第14話 家の前に変な奴がいるんだよ

「瑠璃華。瑠璃華」


 誰? 暗闇の中で、あたしを呼ぶのは……


「瑠璃華。俺だよ」


 その声は?


 真君?


 暗闇が突然明かりに包まれた。

 あたしの目の前に現れたのは、爽やかな笑顔の背の高い少年。


「真君!? やっぱり生きてたのね」

「瑠璃華」


 あたしは真君に抱きついた。

 もう放さない。放したくない。

 ん? 真君ってこんなに毛深かったっけ?

 あれ? 真君の姿が薄れて消えていく。

 目を開けるとそこは見慣れたあたしの部屋。あたしはベッドで布団にくるまれていた。

 なんだ夢か。

 しかし、真君を抱きしめている感触がまだ残ってるのはなぜ?

 布団をまくるとあたしが抱きしめていたのは……

 なに? この黒い毛の塊は……


「にゃあにゃあにゃあ」


 黒猫? なあんだリアルか。


「にゃあにゃあ。瑠璃華。いい加減放せよ」

「リアル。だめじゃない乙女のベッドに潜り込むなんて」

「おまえが引きずり込んだんだろうが」

「え?」

「起こしに来た俺を、おまえがむりやり引きずり込んだんだよ」

「そうなんだ。ところで、今何時?」

「午前六時」

「おやすみなさい」

「寝直すな!! てか、俺を放せよ」

「だってリアル抱いてると暖かいんだもん」

「とにかく、起きろよ」

「今日は日曜よ」

「家の前に変な奴がいるんだよ」

「え? 変な奴?」


 喋る猫というこれ以上ないくらい変な奴から「変な奴」呼ばわりされるって、どんな奴?

 あたしはカーテンを少しだけめくり、外の様子をうかがった。

 あたりはまだうす暗い。

 住宅街を通るせまい道路に人影はなかった。


「誰もいないよ」

「ここからじゃ見えないよ。曲がり角の向こうにいるんだ」

「やっぱり。リアルの言う追っ手なの?」


 リアルが家へ来て早三日。

 もう、ここを嗅ぎつけたのだろうか?


「まだ、わからない。ただの変質者かもしれないし」

「いや、それはそれで怖いけど。まあ、内調じゃないなら家の中にいれば安全ね」

「そうだな。内調じゃないなら迂闊に外に出ない方が……え? 内調」


 リアルは驚いたような顔であたしを見る。


「やっぱりそうなんだ」

「え?」

「こんな事やるのって内閣情報調査室かなって思ってかまかけてみたのよ」

「おまえなあ、なんでそんな事……」

「教えてくれないリアルが悪い」

「あのなあ、俺は瑠璃華を危険にさらしたくないから、なるべくよけい事は……」

「何か動いた」

「え?」


 一瞬だったけど、曲がり角から人の姿が見えた。

 雨合羽のような物を着てフードをすっぽり被っていたので、顔はわからなかったけど確かに怪しい。

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