第2話 ペンギンに質問する

 よく食べるねー、この子。

 箸は使えないから手掴みだけど、なかなか上品な食べ方をしている。

 胃もこんなに発達して、そりゃお寿司も受け付けるわけだ。

 ……とペンギンの進化に感心していた傍ら、ずっと私は気になっていることがあった。

 なぜ、この子は人間社会に来たのか。

 しかも行く宛もなく。

 とりあえず空腹は気の毒ということで、お寿司を食べ終えてから私は質問した。


「なぜ人間社会に来たの?」

「それは、この世界に憧れを抱いていたからです!」


 元気な返事を聞き、私はホッとした。もしや壮絶な理由じゃ……と少々不吉な予想もしていたからだ。


「憧れ……お寿司も?」

「はいっ!」

「でもさ、この暑い中よく歩けたね。疲れたでしょ」

「ああ、それに関しては大丈夫です」


 涼しく答える様子を見て思い出した。そうだ。屈強な体を手に入れて、戻ってきた脱走ペンギンがいたな。もしかしたらペンギンって、人間より逞しかったりして……。いや、それでも危険と隣り合わせなのはアウトだ。


「まあ、あなたが元気で良かったよ」

「ありがとうございます。しかし野津のづさんに」

「ああ、私のことはなぎさで良いよ」

「はいっ。僕は渚ちゃんに会わなかったら、一体どうなっていたことか……恐ろしい」

「ちょっと厳しく突っ込むよ。あなたは無計画で、この世界に飛び込んだってことだよね?」

「……そうです」

「ダメじゃん、危ないよ。どうして準備が不十分なままで来たの? 何が起こるかわからないのに」

「……かわいさで乗り切れると思っていました。ほとんどの人間は我々ペンギンが大好きです。それなら歩いていれば、人間の誰かに拾ってもらえる。甘く考えていました。ああ、情けない……」

「……」


 やっぱり逞しいわ、この子。

 心身共に。

 初対面の私にお寿司をお願いするし、かわいいって自覚しているし、すごい自信(と甘い考え)を持って人間社会に向かっていったのだから。


「でもっ!」


 お、元気な声が出た。

 もう上を向いてキラキラしているよ、この人……いやペンギンか。


「こうして渚ちゃんに拾ってもらいました。お願いしますっ、どうか僕をこの家に」

「あー、それはやめといた方が良いよ」

「えっ……」


 私の返事を聞いて、ペンギンの表情が曇った。


「私、ハズレくじだから。他に行きな。あなたには、もっと良い場所があるはずだよ」

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