第19話 これでも演技には自信があるのよ
リアルは元の飼い主から虐待されていた。
見かねたあたしが、リアルを救い出して匿まっている。
というのが、リアルの考え出した筋書きだった。
猫をこよなく愛するまたたびさん……星野さんがそれを聞いたら、きっとリアルを匿うのに協力してくれると思う。
問題は、どうしてリアルが虐待されていた事にあたしが気付いたのか。
まさか、リアルが自分で喋ったというわけにはいかない。
あれからネットで猫虐待の実例を調べたけど、虐待犯はたいてい密室でやってる。
つまり、見ず知らずの人の家で起きている事にあたしが気づくなんてありえない。
そこで、あたしの親戚のおじさんがリアルを虐待していて、あたしがたまたまおじさんの家に行った時に、虐待に気が付いてリアルを連れ出したという事にした。
おじさんには申し訳ないけど。
「おじさんは、いつもは優しい人なの。お年玉もいっぱいくれるし、チョコパフェもおごってくれるし。まさか、こんな酷いことをしていたなんて」
「カット」
あたしの机の上でリアルが映画監督のように言った。
「瑠璃華。セリフ棒読みだよ」
「ちょ……ちょっと緊張しただけよ」
「さっきもそう言ってた」
「あたし……これでも演技には自信があるのよ」
「根拠は?」
「小学校の学芸会で『この役ができるのは君にしかいない』って、みんなから頼りにされてたんだから」
「何の役?」
「樫の木」
「……」
ああ!! なによ、その可哀想な人を見るような目は。
「動きのある役だってやったわよ」
「どんな?」
「『大きなカブ』のカブの役。最後にみんなに引っぱられて、地面から飛び出すように抜けるという大役よ」
「どっちも植物かよ。セリフないし」
「セリフならあったよ。カブが抜けるとき『キャー!!』て叫ぶセリフが」
「なんなんだ!? そのマンドラゴラみたいなコワいカブは」
こんな調子で綿密な? 打ち合わせをしているうちに日曜日は終わった。
後は学校で、星野さんにこの事を話して信じてもらうだけ。
ただ、問題は……あたしは学校で星野さんと親しく話をしたことがない。
彼女の周囲には優等生グループがいて、声をかけづらいのだ。
どうやって話しかければいいかな?
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