第13話 「日本にもスパイ組織ってあるの?」
トントン
「どうぞ」
扉を開くと、パパの仕事部屋からは、かすかに現像液の匂いが漂ってきた。
家の地下にあるこの部屋が暗室だった時のなごりだ。
あたしは部屋の中に顔だけ覗かせる。
「入っていい?」
「用があるから、ノックしたんだろう。早く入りなさい」
あたしは部屋に入りそっとドアを閉めた。
「大丈夫だ。この部屋にはもうお前がこぼすような現像液はない」
「う」
子供のころ、真君とかくれんぼしててこの部屋に入り、現像液のポリ容器ひっくり返してしまった事があった。
そのあと、こっぴどく怒られ、以来あたしはこの部屋には立ち入り禁止処分。
だから、この部屋に入るのはすごく久しぶりなわけだ。
久しぶりに入った部屋はすっかり変わっていた。
パットとか引き伸ばし機とか現像用具は姿を消して、パソコンやプリンター、スキャナー、その他なんなのかわからない機械が並んでいた。
壁にはパパが世界中で撮ってきた写真が額に入れて飾ってある。
「どうしたんだ? ここに来るなんて珍しいな」
「あのさ、パソコン貸してほしいんだけど……」
ちらっとモニターを見ると、南氷洋で撮った写真が映っていた。
「無理だよね」
「無理だな。今夜中にこの写真を整理しなきゃならないんだ」
「だよね」
「どうした? パソコンならお前の部屋にあるだろ」
「それがさ……あの猫がキーボードの上で眠りこんじゃって」
たぶん、寝ている間にあたしがパソコンで変な事しないようにと考えたんだろうな。
「ちょっと調べ物しよう思ったんだけど」
「何を調べたいんだ?」
「あのさあ、日本にもスパイ組織ってあるの?」
「スパイ組織? そりゃああるさ」
「あるの?」
「公安て聞いたことあるだろ」
「うん。ニュースで良く聞く」
「あれは公安調査庁と言って、一種の防諜機関だ」
「ふうん」
「陸上自衛隊も情報部を持ってる」
「そうなんだ」
「そして日本のスパイのトップと言ったらやはり内調だな」
「ないちょう?」
「正確には内閣情報調査室」
「それってどんな組織?」
「どうって? CIAとかMI6とかモサドとか映画でよく見るだろ。あんな感じだ」
ううん。そりゃあ映画では見た事あるけど、あれは脚色されてるわけだし……
「内閣って事は総理大臣と関係あるの?」
「あるも、なにも総理大臣直属の機関さ」
総理大臣直属?
そういえば、リアルは総理が交代すれば帰れるって言ってた。
この組織の事なんだ。
「ねえ。内調って暗殺とかもやるの?」
「暗殺?」
「ほら、日本にとって都合の悪い事を知ってしまった人を消すとか」
「さあな。しかし、諜報機関ならそのくらいやるだろうな。誰にもばれないように」
「ばれないように? どうやって?」
「例えば自殺に見せかけて殺すとか。あるいはスイス銀行に口座を持っているスナイパー
に依頼するとか」
じゃあ、リアルの事を知ってしまったあたしも……
大丈夫よ。
街中にまぎれた猫を探し出すなんてできるわけない。
たとえジェームズ・ボンドだろうと、イーサン・ハントだろうと……
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