第3話 ペンギンは熱い

「今、無職なんだよ私」

「お仕事、辞めたんですか?」

「そ」


 数日前、私は退職した。人間関係に疲れたからだ。仕事は、できていた方だった。けれど、それ故に押し付けられたり、利用されたりと酷い扱いを受けた。

 これは、もうダメだ。

 体も心も疲弊した私は、本格的にグチャグチャになる前に逃げた。もっと頑張れるだろう、と自分自身で何度も思ったが限界だった。

 まだ新しい仕事は決まっていない。そんなときにペンギンから下宿屋を頼まれるとは……タイミングが悪い。


「こんな奴、頼りないから得しないよ」

「そんな……」


 ペンギンは困り顔。


「あー、大丈夫だよ。今日は泊めるから。明日になったら他の家を探して。お腹が空かないように、お弁当を作るし」

「……嫌ですっ!」


 ペチンッとテーブルを叩いてペンギンが反対した。私は目を丸くした。


「何で嫌なの? あなたなら下宿先、すぐに見つけられるでしょ。今日は……たまたま運が悪かったってだけで」

「本当に運が悪かったら、渚ちゃんと出会えていませんでした! お寿司も食べられませんでした!」


 まさかの言葉が飛び出したが、それでも私は冷静に返す。


「スーパーのパック寿司ぐらいで、恩を感じなくて良いよ。もっと裕福な人は、それより上質なものを食べさせてくれるんだから」

「渚ちゃん、どうしてそんなに自分を悪く言うんですか? 僕は渚ちゃんの優しさが何より嬉しかったんです! お寿司は美味でしたが、それは二の次です!」


 あ、熱い……。

 まあ情熱的だからこそ、ペンギンも人間以上の濃い恋愛を繰り広げられるのだろう。ライバルができたときの喧嘩はすごい。

 あとペンギンって結構浮気するんだよね。それを知って、一夫一婦制の一途なイメージを壊されたときはショックだった。


「僕、渚ちゃんと一緒にいたいんです!」


 あら嬉しい……。

 でもね。

 ここで私も口を開こうとしたけれど、まだまだペンギンは語り続ける。


「この家に入って、すぐにそう思いました! だって……」

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