第56話 「あなた、誰なの?」

「おおい!! 瑠璃華。猫はまだか!?」


 階下からパパの声が聞こえる。 

 どうしよう? 

 パパにこっそり事情をしらせて何とか逃がせられないかな。

 不意にメールの着信音が鳴った。

 このメールは!?


 あたしはリアルを抱いて階段を下り、リビングに入った。

 長椅子に腰かけていた二人が振り向く。


「遅かったじゃないか。瑠璃華。何をしていた?」

「メールが来たのよ。熊本から」

「熊本?」

「熊本で仕事中のパパから」


 あたしはパパを……いや、パパそっくりの男を睨みつける。


「あなた、誰なの?」


 ハミルトンの顔がひきつった。

 しかし、パパに化けた男の顔は、まったく動揺が見られない。

 感情を隠しているんじゃない。感情を表現できないのだ。作り物の顔だから。


「お嬢さん」


 ハミルトンは苦笑を浮かべた。


「ばれてしまっては仕方ない。女の子に手荒なまねをしたくないので、こういう手を使ったのです。おとなしく、その猫を渡してもらえませんか。そうすれば危害は加えません」

「わかったわ」


 あたしは、リアルを男達に差し出した。


「受け取って」


 あたしは、リアルを放り投げた。天井に向けて。

 予想外の行動に男達は対応が遅れる。

 リアルは、天井を蹴ってハミルトンに襲いかかった。


「おわ!!」


 ハミルトンは、顔を引っかかれて蹲る。

 次に、リアルはパパに化けている男に飛びかかった。


「ギャン!!」


 え? リアルが払いとばされた。

 壁にぶつかりそうなリアルを、あたしは飛びついてキャッチ。


「よくも、リアルを!!」


 あたしは催涙スプレーを男に向けた。


 ガツ!!


 え? 男は一瞬にして間合い詰め、あたしの手からスプレー缶を蹴り飛ばした。


 うそ!!


「おてんばが過ぎるぜ。嬢ちゃん」


 男は低い声で言うと、自分の首に手を当てた。何か、スイッチを切るような音がしたとたんにパパの顔にノイズが走る。テレビの画面が消えるようにパパの顔が消え、代わりに日焼けした精悍な顔つきの男が現れた。


「な……何よ、あんた? 魔法使い!?」

「落ち着け、瑠璃華」


 あたしの腕の中でリアルが苦しそうに言う。


「あれは立体映像ホログラムを使った変装用具だ」

「え?」

「ほう」


 男は感心したような顔で、あたしの腕の中でぐったりしているリアルに視線を向けた。


「猫のくせに物知りだな。ホロマスクを知っているとは」

「知っているさ。すごく高価でCIAでも数台しかないって聞いてるぞ。よくそんな予算がおりたな」

「入手経路は教えてやらん。それより猫よ。嬢ちゃんに怪我をさせたくなかったら、大人しく俺達についてこい」

「瑠璃華には絶対に手を出さないか?」

「ああ。約束する」

「わかった。瑠璃華、俺をおろせ」

「いや」


 あたしはリアルをぎゅっと抱きしめた。

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