第6話 捕鯨船船橋にて

「なんだこれは?」


 フリーカメラマンの美樹本みきもと光一こういちが思わず声を上げたのは捕鯨船の船橋ブリッジでのこと。

 迫りくる環境テロリスト達の様子を撮影しているときだった。


「どうしました? 美樹本さん」


 美樹本はカメラのファインダーから目を離して、船長の方に顔を向ける。


「船長さん。……今、妙なものが……」

「ははは! うちのシャチたちに驚きましたか」

「いや……そっちじゃなくて……」


 もちろん、シャチの活躍にも驚いていたが、そっちは予備知識があった。訓練されたシャチが捕鯨船を守るという事になっていたのは、捕鯨船に同乗したときから聞いていたのだ。

 問題はシャチが銃撃されそうになった時の事……

 望遠レンズでその様子を見ていると、黒い小さな塊が銃を構えているポール・ニクソンに体当たりしてきたのだ。

 シャッターを切るのも忘れて見ていると、それが一匹の黒猫だと分かった。

 最後に猫はポールの頭に飛び乗った後、忽然と姿を消した。

 ポールのカツラと一緒に……

 実際は鷹壱号が連れ去ったのだが、速すぎてわからなかったのだ。


「猫が……? 見間違えでは?」

「しかし、船長……」


 会話は着信音で中断される。

 美樹本はスマホを取り出した。

 娘からのメールだった。

 メール添付されている写真には、中学校の制服を着た女の子が車椅子を押している様子が写っていた。

 車椅子には女の子と同じ年頃の少年が座っている。しかし、少年は目も虚ろで酷く衰弱していた。


「可愛いお嬢さんですね。車椅子の子は?」

「娘の幼馴染です。可哀そうに、交通事故に遭ってずっと意識が戻らないそうです」

「そうでしたか。何か緊急の用事ですか? 必要ならニュージーランドの空港までヘリを出しますが……」

「いえ。単なる近況ですよ。今日は天気が良かったから真君を車いすで散歩に連れ出したと……まさか? 医者に内緒で連れ出したんじゃないだろうな?」

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