ペンギンエボリューション

卯野ましろ

第1話 ペンギンと出会う

 買い物を済ませた帰り道、その光景に私は軽く衝撃を受けた。

 ペンギンがいる。

 一羽のペンギンがテディベアのように、ちょこんと公園のベンチに座っていた。何だか淋しそうだ。


「どうしたの?」


 私は公園に寄って、その子に話しかけてみた。




「おいし~」

「……」


 すごーい。

 ペンギンって本当に進化したんだ。

 私は今、スーパーで買ったお寿司をペンギンと共に食べている。




「お腹が空いて、行く宛がなくて困っているんです」


 ペンギンが途方にくれていた理由は、そういうことだった。しかし私は、それよりもペンギンが人間と話せることに驚いてしまった。


「じゃあ家に来なよ。ご飯、一緒に食べよう。あなた何が食べたい?」

「お寿司」


 おお……なかなか正直だな、この子。

 でも私もお寿司が好きだから、そのままスーパーに直行した。


「わぁ、ペンギンだっ!」

「すごいな、あのお姉さん……」

「もうペンギンと暮らしているんだ」


 ペンギンと歩く私は、すぐに注目の的となった。そりゃそうか。

 2020年夏。ペンギンは、より人間に近い生き物と化した。

 以前からペンギンは少しずつ進化していた。筋肉ムキムキになって戻ってきた脱走ペンギン。人間に恋する乙女ペンギン。他にもすごいペンギンたちが続出し、いつの間にか『ペンギンエボリューション』という言葉も生まれた。


「どれもおいしそうですね~」

「うん、そうだね」


 お寿司コーナーで悩むペンギンと私。今ではペンギンは人間の言葉が理解できるし、お寿司など人間の食べ物も味わえるようになった。


「良いな~。ペットにペンギン」

「オレも飼いたい……」


 けれど現在、ペンギンは完全に人間と同じ扱いを受けているわけではない。最近はペンギンを飼う人が増えてきたけれど、まだ本格的な人間社会への進出はしていない。




「ごちそうさまでした。おいしかったです。特に光り物」

「分かる。鯵とか鰯とか、おいしいよね」


 この子が光り物を好むのは、これまで生魚を食べてきたからだろうか。とにかくペンギンは満足そうだ。喜んでもらえて良かった。


「ところで、あなたさぁ」

「はい」

「なぜ人間社会に来たの?」

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