第26話 黒猫が狙われている

「にゃあああ!!」


 リアルは目で『助けて』と言っている。

 でも、こればかりは……そうだ!!


「あの星野さん」

「何なの? 私は今、リアルちゃんと、もふもふするのに忙しいんだけど」

「でも、猫の毛を付けたらまずかったんじゃ?」


 星野さんはハッと我に返った。


「そうだったわ!! つい理性を失ってしまった。これじゃあ家に帰れないわ」


 星野さんはやっとリアルを解放してくれた。


「そうそう。美樹本さん。言い忘れてたけど」

「なに?」


 あたしはリアルを抱きあげた。


「ここ数日、市内で猫が誘拐される事件が多発しているの」

「ええ!?」

「ネットの情報だけどね。家猫だろうと野良猫だろうとお構いなしに。飼い主の目の前で突然車に連れ込まれるなんて事もあったそうよ。それも黒猫ばかり」


 黒猫ばかりが?

 まさか? 内調がリアルを探している?


「わかったわ。ありがとう。教えてくれて」

「もっとも、誘拐された猫はすぐに解放されているけどね」


 やっぱり。リアルじゃないとわかったから、解放されたんだ。


「きっと犯人は、猫を追いまわしてばかりいる変態よ」


 それは、あんただろう。


「ところで、星野さん。リアルの毛どうする? 取るの手伝おうか?」

「大丈夫。ジャージに着替えて帰るから。制服もコインランドリーで洗っていくわ」

「大変ね。家族が猫アレルギーなんて」

「まったく。どうせなら母も弟も凄く嫌な奴だったら良かったのに」

「え? どうして」

「嫌な家族だったら、むしろ猫の毛を持ち帰って苦しめてやるところだけど」


 いや、それはやっちゃだめでしょ。


「でも、母はとても優しいし、弟はとても可愛いの。これ見て」


 星野さんがスマホをあたしに見せる。

 小学校低学年ぐらいの男の子が、猫の着ぐるみを着ている写真が写っていた。


「弟よ。可愛いでしょ」


 可愛い……でも、この子泣きそうな顔をしているのはなぜ? 

 てか、なぜ猫の着ぐるみ?

 いや、なんとなく理由がわかってしまうが。


「家で猫を飼えない代わりに、弟に猫の格好をさせてもふもふしているのよ」


 やっばり……なんか弟さんが可哀想。


「となると明日から予備の制服を用意しなきゃね」


 え? 明日から? どういうことだ?


「美樹本さん。明日からもリアルちゃん連れてきてね」

「ええ!? 無理!! 無理!!」

「どうして?」

「どうしてって、先生が許すわけないでしょ」

「そうか」


 何考えてんだこの人は……


「じゃあ先生に頼んでこよう」


 どうぞどうぞ。どうせ先生がそんな事許可する訳ないし。

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