人生の先輩は今日も後輩をからかい、からかわれる

小糸味醂

人生の先輩は今日も後輩をからかい、からかわれる

「はい、あげる。あんたに彼女ができた記念」


 こいつに昨日、彼女ができた。

 ここは幼なじみとして、そして人生の先輩としてちょっとアドバイスをしとかないとね。


「え?何?」


 こいつはいったい何を考えてるのか呆けた顔をしている。

 まあこんな顔になるように仕向けた・・・いや、狙ったのは私だけどさ。


「何ってあんた、これ見た事ない?中学の保健体育で習わなかった?」


「いや、そうじゃない。俺が言いたいのはいきなり登校中に、コンドームを、しかも箱ごと渡すか?」


 こいつはどっちかって言うとボケではなくツッコミタイプだ。それは昔から、それこそ幼稚園に入園する前から知っている。昔はそんなコイツの鋭いツッコミによく泣かされてたけど、それはもう子供の頃の話だ。

 お姉ちゃんである私には些細な事でしかない。本当にムカついた時は鉄拳制裁をしてリセットだ。

 って言ってもこいつも少しずつだけど社会性を身につけて加減を覚えたのか、最近のツッコミには優しさも含まれるようになってきた。

 殴る頻度が減ったのはちょっと寂しいけど、まあそれが大人になるって事なのかな?


「え?でも1回じゃ終わんないでしょ?2人ともまだ若いんだし」


 そう、こいつはたいした知能もない癖に体力だけはある。道路に面した私の部屋の窓。こいつが決まった時間に走り込みしているの、見えてるんだよね。

 高校に入ってから美術部に入るっていう謎の行動を起こす前、中学時代はその身長を活かしてサッカー部のエースとして君臨していた。

 身長を少しでも伸ばそうとして入ったバレー部で結局セッターしかさせてもらえなかった私とは40センチ程の身長差。はっきり言ってゴリラだね、ゴリラ。



「生々しいわ!しかもなんだよ若いって。お前も同い年じゃないか」


「私の方が先に生まれたからね」


 そう、私の方が先に生まれ、先にはいはいを始め、たっちも私が先。何もかも私の方がお姉さんなんだ。


「弟はお姉ちゃんの言うことを聞くもんだよ」


「誰がお姉ちゃんだよ・・・」


 あ、ちょっとふてくされてる。ふふっ、こいつのこの顔ってかわいくて結構好きなんだよね。


「あー・・・でもあんまり安い物じゃないんだから、プレゼントするのはこれっきりだよ?あ、ちなみにコンビニだと高いから、薬局とか、それか通販で多めに買って、送料を節約するのが良いと思う。ついでにポイントサイトを経由したら完璧ね」


 まあ私の場合は彼氏が用意してくれる。でも一応お守りとして常に鞄に忍ばせてるんだよね。


「いや、開けっぴろげ過ぎだろ。さすがに彼女の前じゃこんな話できないわ!」


「私も彼氏の前じゃこんな話できないよ」


 そう、こんな低身長な私だけど、こいつよりかは恋愛関連も進んでる。


「俺の前でもそんな話すんなよ」


「だって、もし間違いが起こったとしたらお互い不幸になるだけだよ?彼女の事が大切なら受け取りなさい!」


「いや、受け取らないなんて言ってねえし・・・ありがとよ」


 やっと受け取ってくれたよ。まあ私が渡さなきゃって思ってたから、もし受け取らなくても強引に鞄にねじ込んでたんだけどさ。


「お礼の言い方が素直じゃないところがちょっと気になるけど・・・まあ良いか。あっ、大丈夫だと思うけど、一応使用期限もあるから気をつけてね」


「いや、お前いつまでコンドームネタ引っ張るんだよ?」


「うーん、私が心配する気持ち、わかんないかな?例えばだよ、あんたの妹が将来、彼氏を連れてきたとしたら?」


 こいつの妹は現在小学5年生。将来なんて言わずとも、早ければもうすでに彼氏がいるような年齢だろう。さすがに私もそれは早いとは思うけど。


「そいつをぶん殴る」


「いやいやシスコン過ぎでしょ。そんな事言ってたら妹に嫌われるよ?」


「まあ、ぶん殴るのは冗談だけどさ。あと、ちょっとお前の気持ちが理解出来た」


 ああ、もう、そうやって照れ隠しする顔もかわいいな。


「うん、よくできました。あと女の子の体はデリケートなんだから、優しくしなきゃダメだよ」


「だから生々しいって!」


 こいつをからかうのはすごく楽しい。

 こいつって単純だから、からかってやるとすぐムキになるんだよね。


「あ、生々しいで思い出したけど、どんな雰囲気になったとしても絶対に生は・・・」


「ああ、もう、それ以上喋んな!」


 おっと、ちょっとやりすぎたか。まあ私も一応高2の17歳。うら若き乙女が朝っぱらからこんな話題をにこやかに話してたら社会的に死んじゃうからね。

 これぐらいにしとこう。


「ふふっ、あんたのその照れた顔、最高にかわいいんだよね。ずっとからかってられるわ」


 これは私の正直な気持ちだ。こんなかわいい反応をする幼なじみがいる私って、最高に幸せなんだろう。


「そう言うお前の笑った顔も最高にかわいいけどな」


「えっ!?」


 こいつ、そんな事を言う奴だったっけ?かわいいなんて私彼氏にしか言われた事ないぞ?ちょっ・・・ちょっと照れる・・・。

 こいつ、いったいどんな顔してこんな歯の浮くようなセリフを言ったんだろう?

 私は右側を歩くこいつを見上げてみた・・・。

 うわっ!めっちゃムカつくニヤケ顔をして私を見下ろしてる。


「ぐふぅっ!!」


 ムカついた私は怒りのままこいつの脇腹にグーパンを入れたのだった。

 あーあ、ムカついたらすぐに手が出るこの性格は直さなきゃな。私の大切な彼氏を殴ったりしたら大変だもん。


「ほら、早く来ないと遅刻するよ!」


 よく晴れた朝の通学路。少しひんやりとした爽やかな空気が漂うなか、私は振り返るとお腹を抱えてうずくまる幼なじみを急かすのだった。

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