鐘だろう」

 カインの視線の先を見ると、遠くにいくつもの塔を持つ建造物があった。ファミリア神殿だ。

 この世界の神は、一柱ではなく、多くの神々が存在する。

 国や民族によって信仰する神が異なるので、各地から人が集まる国や都市ではたいていそれぞれの神を祀る神殿が建てられている。あのファミリア神殿もその一つだ。

 大地の女神ファミリアを祀る神殿で、建物の規模から分かるように最大の信者数を持つ。

 それもそうだろう。ファミリアは創世を終えた古き神々が眠りにつく前に、この世界を維持管理するために造られた新しい神々の代表なのだから。大地と豊穣と命を司り、人々に実りをもたらしてくれる女神。

 ロウワン国でもファミリアを祀っているし、このルベイラもそうだ。そのため、ロイスリーネたちの結婚式はファミリア神殿で行われた。

「そういえば、リーネは王都に来て間もないから知らないかもしれないが、この国には夜の神を祀る神殿もあるんだ」

「夜の神を祀る神殿?」

 ロイスリーネはびっくりして聞き返す。

 夜の神。それはかつての古き神々の一柱にして、最後まで眠りにつくのを拒み地上に君臨し続けた神だ。大地の女神に力ずくで眠りに落とされ、今も地の底で女神と人間に対する呪詛を吐き続けている、と言われている。

 人間にとってはあまり好ましくない神なので、まさか祀った神殿があるとは思わなかった。

「ここはかつて亜人の国で、夜の神は亜人の守護神だったからね。神殿は亜人がいた頃の名残だよ」

 亜人というのは人間と動物の中間の種族で、夜の神が造ったと言われている。外見も能力もどちらの種族の特徴も受け継いでいて、手足は人間なのに獣の頭を持ち、全身も毛に覆われていたなど、色々と言われている。が、それは伝承の域を出ない。

 亜人はとっくに滅びており、文献も残っていないからだ。

「亜人の住んでいた国だったら、夜の神を祀る神殿があってもおかしくないわね」

「ああ、とっくに廃墟になっているけれどね。神殿は東の大門を出て五キロほど進んだ先にある。でも、興味を覚えたからって決して近づいてはダメだよ。あの辺りはひと気もないし、獣も出るから物騒だ。何より一時期クロイツ派が根城にしていたという話で、陰惨な出来事が起きた場所でもあるから」

「クロイツ派が……」

 ロイスリーネは顔を歪め、粟立った腕を無意識のうちにさすった。

 クロイツ派とは、神を崇めている一団ではあるけれど、特定の神を信仰しているわけではない不可思議な集団だ。彼らはとある思想で結ばれている。

「奇跡は神のもの。人間が行使するべきではない。力は神の元へ還さなければならぬもの」という考えだ。

 その思想のもと、彼らは魔法使いや魔女や聖女すらも否定し、攫っては殺すという残虐行為を繰り返した。

 中でも標的になったのは魔女だ。神殿の保護もなく、身を守る術を持たない彼女たちは、クロイツ派にとって格好の餌食だった。

 そうして数多くの魔女が、魔法使いが、聖女と呼ばれて崇められた女性たちが、彼らの犠牲になったのだ。

「何百年も前のこととはいえ、事件のあった場所だ。魔力のある人間はあの場に漂う残留思念に何かしら影響を受けるかもしれない。リーネは魔力があるみたいだから、興味本位で近づいてはいけないよ」

「わ、分かったわ。ありがとう、カインさん。絶対に近づかないわ」

 クロイツ派による魔女狩りが起こったのはもう五百年も前の話だ。その時はクロイツ派の考えや行動を危険視した各神殿同士が協力してクロイツ派を追いつめ、彼らの活動は鳴りをひそめた――かに見えた。

 ところが、クロイツ派による虐殺から何百年もたった今も、彼らの思想に感化される人間は後を絶たない。

 奇跡を否定するクロイツ派は、魔法使いやギフト持ちが多く生まれるロウワンにとって天敵とも呼べる存在だ。

 ――あぶない、あぶない。夜の神を祀った神殿跡というだけだったら、足を運んでいたかもしれないわ。

 腕をさすっていると、カインの口元に申し訳なさそうな笑みが浮かんだ。

「怖がらせてすまない。地元の人間もあそこへ近づかないくらいなんだが、たまに興味本位で向かう人間もいてね」

「いえ、教えてくれてありがとうございます、カインさん」

「女将が目を光らせているから大丈夫だとは思うが、もし『緑葉亭』であそこに行こうなんていう話をしている人がいたら、止めてやってほしい」

「まかせてください。必ず止めますから」

 ロイスリーネは胸をどんと叩いて請け合った。



 隠れ家のすぐ近くでカインと別れ、地下道をたどって離宮に向かう。

 暗くて狭い通路をランプ片手に歩きながら、ロイスリーネはカインから聞いた話を頭の中で思い返していた。

「クロイツ派か……」

 姉のリンダローネは過去に何度も誘拐されそうになっている。クロイツ派だけではなく「豊穣の聖女」を手に入れようと目論んだ組織や国にも。

 幸い本人は魔法が使えるため、誘拐は一度も成功しなかった。けれど、一歩間違えれば姉はどうなっていたことか。

 ギフトがもたらすものは、必ずしも幸せだけではない。奇跡の力を使える代わりに彼女たちはいつも危険に身を晒すことになる。

 そのため、神殿の保護を得て「聖女」となるギフト持ちは多い。ロイスリーネの母親やリンダローネのように「魔女」のままでいる方が稀なのだ。

 ――ギフト持ちの苦労も苦悩も、全部この目で見ているのに。

 ロイスリーネが誘拐されそうになったことはない。彼女がギフト持ちではないことは、広く知られているからだ。彼らにとってあくまで標的は奇跡の力――ギフトだ。

 ――それが分かっているのに、お母様やお姉様と同じようにギフトを持って生まれてきたかったと思ってしまう私は、どれだけ欲深いのかしら?

 期待外れの王女だと幼い頃から言われ続けてきたことは、どうやら思っていた以上にロイスリーネの心の傷となっていたらしい。

 そんなことをつらつら考えながら地下道を歩いていたからだろうか。離宮への螺旋階段を上がって隠し扉を開けたロイスリーネがたどり着いた場所は、いつもの部屋とまったく異なる風景だった。

「――――え?」

 建物に囲まれた小さな中庭。中央には小さめの噴水があり、地面は青々とした芝生で覆われている。

 中庭をぐるりと取り囲む回廊にロイスリーネは立っていた。回廊の柱には紋様が彫られ、壁には一面に鮮やかな色合いの装飾紋様が描かれている。その装飾にまぎれて壁の一部が隠し扉になっていたようだった。

「……どこかしら、ここは?」

 回廊に立ち尽くし、中庭を呆然と見やりながら、ロイスリーネはようやく自分が間違った道に入り込んでいたことに気づいた。

「全然別のところに出てしまったわ。ここは……王宮、かしら」

 地下道を進む方向自体は間違っていなかったので、おそらく王宮内で間違いないだろう。

 地下道や隠し扉が、王族の脱出時に利用するために作られたものであるのなら、王族がいる場所である可能性が高い。つまり、ジークハルトが普段過ごす本宮か、あるいは離宮の一つか。

 ――見覚えがない中庭だけど、本宮は無駄に広いから、私が知らない場所があってもおかしくない。何しろ私が本宮にいたのは最初の一ヶ月だけだもの。

 眉間にしわを寄せて考え込んでいたロイスリーネは、悠長に考えを巡らせている場合じゃないと我に返った。

 ――とにかく戻りましょう。幸い人はいなかったけれど、こんなところを見られたら大変だもの。

 そう思って隠し扉を振り返った直後、人のやってくる気配がしてロイスリーネは慌てて中に滑り込み、扉を閉めた。

 ――逃げ込むところ、見られなかったわよね?

 ドキドキしながら扉の内側で外の様子を窺っていると、回廊を歩く足音がどんどん近づいてくる。そのままロイスリーネのいる扉の前を通り過ぎると思われた瞬間、足音がピタリと止まった。

 心臓がギュッと縮まる。

 ……けれど、扉の外にいる人が足を止めたのは、もう一つの足音が近づいてきていたからのようだ。

「……お前か。首尾はどうだった?」

 扉越しに声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だった気がして、ロイスリーネはじっと耳をすます。その人物を思い出せれば、ここが本宮かどうか判断できると思ったからだ。

「申し訳ありません。どうやら今朝の作戦は失敗したようです」

 応じる声には聞き覚えがなかった。けれど口調から彼らが主従関係、もしくは上下関係であることはなんとなく分かる。

「そうか、暗示をかけて送り込むのもだめだったか……」

「ええ、離宮に張り巡らされた結界を超えられるのは、王妃に害意を持たない者だけですから。ならば暗示をかけて殺意を消せばと思ったのですが、どうやら魔法を帯びた者が結界を超えようとするのも警戒されているらしく、即刻王宮付きの魔法使いの連中が来て捕まったようです」

「忌々しい魔法使いたちめ」

 聞いたことのある声が舌打ちをする。けれど、ロイスリーネはすでに声の主が誰か探るために聞き耳を立てていたことを忘れていた。会話の内容に仰天したからだ。

 ――なに? 王妃って言った? 離宮とか王妃とかって、私の話よね?

「捕まった刺客はどうなった?」

「軍の連中が尋問しているようですが、ご安心を。いくら探っても我らのところまでたどり着くのは無理でしょう。暗示をかけたモグリの魔法使いはすでに始末しておりますし」

「そうか……不幸中の幸いだな。残念だが次の手を考えなければ。なんとしてでも王妃は殺さなければならん。主と我らの悲願のために!」

「はい」

「主には私から報告しておく。お前は次の手を考えろ」

「はは。承知いたしました。次こそは……」

 足音が去っていく。扉の内側で呆然と立ち尽くしていたロイスリーネはようやく我に返り、青ざめた。

 ――なんてことを聞いてしまったのかしら……。

 今の会話は間違いなく王妃――すなわちロイスリーネを殺そうとする計画だった。


 ――私、命を狙われているの……?


 それなりに平穏だった日常が、音を立てて崩れる音をロイスリーネは聞いた。

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