第73話 ひまわりの種
(瑠璃華視点)
「作戦は上手くいったわ。シーガーディアンのボートはすべて転覆して、乗員は救助したのち逮捕。さらに、ポール・ニクソン本人がシャチを狙撃しようとした映像をネットに流した。映像を見た人達はシーガーディアンを偽善者と罵り、支援者の大半は離れていったわ」
「じゃあ、なんでリアルが処分されなきゃならないんです?」
「私が甘かったのね。正直、リアルやトロンの正体が露見しても、問題はないと思っていたわ。でも、シーガーディアンの奴らがインターネットにリアルやトロン、サムの目撃情報を書き込んだの。それを見た世界中の人達から非難の声が殺到したのよ。『日本政府は猫や猿や鷹に非人道的な改造手術を施して兵器として使用している』と」
「ええ!? 兵器?」
「それを見た柳川総理はすっかり怖じ気付いて『動物部隊など存在しない。シーガーディアンのデマだ』と世界中に発表してしまったのよ。発表した以上、事実でなきゃならないという事で動物部隊の処分を命じたの」
「じゃあ、総理は自分の嘘を隠すためにリアル達を殺す命令を出したの?」
「そうよ」
「ひどい」
「でもね、糸魚川もその事を予想していたのよ。だから、予め動物達を逃がす手はずをしておいてくれたの。もっとも、総理のお庭番とも言うべき内調が、表立ってそんな事をするわけにはいかないわ。だから『捕まえようとしたけど、逃げられました』と総理に報告しておいたのね」
なるほど。内調内部の人間がやったって聞いていたけど、まさか室長自らやっていたなんて。これじゃあ、ばれるわけないよね。
「でも、それじゃあ、なんで博士は」
あたしはハミルトンを指差した。
「こんなのと手を組むんです?」
「こ……こんなのって……」
こんなの呼ばわりされて、ハミルトンはちょっと傷ついたみたい。
まあ、この人は拉致には元々反対していたんだし、あんまし邪険にするのは可哀そうかな。
「リアルを守るためよ。総理の嘘が露見してしまえば、もうリアルを殺す必要がなくなるわ。その結果、政権が倒れたとしても私の知ったことではない。でも、私の口からそれを話せば、科研の人達や糸魚川にも迷惑がかかる。だからシーガーディアンに情報をリークして彼らの手で発表させようと考えたのよ」
「じゃあ、なんでこの人達はリアルを追い回すんです?」
「公表するにあたって、知性化動物の実物を見せろと彼らは要求したのよ。大使館の周囲が見張られているので、トロンやサムを連れ出すのは危険。だから、行方不明になっているリアルを彼らに捜してもらったの。でも、こんな乱暴な事するなら頼まなかったわ」
ビー!! ビー!! ビー!!
突然、大きな音が鳴り響いた。
博士がハミルトンの方を向く。
「この音はなに?」
「出航の合図です」
「まだ、この子を解放していないのよ」
「そう言われても」
「ブリッジへ案内して。この子を解放するように掛けあってくるわ」
二人が部屋から出ていく。
チャリン!!
博士が出ていく時、何かが床に落ちる音が聞こえた。何だろう? 床の上に何か小さなものが……鍵!? 博士、あたしを逃がすために落としていってくれたの?
とにかく、せっかくのチャンス。
あたしは鉄格子の隙間から手を伸ばした。
ううん、とどかない。
手がダメなら足を……あかん!!
太ももが引っ掛かった。
さて、どうしよう?
あれ? 鍵に何かがセロテープで張り付けてある。あれって、もしかして……
あたしはケージからグッキーを掴みだした。
「グッキーお願い。あれを取って来て」
リードを握りしめて、グッキーを外に放す。
最初、グッキーはキョトンとした顔で何度もあたしの方へ戻ろうとした。
しばらくして、鍵に気がついて走り出す。
正確には鍵に貼り付いてるひまわりの種に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます