第74話 間に合わなかったorz
監禁部屋から逃げられたのはいいんだけど、船の中ってまるで迷路。
どっちへ行ったら外へ出られるんだろう?
階段を上ったら、なぜか船底へ出てしまったり、出口だと思ってハッチを開けたら誰かの私室で、男の人が着替えている真最中だったり。慌てて逃げ出したら、どこをどう走ったのかエンジンルームについてしまった。
「どうしよう。出口がわからないよ」
手のひらの上できょとんしているグッキーに言ってみたけど、この子がリアルみたいに喋るわけないよね。
それにしても、途中で何人か船員に出くわしたけど、誰もあたしを捕まえようとしない。
出航準備で忙しいのだと思うけど、これじゃあ逃げるときの邪魔になると思ってグッキーのケージを部屋に残してきた意味がなかったわ。
もしかすると、この船に捕虜がいるという事を船員すべてに知らせてないのかも……
だとすると逃げるなら今のうち。あたしが捕虜だと知っているのは、ポールとハミルトンと村上だけ。
あと、緑埜か。
とにかくあいつらにさえ見つからなければ……
「嬢ちゃん。そこで何をしている?」
あかん。一番見つかりたくない奴に見つかっちゃった。
エンジンルームの出入り口に緑埜がいた。
「逃げ出してきたのか。悪い子だな」
「こ……来ないで!!」
「そうはいかないな。悪い子はお仕置きしないと」
緑埜はゆっくりと歩み寄ってくる。
あたしは周囲を見回した。
「無駄だよ。この部屋に他に出口はない」
「近づいたら人を呼ぶわよ。シーガーディアンてセクハラには厳しいんじゃなかったの?」
「そうだけどね、この船の奴らは日本語がわからないから君が何を言ったって無駄だよ」
こうなったら。
「きゃああああ!!」
ありたっけの声を張り上げた。
悲鳴は万国共通語。日本語がわからない人でもこれなら来てくれる。
「よせ!! やめろ!!」
緑埜があたしを押さえつけて黙らせようとする。
て!? ヤダ!! こいつ胸に触っている!!
「モガモガ」
叫ぼうにも口を抑えられて声が出ない。
あたしは床に腹ばいに押さえつけられた。
「僕がキモイかい? いや、答えなくていいよ。女はみんなそう言うんだから」
あたし言ってない!!
思ったけど、言ってないよお!!
緑埜はあたしの背中に乗ってきた。重い!!
「僕は何も悪いことしてないのに、なんで女の子はいつも僕を避けるんだ」
してる!! 今、あたしに悪い事してる!!
「僕はただ女の子と仲良くしたいだけなのに」
そういう性格だから嫌われるのよ!!
ひ!! こいつ、あたしのGパンを下ろそうとしている。やめてえ!!
「モガモガ」
「悪い子は、お尻ぺんぺんしないと……ウギャー!!」
どうしたんだろう?
あ! グッキーが緑埜の手に噛み付いている。
「ホワット?」
中年の女の人が入り口から顔を出した。
しめた!! 口を抑えられていた手が緩んだ。
「ヘルプミー!! ヘルプミー!!」
「君!! 英語はわからなかったんじゃ!!」
「いくらなんでも、このぐらいは分かるわよ」
あたしの叫びを聞いた女の人は怒りの形相で緑埜に向かってくる。
「ノーノー!!」
緑埜は必死で言い訳しているけど、少女の上に馬乗りになってGパンを下ろそうとしている状況を見れば、誰がどう見たって変態男が少女に悪戯をしようとしている現場以外のなにものでもない。
問答無用で女の人は緑埜をぶん殴った。さらに、悲鳴を聞きつけた他の船員達も加わって緑埜はたこ殴り状態に。
その隙にあたしは逃げ出した。
その後は、どこをどう通ったのかわからないけど何とか甲板に出られた。
それはいいけど……
間に合わなかった。
船はすでに出航している。
あたしはしばしの間、呆然と立ち尽くし、お台場の灯りを見つめていた。ポケットに隠れていたグッキーが這いだしてきてあたしの肩によじ登ってくる。
「グッキー。間に合わなかったよ」
馬鹿だった。今朝、グッキーを連れて逃げてれば、こんなことにならなかったのに……
「助けて、リアル。糸魚川君、星野さん」
どのくらいこうしていたのだろう? 数分だったかもしれないし、数時間だったかも。
不意に肩を掴まれ、あたしは我に返った。振り向こうとして、口を手でふさがれる。
「声を出さないで。私よ」
博士?
「奴らに見つからないようについてきて」
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