第55話 リアルの元飼い主?

 ドアを開いた。


「パパ! どうしたの?」

「予定が変わって、早く帰って来たんだ」

「でも、車はどうしたの?」


 ガレージには車が無かった。


「酒を飲んでしまったので車は置いてきた。ところで猫は元気か?」

「うん。元気だよ」

「実は客を連れてきたんだが」

「客?」

「猫の飼い主だというんだが」

「ええ!! 猫って……リアルの事?」

「家に他にも猫がいるのか?」


 だって、リアルは……そうだ。パパはリアルが内調から逃げ出したという事を知らないんだ。

 じゃあ、飼い主というのは?

 パパの背後から、一人の外人が入ってきた。

 三十代ぐらいの身なりの良い白人男性。


「初めまして。お嬢さん。ジョージ・ハミルトンと申します」


 よかった。日本語は通じるみたい。


「一ヶ月前、僕の猫、車の窓から飛び出して行方不明です。ずっと探してました」

「話を聞いて見ると、瑠璃華が拾った猫と特徴が似ているんだ」

「違うと思います。リアルはハミルトンさんの猫じゃありません」


 あたしは断言した。


「瑠璃華。なぜそう言い切れる?」

「それは……とにかく違うんです」

「お嬢さん。とにかく、猫を見せていただけませんか? その上で判断します」


 あたしは二人を階下に残して二階の部屋へ向かった。

 絶対に違う。リアルは内調から逃げ出してきたのよ。ハミルトンさんの猫のはずが……


 まさか? 


 あの人、実は内調のエージェント?

 だとすると、逃げる準備をした方がいいかな?

 あと、武器の準備も。武器と言っても、痴漢よけの催涙スプレーしかないけど、ないよりマシか。

 あたしが部屋に入ると、リアルはグッキーとじゃれあっていた。


「リアル。あんたの飼い主だという人が来ている」

「にゃ? 飼い主? まさか」

「たぶん、勘違いだと思うけど」


 あたしは机の引き出しを開け、催涙スプレーを取り出してポケットに忍ばせた。


「おい、そんなもんどうするんだ?」

「もしかすると内調かも」


 リアルはパッと窓に飛びついて外の様子を窺った。


「やられた。囲まれてる」

「え?」


 あたしも窓の外を見た。でも、人がいるように見えないけど。


「茂みの陰、塀の向こう、外に止まっている車の中に隠れている奴らがいる」

「どうしてわかるの?」

「姿は見えないけど、気配でわかる」

「リアル。窓から逃げて」

「窓から飛び出したところを、ネットランチャーで狙われたらひとたまりもない」

「ネットランチャーって何?」

「この前、俺達が学校帰りに襲われただろう。あの時、網を打ち出す装置を使った奴がいたのを覚えているか?」

「うん」

「あの装置をネットランチャーって言うんだ。学校でも防犯用具として用意しているぞ」

「そういえば、あのとき糸魚川君も『ネットランチャー』とか言ってた」

「癪だけど、あの時あいつに助けてもらわなかったら俺はネットをよけられなかった」

「え? あの時、糸魚川君が何かしたの?」

「気がつかなかったのか? 糸魚川は男にぶつかりながら、ネットランチャーの向きをそらしていたんだ」

「ええ!? あたしはてっきり、あの時は何も考えないでぶつかっていったのかと」

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