動揺

事の発端はというと、いつかは分からないことだけど。

僕の夢は大工、だった。ある工業高校に入学し、建築を学んできた。

そして3年。建設研究部に入部したが自分の大工としての技術に落胆し、今では取り敢えず大学へ進学する事になった。内定は指定校推薦で貰い済み。

まあ、前置きはこれくらいにして。


もう11月になった頃だったかな。

休日、空いてある教室で友達を呼び、2人、迫ってくる資格試験日に向け必死だった。

工業高校に入学した者は、資格試験とは、切っても切れない縁なのだろうけれど。まあ大変だった。


「なあ、古川。何でこの学校はツーブロックがダメなんだ。お陰で髪がサラリーマンみたいな刈り上げだよ。」


お昼は、僕は古川と一緒に弁当をかっ食らいながらお喋りをしていた。

この古川は、僕の1番の仲良しかな。見た目は、眼鏡のオタクっぽい感じ。まあ、中身も同じ感じ。部活の柔道とか辞めてからか、太った気がする。ってか、あいつエナジードリンクをいつも飲んでいる気がするな。

お喋りの内容は大体ゲーム。次第にクラスメイトの話題になった。


「なあ、俺の同じ中学校だった女の子が1年にいるんだけどよ。」


急に古川は言った。


「そいつが俺ら3年の建築で、顔が整っているって言うか、カッコいい人がいる、と言ってるんだよね。」


「ん、僕らのクラスで?」


僕のクラスでカッコいい奴は、何人か思い浮かべられる。


「岩山くんとかか。」


「それがな、俺の目の前の人。」


………うそん。古川の変な言い回しもそうだが、まさかの僕?って驚いた。


「誰だよ、そいつ。」


「バレー部で、ゆうな、って言う子。」


「………うーん?分からん。」


古川の言うことはこうだ。

・建設研究部で活動している僕を発見。

多分その時に彼女は僕を知ったのだろう。

何となく僕も覚えている。彼女が製図の課題?をして放課後残っていて、その時ちょっと廊下ですれ違った覚えがある。

・体育祭ではしゃぐ僕を発見。

大縄跳びで、古川と隣同士でいたから見つかったのだろう。

・僕を発見しては古川にLINEで報告。

これはちょい謎、って言うか怖w

こういう女の子はたまにいるらしい。


僕はあんまり乗る気じゃない。理由は、まあ分かるよね。

ゆうな、って子はショートカットで、低身長。少し丸い。授業の為に建設科の棟へと移動すると、学年は違うが学科は同じだから、よくすれ違ったりする。その時には驚いてるのか、目をまん丸にしてこっちを見てくる。心の中で何か考えているようにも見えた。

僕は少しその挙動を気にしてはいたけど、そんな背景があったのか。

それからと言うものの、僕もゆうなって子を廊下ですれ違う度意識するようになっていた。僕はどうしたらいいのか分からなかった。


そして12月を向かえた。

部活が終わった後、駐輪場に向かうとクラスメイト達が屯していた。

色々な話をして盛り上がっている中、僕はゆうな、って子の話をしてみた。相談のつもりで。

すると何人か、その事を知る者がいた。


「え、何、古川言ったの?わー、マジか。」


浦賀は言った。浦賀は女好きって言うか、この高校の女の子と上手いこと繋がっている。最近、他校の子との関係を匂わせている奴だし。今回の件で、いい味方になるかも知れないって思った。


「うん、急に話し出してさ。僕ビックリした。」


「まー、そう、そうなんだよね。ゆうな、お前の事メッチャ気にしてるぜ。」


やっぱりか。いや、浦賀、女の子と仲良いなって事もあるが。女の子の事情とか知っているんだな。


「一回話してみたら?」


沖松は言った。元バレー部のエース。肌は驚くほど白く、ぽっちゃり。身長が有れば高校は違ったとよく言われている。ああ、ゆうなと同じ部活か。

うーん、何か恥ずかしいっていうか、初めての気持ちだった。日中いつも頭で思うことは、どうしたらいいんだろうって事。


そして次の日。

移動授業で建設科の棟に行くと、すれ違う。彼女は相変わらずの目をしている。いや、何か言えやって思うわ。自分から?無理無理無理。

放課後、昨日屯した奴らの仲介でゆうなと話す事に成功した。ゆうなが帰るところを捕まえたって感じで。建設科の棟にゾロゾロと入り、階段の踊り場に集まる。

僕、ゆうな、浦賀、沖松、石崎(クラスメイト)田端(同じく)

威圧感半端ないだろうなあ。あんな大勢で。1、2……6人で囲んでさ。

ゆうなは顔を隠して照れている。バレー部の仲良しな先輩である沖松にくっつき、度々引っ叩いていた。

いちいち動きがデカいな。って、全然目が合わない。


「おい、もう話に無らないじゃん。自己紹介していけば。」


浦賀が言った。色々と質問しては返した。


「好きな髪型とかありますか。」


ゆうなは落ち着いて質問していく。


「んー、特に無いです。」


「おい、お前カッケーな。」


「いや、髪型は何でもいい。」


と言うかどうでもいい。

髪型は似合えばそれで全然良いと思っているよ。どうやら、ゆうなは自分の髪型(ベリーショートカットに近い)をよく馬鹿にされてるらしい。クレラッ◯って。


「ゆうな、好きな子のタイプ聞いとけよ。」


沖松が言った。そしてゆうなは目を合わさずに質問した。

好きな子のタイプは、考えない事だった。今はOLが好みだけど。

可愛い、美人だなー、で終わりじゃないかって思っていたな。

中身?まあ、それは大前提だろ。僕はそれはもう身に染みている事さ。


「落ち着いた人かな。」


「あ………はい、静かにします。」


まあ、今日はそれで終わった。

周りはいやもっと詰め寄れよと言うんだけどね。僕には無理だよ。ゆうなは少し先で待っていた女友達の所に駆けていった。顔が真っ赤だった。


この先、僕は一体どうしたらいいんだろうと、何回もその言葉が流れる。

今まで、振ったことしかないし。でも、やっぱり付き合うという気は起きないんだ。

彼女は可愛いとは思う。でも、やっぱり全然駄目なんだよね。


「なあ、一緒に帰る?」


たまたま付いてきた石崎が珍しく誘った。俺は少し驚いた。


「え、う、うん良いよ。」


僕ら2人は仲は悪い。なんて言うんだろう、合わないっていうか。犬猿の仲だ。暫く喋っていなかった。


石崎。テニス部らしく肌が焼けて、身長は男にしては低い。髪のセンター分けに命をかける。


2人自転車を漕ぎながら帰る。

帰る方向は同じ。こうして一緒に帰るのは一年生以来だった。

僕は不思議な感覚に包まれていたよ。

案外、石崎は普通に喋るからさ、俺も喋ってみる。そうしているうち、仲良くなってきた気がする。

話題はゆうなの事。

たまたま居た石崎は、僕とゆうなの関係を気になったんか。


「もう見た感じ、お前次第じゃね。アレじゃあさ。付き合えよ。」


「んー、好きになればね。」


「ゆうな面白い子だよ。一緒に居て飽きないって言うか………」


変わりたい、とは思っていたよ。

もう、あの事件も5年前だ。

でも、僕は好きになっているかどうかと言うと、まだ好きになってない。何故か成りきれていない。悩みますね、そりゃ。うーん、って凄く。


「あーでも、ただ居て面白いからで付き合うと、前の浦賀みたいになるぞ。」


「そーなの?ま、前の浦賀?」 


「だ、だから、好きになってからでも良いんじゃね。付き合うのは。」


浦賀の事も気になるが、石崎はゆうなと休日遊ぶ事を提案した。


「遊ぶ………カラオケかな。」


「良いじゃん。ゆうな、歌上手いって話だよ。」


そして石崎からゆうなの連絡先を貰い(階段で交換すれば良いものを)、誘ってみる事にはなったんだ。

不安でしかないよ、あの時は本当に。

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