第57話 剥がれた覆面から現れたその顔は!?

「おい、瑠璃華。約束しただろ」

「リアルが喋れる事を知らなかったふりをする約束はしたけど、大人しく手放すなんて約束はしていない」

「よせ。瑠璃華」

「嬢ちゃん。隙を見て逃げ出そうなんて考えても無駄だぞ。この家は俺達の仲間が包囲している。猫の子一匹逃がさないぜ。おっと……そいつは猫だったな」

「いや!! リアルは渡さない!!」

「そうかい。じゃあ痛い目を見てもらうか。俺は女の子だからって手加減はしないぜ」


 あたしは恐怖のあまり身体が硬直した。

 でも、リアルを渡すなんて死んでもいや。

 男があたしに向かって一歩踏み出す。


「おい、村井。女の子にあんまり手荒な事は……」


 ハミルトンは顔を押さえながら男に声をかける。この男、村井って言うんだ。

 村井は立ち止まりハミルトンを睨む。


「俺のやり方に口を挟むな……む!!」


 不意に村井は後ろを振り向いた。

 庭に面した大きな窓をにらみつける。

 突然、窓ガラスが粉々に砕け散り、人が飛び込んできた。

 カーキ色のボディスーツに覆面をかぶり、忍者刀を構えている。


 昨日の忍者!?


 カキン!!


 金属と金属がぶつかり合う音が響く。

 忍者の刀と村井のサバイバルナイフがぶつかり合う音だった。


「テメエ!! 何者!?」


 村井の問いに忍者は無言で刃をふるう。

 どういう事? どっちも内調なのに。

 両者は数合渡り合った。

 不意に村井のナイフが折れる。

 だが、村井は折れたナイフの刃先をつかみ、忍者に切りかかった。

 同時に忍者も刀を村井の首筋に振り下ろす。

 血は出なかったけど、村井はそのままゆっくりと床に倒れた。


「あわわわ」


 床にへたり込んでいたハミルトンが蒼白になる。


「安心しろ。峰打ちだ」


 峰打ちって……本当にあったんだ。


 あれ?


 忍者の覆面がはがれかかっている。

 さっき、村井に切りつけられた時に裂けたんだ。


「大丈夫か? 怪我はないか?」


 忍者があたしの方を振り向いたそのとき、はがれかかっていた覆面が落ちた。


 その下から現れた顔は!!


「糸魚川君!!」


 大きなメガネはないけど、その顔は間違えなく糸魚川君だった。

 そんな!? 糸魚川君が内調だったなんて。


「え?」


 糸魚川君は慌てて顔に手をやった。

 覆面がはがれた事に、今気がついたんだ。


「美樹本さん。逃げるんだ。リアルを連れて」

「え?」


 あっという間なく、あたしはリアルを抱いたまま糸魚川君に手を引かれ家の外へかけだしていた。

 門柱のところまで来たとき、三人の男があたし達につかみかかってくる。

 だけど、糸魚川君は目にもとまらぬ動きで、三人の男達を打ち倒した。

 アスファルトの上で呻いている男達に向かって糸魚川君は言う。


「父さんに伝えてくれ。僕は国を敵に回しても、美樹本さんとリアルを守る」


 国を敵に? 

 糸魚川君、内調を裏切るって言うの? 

 あたし達のために。

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