第39話 これでクラスは平和になったって事かな?

「あれ?」


 不意に糸魚川君は怪訝な表情になった。


「美樹本さん。あれって」

「え?」


 糸魚川君の指さす先に視線は向けた。

 指先をたどった本棚の上に……


「リアル!!」

「にゃあああ」


 リアルはこっちをじっと見下ろしていた。


「何やってるの!! 降りてきなさい」

「にゃあ」


 リアルは飛び降りてきた。

 糸魚川君の頭上に……


「うわわ!!」


 たまらず、糸魚川君は尻餅をつく。


「大丈夫!?」


 あたしは慌てて駆け寄って、糸魚川君を助け起こす。


「ありがとう。なんともないよ」


 あれ? 糸魚川君てこんな精悍な顔つきだったかな?

 そうか! メガネを外すとカワメンからイケメンにチェンジ……え!? メガネ……


「糸魚川くんメガネは?」

「え?」


 顔に手をやって初めてメガネが無いことに気がついたみたい。

 大変、割れてたらどうしよう。


「にゃあ」 


 見るとリアルがメガネをくわえていた。


「リアル!!」


 あたしはリアルがくわえているメガネを奪い取り、糸魚川君の顔にかけてあげた。


「ありがとう。これがないと何にも見えなくて」


 メガネがない方がイケメンなのに残念ね。

 でも、これってメガネフェチにドストライクかも……


「ううん。リアルが悪いんだから」


 あたしはリアルを抱き上げて……


「糸魚川君に謝りなさい」

「にゃん」


 リアルは明後日の方を見て知らんふりしてる。


「無理だよ。猫に人間の言葉なんか」


 いや、普通はそうなんだけど、この子はわからないふりしてるだけだから……

 それにしても、リアルったらなんで糸魚川君に意地悪するんだろ?


「にゃあ!! にゃあ!!」


 何か言いたそうだけど……


「リアルって、その猫の名前?」


 あたしは糸魚川君にふり向く。


「そうよ」

「君が付けた名前?」

「そうじゃなくて、首輪に書いてあったの?」

「首輪に? じゃあその猫は拾ったの?」

「そうなの。実は迷い猫なのよ」

「じゃあ元の飼い主が探しているんじゃないかな?」

「そうなんだけど……」


 実際、国家予算を使って探しているはず。


「ひょっとして、美樹本さんは返したくないの?」

「うん。もうこの子はあたしの家族だから」

「そうなんだ」


 糸魚川君はリアルを撫でようと手を伸ばした。


「にゃあ!!」


 突然、リアルはあたしの手の中で暴れ出した。


「あれ? 僕は嫌われてるのかな」

「そうじゃなくて、この子、トイレ行きたいみたい。ちょっと行ってくるね」

「どうぞ」


 あたしは図書室を出て一番近いトイレに駆け込んだ。


「リアルったらどういうつもりよ? 糸魚川君に恨みでもあるの?」

「別に。瑠璃華こそ、こんなところで男と二人っきりで何をしていたんだよ?」

「なによ。ヤキモチ」

「そんなんじゃない!! 瑠璃華と話がしたかったのに、あいつが邪魔だったから……」

「はいはい。で、なにが言いたいの?」

「校長室にいたおかげでわかったよ。石動が処分されなかった理由が」

「ええ!?」

「担任の黒沢が、あの映像を合成だと言って校長に報告していた」

「黒沢先生が?」

「さっき、黒沢が校長室に入ってきて、あの動画が投稿された事を報告したんだ。ただし、あれは合成画像で石動は被害者だとね」

「合成なわけないでしょ。真実よ」

「だからさ、黒沢が校長室出るときに俺も一緒に出たんだよ。そしたらあいつ、人気の無いところへいって電話をかけたんだ。電話の相手に『例の動画は合成だと校長に納得させました』と言ってた」

「誰に?」

「おそらく、石動の親だな」

「どういう事?」

「石動の親に買収されたってところだろ」

「そんな、あんな真面目な先生が……」

「人間を一面だけで見ない方がいいぞ。真面目そうに見える人間だって、裏で何やってるかわかったもんじゃない」

「確かにそうだけど……」


 ううん、こうなったら何か別の手を考えないと。

 外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 何かあったのかな?


「それとな、さっきお前らの話聞いてて思ったんだが……」

「なに?」

「この前、俺達あいつに助けられただろう。あの時、妙な違和感を覚えたんだが、ようやくそれが何かわかった」

「どういう事?」

「俺を襲った奴ら、パトカーのサイレンを聞いて逃げたろう」

「それが何か?」

「内調なら、逃げ出す必要はないんだ」

「ええ!?」

「内調なら、警察の上の方から圧力をかけられるからな」

「ええ!? 内調ってそんな力があるの? じゃあ、逃げたって事は内調じゃないの?」

「内調から依頼された外部組織という可能性もあるが、別組織と考えるのが自然だ」

「でも、内調以外にリアルを狙う組織なんてあるの?」

「わからん。まったく心当たりがない」


 なんかややっこしくなってきたわね。

 図書室に戻ると、糸魚川君は、窓から外の様子を見ていた。

 あたしが戻ってきたことに気が付いて振り返る。


「美樹本さん。教室へ戻ろう」

「え?」

「もう、逃げる必要はないよ」

「どうして?」

「あれ、石動だろ」


 糸魚川君は窓の外を指さす。

 見るとそこには警察に連行されていく石動の姿があった。


「なんで?」


 教室に戻ってわかったのだけど、どうやらカツアゲされた一年生の親が恐喝罪で石動を告訴していたらしい。

 よくわからないけど、これでクラスは平和になったって事かな。 

 ただ、一つ妙なことが。

 あの後、黒沢先生が遅れて学校にきた。なんでも、バイクがパンクして修理して遅れたそうだけど、じゃあリアルが見た先生は?

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