ASMR

エリー.ファー

ASMR

 これが金に変わるのか。

 疑っていたことは事実だ。

 何かを食べて、それを音にしてインターネットに流す。

 すると、それが見る間に再生回数を稼いで結果、金の成る木になる。

 意味が分からない。

 こんなものが好きな人間がいる、というのが未だに信じられない。

 私はそんなことを思ってはいる訳だが、実際、その恩恵を受けてしまっている。

 否定するわけにもいかない。

 ただ、疑いは持っている。

 壮大などっきりなのではないか、と。

 百万や一千万、億ではきかないほどの金額を動画によって稼いではいるのだが、そのすべてがASMRというやつである。

 幸せにはなったのだ。

 特に文句はない。

 家族を持つことはできたのだ。

 特に文句はない。

 娘に何不自由ない生活を送らせている。

 特に文句はない。

 本当に文句など何一つないのである。

 けれど。

 やはり信じることができない。

 ためしに、商品紹介というのもやってみたが全くと言っていい程再生回数は伸びなかった。これでは金は稼げない。

 次に自分が趣味でやっているマジックをやってみることにした。これでも金を稼ぐことはできなかった。

 ASMR。

 そこからの脱却を目指したのだ。

 何か、自分がASMRという得体のしれないものに依存しているのではないか、という強い不安があったためだ。いや、不安ではない、心配でもない。確信だ。

 強い確信。

 多くの人間がASMR動画を作りだし、それがあふれ出す。

 しかし。

 しかし、なのである。

 何故か私の動画だけが再生回数を順調に伸ばすのだ。

 新しく動画を作り、インターネットへと流す。

 気が付けば、あり得ない再生回数を叩き出す。

 金は増えるばかり。

 しかし。

 恐怖も増すばかり。

 多くの人間に質問をされる。

 何故ですか。

 どのような方法を使ったのですか。

 ASMR動画に、何かこだわりなどあるのでしょうか。

 コツを教えて欲しいのですが。

 ない。

 ある訳がない。

 考えたこともない。

 ただ、音を流しているだけなのだ。

 講演会をやってほしい、生で撮影風景を見せて欲しい、自己啓発系の本を出してほしい、プロデュースしてほしい、抱いてほしい、子供を認知してほしい、など。

 などなど。

 上手くいってはいるのだ。

 なのに。

 実感がない。

 成功とはこういうものなのかもしれないと、そう思いながら。

 もう、十年、二十年と生きてきた。

 これ以上の金はいらない。

 私は自分の動画の収益の受け取り手を探していた。そして、管理者も。

 多くの人が近づいてきたが、どうにも信用することができない。皆、金に目がくらんでいるように見えてしまう。

 確かに、私でさえこのASMRというものを理解していない。

 魅力も分かっていない。

 けれど。

 愛はある。

 ような気がしないでもないような気がする。

 とにかく、だ。

 そのような見合った人が出てくるまでは私がどうにかしなければならない。

 ASMRというものを勉強してみるか。

 それとも。

 単純に動画製作というものを一から勉強してみるか。

 ふさわしい人が現れるまでであるので、そこまで時間は待ってくれないだろう。

 どうにかしなければならない。

 けれど。

 けれども。

 少しだけ思うのだ。

 何かに付随して発生する音に魅力があるのならば、私の人生も同じように本来の目的からそれた部分、つまりは二次的な産物にも魅力があるのではないか。

 何が金になるのか。

 何もかも、ということではない。

 ということは、つまり、だ。

 

 私はそこでようやく、ASMRを知った。

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