第25話 それ猫にとってセクハラだって

「虐待されていた?」


 消毒液を念入りに手に吹き付けながら星野さんがそう言ったのは、体育館横の水道付近での事。

 とにかく、いい機会だから星野さんにリアルと考えた作り話をしたのだ。


「つまり、星野さんにメールを送ったのは、あたしのおじなんです」

「なんてひどい」


 星野さんはふいにリアルを抱きしめた。


「にゃにゃにゃ!!」


 リアルは嫌がって暴れる。

 ごめん。リアル。少し我慢して。


「こんな可愛いリアルちゃんを虐待するなんて。人間のやる事じゃないわ」


 おじさん。ごめん。


「すぐに警察に」

「それだけはやめて!!」


 スマホを取りだした星野さんを、あたしは慌てて止めた。


「なぜ、止めるの? 動物虐待は犯罪なのよ」

「でも……あたしにとって大事なおじさんだから」

「でも、このままだとまた別の猫が犠牲に」

「そんな事あたしがさせない」


 いや、元々おじさんはそんな事しないんだけどね。


「美樹本さん」

「お願い。警察だけは呼ばないで」


 星野さんはじっとあたしを見つめた。


「わかったわ。美樹本さんがそこまで言うなら」

「ありがとう。星野さん」

「ところでそのおじさんて、母方の人?」

「え?」


 確かに、おじさんはママの弟だけど、なんで星野さんがその事を……


「なんで知ってるの?」

「だって、メールの差しだし人の名前が美樹本じゃなかったから、そう思ったんだけど」

「ああ、そうか」


 アブない!! アブない!! うっかりその事を忘れていた。


「それでね、星野さん。お願いなんだけど」

「何かしら?」

「その人に……おじさんに『この町に該当する猫はいませんでした』て伝えてほしいの」

「まかせて。誰がそんな虐待野郎にリアルちゃんの居場所を教えるものですか」

「ありがとう。星野さん」


 良かった。これで目的は達成ね。


「安心してね。リアルちゃん」


 星野さんはリアルにほおずりする。


「にゃあにゃあ」


 星野さん、それ猫にとってセクハラだって。


「おねいさんがリアルちゃんを守ってあげる」

「にゃあ!!」

「そのかわり。にへへへ」


 うわわわ!! 星野さんの顔が変質者に。


「もふもふさせて」


 リアル。耐えるのよ。

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